2026.6.8

第12回学術フォーラム「発達障害に対する東と西の植物療法」

日程:2026年2月1日(金)
実施方法:オンライン
理事/学術委員 中津川さゆ美

第12回学術フォーラムが、発達障害をテーマに2026年2月1日オンラインにて開催されました。 近年、自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)といった発達障害への関心が高まっています。これらの障害は、社会性やコミュニケーションの困難、感覚過敏などの特性により、本人や家族が日常生活で大きなストレスを抱えるケースが少なくありません。現在、根本的な治療薬
が乏しい中で、心身のバランスを整え、生活の質(QOL)を向上させるアプローチとして、漢方薬やメディカルハーブ、アロマセラピーといった植物療法の可能性が注目されています。今回のフォーラムでは、基礎研究と臨床実践の双方から、以下の2題の講演が行われました。

藤原博典先生 「発達障害に対する治療薬開発における生薬・漢方薬のリポジショニング」

 藤原先生からは、既存の漢方薬やハーブから発達障害に有効な新たな薬効を見出す「ドラッグ・リポジショニング」の研究成果が報告されました。マウスを用いた基礎研究において、これまで認知症や精神症状に用いられてきた「抑肝散」や「加味逍遙散」に加え、かぜ薬として知られるネガティブコントロール目的だった「桂枝湯」にも、発達障害の社会性低下や不注意行動を予防・改善する効果が確認されたという驚きの報告でした。
また、当協会の研究助成により実施された研究では、ドパミンやセロトニンといった神経伝達物質への作用に着目し、数あるハーブの中から「ダンディライオン」と「ミルクシスル」には社会性、「イチョウ」と「セントジョーンズワート」には衝動性を改善する効果が認められたことが紹介されました。これらの研究は、副作用の少ない身近な植物が、将来的に発達障害の支援に大きく貢献する可能性を示唆しています。

久保浩子先生 「発達障害支援のためのアロマセラピー」

 久保先生からは、児童発達支援の現場(療育アロマ)におけるアロマセラピーの具体的な実践例が報告されました。香りは、大脳辺縁系にダイレクトに働きかけることで、言葉によるコミュニケーションが難しい子どもたちのパニックを瞬時に鎮めたり、自己表現を促したりするツールとして活用されています。 研究面では、NIRS(光トポグラフィー)を用いた脳血流測定により、ラベンダーの香りが大人の発達障害当事者の脳の抑制機能を活性化させる可能性が示されました。また、アロマを用いたタッチング(マッサージ)は、愛情ホルモンと呼ばれる「オキシトシン」の分泌を促し、親子間の信頼関係構築や自律神経の調整に寄与します。このようにアロマセラピーは香りとタッチングを通して、発達障害者の「こころ」「からだ」「関係性」を育む際の大きな助けになり得ることが強調されました。

パネルディスカッション

 林真一郎理事長を交えたディスカッションでは、嗅覚がなくても精油成分が肺や腸の受容体を通じて作用する経路が議論され、嗅覚に頼らない療法の可能性が示されました。また漢方薬やハーブを活かした補完療法が、神経伝達物質の調整だけでなく、心身を「土台から整える」という包括的な役割を担い、基礎研究から臨床へとつながっていくことへの期待が語られ、非常に有意義な場となりました。

【演者プロフィール】
●藤原博典(ふじわら・ひろのり)。東北大学大学院で博士(薬学)取得。2019年より医療創生大学准教授。中枢疾患の発症機構の解明並びに漢方薬による治療効果の検証のための基礎研究を専門とし、これまで様々なモデル動物を用いて、認知症や発達障害に対して有効な漢方薬の探索を行っている。
●久保浩子(くぼ・ひろこ)。薬剤師。医学博士。IFA 認定アロマセラピスト。医療法人社団孝敬会 朱クリニック。株式会社プライム薬局亀有店。Hiro Nature 代表。共立薬科大学薬学部(現慶応大学薬学部)卒業。2000年に英国IFA認定資格取得。2015年昭和大学大学院で博士(医学)取得。2022年ECサイト『Soomaali(ソマリ)』をオープン。Hiro Natureを立ち上げる。