2026.9.21

コリアンダー(パクチー)はアレルギーを防げるか:その可能性を探る

奈良女子大学 生活環境学部食物栄養学科 助教

小原 理加

香辛植物と機能性

香辛植物は近年の日本の食生活で身近な存在となり、風味づけだけでなく健康面での価値からも注目されている。スパイスは芽・葉・種などの葉以外の部分、ハーブは主に生の葉を指すなど、植物の部位によって名称が区別される¹⁾。これらは古くから食品の保存性向上や栄養補給、生薬として利用されてきた歴史をもち、現代では栄養・健康の両面で利点をもつ食品素材として評価されている²⁾。

香辛植物が注目される理由の一つは、その保健機能にある。代表的な作用として、抗アレルギー作用、抗酸化作用、抗炎症作用が挙げられ、これらは免疫調整や生活習慣病予防にかかわる点から研究が進んでいる³⁾。例えば抗アレルギー作用はアレルギー症状の緩和に役立つ可能性が示されており、食物アレルギーや季節性アレルギーへの応用も期待されている。ただし、食品は薬剤のように一度の摂取で強い効果を示すものではなく、日常的かつ継続的な摂取が機能性を発揮する鍵となる。香辛植物を日々の食事に取り入れることで、無理なく健康維持に役立てられる点が大きな利点といえる。

このように、スパイスやハーブは単なる調味素材にとどまらず、健康を支える機能性食品素材としての価値が高まっている。今後、香辛植物の成分研究が進むことで、より多様な健康効果の解明や新たな食品利用の可能性が広がると考えられる。

コリアンダー(Coriandrum sativum L.)について

コリアンダー(Coriandrum sativum L.)はセリ科に属する一年草で地中海地方を原産とする植物である。近年、日本でも「パクチー」ブームとして人気を集めているが、その歴史は古く、古代ギリシャの文献⁴⁾に記載が見られるほか、古代エジプトではツタンカーメン王墓からコリアンダーの種子が出土した⁵⁾とされ、少なくとも紀元前1500年頃には知られていたと考えられる。現在では、ロシア、インド、モロッコ、ポーランドなど世界各地で広く栽培されている。利用形態は多様で、生葉、乾燥葉、種子、精油など用途に応じて用いられる⁶⁾。

種をまいてから50〜60日で収穫期を迎え、草丈は20cm以上が収穫の目安とされる。葉は生育段階により形態が異なり、幼葉ははじめ細長い双葉であるが、本葉になるにつれギザギザと細かく羽状に裂ける。生葉は通称パクチーと呼ばれ、独特の芳香を有し、サラダやスープ、エスニック料理の香味野菜として利用される。乾燥葉は香りが穏やかになり、スパイスとして煮込み料理などに使われる¹⁾。花は白色から淡紅色の散形花序を形成し、結実後に球形の果実(一般に「種子」と呼ばれる)を生じる。種子はピクルスやカレーのスパイスとして用いられる⁷⁾、⁸⁾。さらに、アーユルヴェーダなどの伝統医学では、コリアンダーは薬用植物としても重視され、様々な疾患の治療薬として使用されてきた。例えば、種子は消化不良、吐き気、赤痢などの消化器系疾患の改善に、葉は食欲増進や消化促進に用いられてきた⁶⁾、⁷⁾、⁹⁾。渡辺らによって、コリアンダー種子に抗アレルギー作用が見出された¹⁰⁾。そこで、我々はコリアンダー(葉部及び茎部)の抗アレルギー作用について検討することにした。

食物アレルギーについて

食物アレルギーは、食物中のタンパク質に対して免疫系が過剰に反応することで起こる疾患であり、近年の食に関する健康課題のなかでも重要性が高まっている。ごく少量のアレルゲンでも症状が出ることがあり、軽度のじんましんから、生命を脅かすアナフィラキシーショックまで重症度は幅広い。症状には、腹痛・嘔吐・下痢といった消化器症状、じんましんや湿疹などの皮膚症状、咳や喘息などの呼吸器症状が含まれ、日常生活の安全性や食の選択に大きな影響を与える¹¹⁾。

一般的な予防・対策としては、原因となるアレルゲンを含む食品を除去する「除去食」が用いられる。しかし、除去食は栄養バランスの偏りや食の楽しみの減少につながる可能性があり、特に成長期の子どもにとっては慎重な対応が求められる¹²⁾。そのため、食品に含まれる抗アレルギー作用をもつ成分の研究が進められており、これらを明らかにすることでアレルギー発症の抑制や症状の軽減が期待されている。食品由来の抗アレルギー因子の活用が進めば、アレルギーをもつ人でもより多様な食事を楽しめるようになり、栄養面の改善だけでなく生活の質(QOL)の向上にもつながる可能性がある。食物アレルギーへの理解を深め、適切な予防と新たな食品利用の可能性を探ることは、今後ますます重要になると考えられる。

アレルギーの発症機序

食物アレルゲンが体内に入ると、免疫系がその物質を「異物」と認識し、抗原特異的IgE抗体を産生する。産生されたIgE抗体は肥満細胞の表面に存在する高親和性IgE受容体(FcεRI)に結合し、肥満細胞は「次回同じアレルゲンがきたら反応する」という準備状態になる。その後、同じアレルゲンが再び体内に入ると、細胞表面に結合したIgE同士がアレルゲンによって架橋され、肥満細胞が急速に活性化する。活性化された肥満細胞は、細胞内に蓄えていた顆粒が放出される「脱顆粒反応」が起こる(図1)。顆粒にはアレルギー症状の主要な原因となるヒスタミンなどの化学伝達物質が含まれており、これらが放出されることでアレルギー反応が引き起こされる¹³⁾。なお、このIgE依存性即時型アレルギー反応は、食物アレルギーに特異的なものではなく、花粉症においても同様の免疫学的機序が認められる。

図1 脱顆粒反応のメカニズム(出典:「食物アレルギーのメカニズム」(厚生労働省)¹⁴⁾をもとに加工して作成)

脱顆粒抑制活性の検討について

抗アレルギー作用の評価として、肥満細胞株であるRBL-2H3細胞(ラット好塩基球白血病細胞)を用い、脱顆粒抑制作用を指標とした検討を行った。本研究では、RBL-2H3細胞から放出されるβ-hexosaminidaseの抑制能を測定することで、コリアンダー水溶性抽出物に含まれる脱顆粒抑制に寄与する成分の解明を目的とした。

コリアンダーの抽出・分画

コリアンダー(提供:エスビー食品(株))の葉部及び茎部を、室温下で70%アセトン水溶液を用いて抽出した。その後、極性の異なる溶媒を使って分画し、ジクロロメタン可溶部及び水可溶部を得た。得られた水可溶部はMCI gel C.C.(column chromatography)により分画し、水溶出物及びMeOH(methanol)溶出物を得た(図2)。

図2 コリアンダーの抽出・分画

コリアンダー水溶性画分(水可溶部、水溶出物、MeOH溶出物)のRBL-2H3細胞における脱顆粒抑制活性

水可溶部、水溶出物、MeOH溶出物について、RBL-2H3細胞を用い、アレルギー反応の初期段階である脱顆粒をどの程度抑制できるかを示す脱顆粒抑制活性と、細胞に対する影響を示す細胞毒性を評価した。

水可溶部では、5〜10mg/mLの濃度において細胞毒性を示すことなく脱顆粒抑制活性が認められた。水溶出物も同様に脱顆粒抑制活性を示したが、10mg/mLでは細胞毒性が確認された。一方、MeOH溶出物は1.25mg/mLという低濃度で脱顆粒抑制活性を示し、単位重量当たりの活性が水溶出物よりも高いことが明らかとなった(図3)。また、各分画物の含有率を比較すると水可溶部に対して、水溶出物は75%と大部分を占め、一方でMeOH溶出物は5%と少量であった。まずは、含有率は低いものの、単位重量当たりの活性が強いMeOH溶出物に含まれる活性寄与成分の特定を進めた。

図3 RBL-2H3細胞におけるコリアンダー抽出物の脱顆粒抑制活性 (●:control / ■:水可溶部 / ▲:水溶出物 / ◆:MeOH溶出物)

MeOH溶出物分画物の成分同定

得られたMeOH溶出物は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析を行いながらカラムクロマトグラフィーで分画した。最終的に得られた各画分について核磁気共鳴(NMR)測定を行い、その結果、既知化合物としてtryptophane, 7,8-dihydroxycoumarin 8-O-β-D-glucopyranoside (dihydroxycoumarin glucoside), quercetin 3-O-β-glucuronide (quercetin glucuronide), rutin, adenosine, phenylalanineの計6種の化合物を単離・同定した(図4)。

新規化合物の同定

新規化合物の同定は、HPLC分析、NMR分析に加え、高分解能質量分析(HR-ESIMS)、円二色性スペクトル(CDスペクトル)測定など、複数の機器分析を組み合わせて行い、化合物の基本骨格だけでなく、立体化学的特徴や官能基の配置についても明らかにした。

①Compound 1の構造決定 精密な測定により分子の重さや組成が分かるHR-ESIMSから、本化合物の組成は、C₁₆H₂₀O₉であることが明らかとなった。分子の中の水素や炭素などの原子がどのようにつながっているかを調べ、分子の形や構造を推測できるNMR測定では、芳香環(ベンゼン環)に由来する特徴的なシグナルが観測され、本化合物は1,2,3,5-四置換ベンゼンを有することが示唆された。さらに、オキシメチン(>CH-O-)、メチレン(-CH₂-)、メチル基(-CH₃)の結合関係から、dihydroisocoumarin骨格を含むことが考えられた。また、NMRで得られた炭素や水素の相関情報から、芳香族炭素、メチレン炭素、カルボニル炭素などの位置関係が明らかとなり、文献に報告されている3-methyl-6,8-dihydroxyisocoumarin moiety (6-hydroxymellein)の値と一致することが確認された¹⁵⁾、¹⁶⁾。また、糖の1位を示すアノメリックプロトンが確認され、本化合物が配糖体であることが分かった。糖部分のシグナルが密集しており分かりにくかったため、アセチル化を行ったところ、導入されたアセチル基の数と結合の様子から、糖はβ-glucoseであると判断した。円偏光の吸収の向きから立体構造を調べるCDスペクトルでは、(3R)-6-hydroxymelleinとは逆の傾向を呈し、一方で、(3S)-3-methyl-6,8-dimethoxyisocoumarinとは類似していた¹⁷⁾。これらの結果を総合し、化合物の立体配置は3Sと判断した。以上の解析結果から、compound 1は(3S)-3-methyl-6-hydroxyisocoumarin 8-O-β-D-glucopyranosideと同定した(図5)。

図4 MeOH溶出物分画物のHPLCクロマトグラム / A:MeOH溶出物のクロマトグラム / B:MeOH溶出物のクロマトグラム(phenylalanine検出用) 図5 (3S)-3-methyl-6-hydroxyisocoumarin 8-O-β-D-glucopyranoside (Compound 1)

②Compound 2の構造決定 HR-ESIMSから、本化合物の組成はC₁₇H₂₂O₁₀であることが明らかとなった。NMR解析では、芳香族シグナルの特徴から、4,5,6-三置換ベンゾフラン環を有することが示唆された。また、オキシメチン、メチル基、メトキシ基(-OCH₃)の結合関係から、furodihydroisocoumarin骨格をもつことが明らかとなった。また、アノメリックプロトンが確認され、本化合物が配糖体であり、アセチル化の結果、β-glucoseが結合していることが分かった。まず、本化合物を加水分解して得られたアグリコン(糖が外れた本体部分)を解析したところ、¹H-NMR及びCDスペクトルは既報のcoriandrone Eと一致した¹⁸⁻²¹⁾。本化合物を配糖体として評価すると、糖及びメチル基の相対配置はtransであることが分かった。以上より、compound 2は(7S,8R)-7,8-dihydro-8-β-D-glucopyranosyloxy-4-methoxy-7-methyl-5H-furo[2,3-g][2]benzopyran-5-oneと同定した(図6)。

図6 (7S,8R)-7,8-dihydro-8-β-D-glucopyranosyloxy-4-methoxy-7-methyl-5H-furo[2,3-g][2]benzopyran-5-one (Compound 2)

含有成分の脱顆粒抑制活性

MeOH溶出物から同定された8種類の成分について、RBL-2H3細胞を用いた脱顆粒抑制活性との関連を検討した。 Adenosineは画分中に一定量含まれていたものの、MeOH溶出物の脱顆粒抑制活性には寄与しない、あるいは寄与が極めて小さいと判断された。Tryptophanとphenylalanineは、いずれも細胞毒性を示さない濃度で脱顆粒抑制活性を呈した。特にtryptophanは、文献報告²²⁾と同様にphenylalanineよりも強い活性を示し、含有量が少ないにもかかわらず画分全体の活性に大きく寄与していることが示唆された。

Dihydroxycoumarin glucosideは比較的高い含有率で検出され、250〜500μg/mLで細胞毒性なく脱顆粒抑制活性を示した。本化合物に抗アレルギー作用が認められたのは本研究が初めてであり、MeOH溶出物中の主要な活性寄与成分の一つであると考えられた。 Quercetin glucuronideは250μg/mL以上でβ-hexosaminidase放出抑制作用が確認され、既報²³⁾のヒスタミン放出抑制作用とも一致する結果であった。Rutinは244μg/mLで脱顆粒抑制活性を示し、画分全体の濃度から考えても、rutinが活性に寄与している可能性が示唆された。Compound 1は0.63〜2.5mg/mLの範囲で細胞毒性なく脱顆粒抑制活性を示した。含有画分の活性と比較しても比較的高い抑制率を示した。Compound 2も脱顆粒抑制活性を示したが、活性発現に必要な濃度が画分中の含有量に比べて高く、含有画分の活性への寄与は限定的であると考えられた。ただし、新規化合物として抗アレルギー作用を有する点は重要である。

水抽出物の脱顆粒抑制活性

池田らによると、コリアンダー熱水抽出物中に含まれる2-O-caffeoyl-hydroxycitric acidが、RBL-2H3細胞における脱顆粒を有意に抑制する活性成分であることが報告されている²⁴⁾(図7)。この成分は、MeOH溶出物から単離された活性成分と同程度の脱顆粒抑制活性を示す一方で、MeOH溶出物に匹敵する量が熱水抽出物中に含まれていた²⁴⁾。本研究の分画条件では、この活性成分は水溶出物に含まれていた。従って、本研究で得られた水溶出物の脱顆粒抑制活性にも、2-O-caffeoyl-hydroxycitric acidが寄与する可能性が示唆された。

図7 2-O-caffeoyl-hydroxycitric acid

おわりに

食物アレルギーが近年の重要な健康課題として注目されるなか、日常的に摂取される食品からアレルギー反応を予防・抑制する可能性を探ることは大きな意義をもつ。こうした背景から、本研究では日常的に利用される香味野菜であるコリアンダーに着目し、その抗アレルギー作用をRBL-2H3細胞におけるβ-hexosaminidase放出抑制(脱顆粒抑制活性)を指標として評価した。

コリアンダーの水溶性画分に脱顆粒抑制活性が認められたため、さらに分画・精製を進めた結果、MeOH溶出物から新規化合物2種類を含む合計8種類の成分を分離・同定した。各化合物について活性を評価したところ、adenosineを除く成分はいずれも脱顆粒抑制作用を示したものの、単独ではコリアンダー水可溶部全体の活性を十分に説明できるほどの作用を示す成分は存在しなかった。一方で、水溶出物はMeOH溶出物と比較すると単位重量当たりの活性は低かったものの、含有量が多いことが特徴であった。池田らの研究より、水溶性画分には2-O-caffeoyl-hydroxycitric acidが比較的多量に含まれており、脱顆粒抑制に寄与することが明らかとなっている。これらの知見を踏まえると、MeOH溶出物と水溶出物の両方の画分が脱顆粒抑制活性に寄与しており、複数成分が相補的あるいは協調的に作用することで活性が発現していると考えられた。成分間の相乗作用の有無を明らかにすると共に、各成分が関与する脱顆粒抑制機構の解明を今後の課題として検討していきたい。

謝辞

この度、執筆の機会をお与えくださいました日本メディカルハーブ協会の皆様に深く御礼申し上げます。本記事の内容はFitoterapia, 163, (2022), 105298に掲載された「Identification of components in coriander (Coriandrum sativum L.) inhibiting degranulation of RBL-2H3 cells」に関する論文をもとに、専門外の方にも分かりやすくまとめたものです。あわせて、エスビー食品(株)ならびに共著者の先生方にも改めてお礼申し上げます。

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奈良女子大学 生活環境学部食物栄養学科 助教
小原 理加 おはら りか
奈良女子大学大学院人間文化総合科学研究科共生自然科学専攻修了(博士(学術)取得)。2023年から奈良女子大学生活環境学部食物栄養学科助教。食品中の機能性成分の同定および定量、ならびに調理操作による成分変動の評価を主な研究テーマとしている。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第76号 2026年6月