2026.9.11

植物たちが秘める健康力:〜日本人の長寿を支える“ショウガの力” 〜

甲南大学名誉教授

田中 修

「毎日食べるものが、病気を防ぎ、健康を保つ」という意味が込められた「医食同源」という言葉があります。これは、1972年、NHKの「きょうの料理」という番組で、臨床医であった新井裕久氏が、中国でいわれていた「食べるものが薬である」という考えをもとにつくられた語とされます。この語の通りに、日々食べる食材はどれも健康に大切ですが、その象徴となる野菜の一つがショウガ(生姜)であり、薬味や香辛料としても利用されます。

ショウガについては、本誌Vol.60の本欄#09で、「食べる万能薬」の一つとして、脂肪を燃焼させる効果や、その効果を期待した加工食品が多く開発されていること、「がり」という奇妙な名前の由来などを紹介しました。また、本誌Vol.71では、ショウガの植物としての特徴や栽培方法が解説されています。そこで、今回は、ショウガの生薬としての働きに焦点を当てて紹介します。

ショウガの“健康力”とは?

ショウガは、熱帯アジアを原産地とする植物で、古代から、根茎に生薬としての機能が知られ、薬用植物として栽培されてきました。日本には、奈良時代より以前に中国から伝えられました。

ショウガには、ビタミンや、マンガンなどのミネラルと共に、「ジンゲロール」や「ショウガオール」、「ジンゲロン」などの成分が含まれます。

ジンゲロールは、新鮮な生のショウガに多く含まれる辛み成分で、強い殺菌作用があり、食中毒の防止に働きます。また、血管を拡張して、血流をよくする作用があるので、身体が温められ、発汗を促します。

ショウガを加熱したり、乾燥したりすると、ジンゲロールは、新鮮な生の状態の時にはあまり存在しないショウガオールという物質に変化します。この物質は、辛みが強く、胃腸を刺激して、内臓の働きを活発にし、血行を促進する作用により、身体を温め、冷え性の改善をもたらします。

ジンゲロンは、ジンゲロールが加熱、乾燥されることで増加する成分で、殺菌作用をもちます。胃液の分泌を促し、食欲を増進し、消化吸収力を高めます。脂肪を燃焼する効果もあり、発汗を促進します。

使われている代表的な漢方薬

ショウガは、「百邪を防御する」といわれるように、いろいろな病気を予防するとされます。実際に、外用薬として湿布に使われたり、かぜの時にはショウガ湯として飲まれたりします。それだけでなく、生のものは「生姜(ショウキョウ)」、蒸して乾燥させたものは「乾姜(カンキョウ)」と呼ばれる生薬となり、多くの漢方薬の成分となっています。

生姜が含まれている主な漢方薬は、「葛根湯(かっこんとう)」、「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」、「加味逍遙散(かみしょうようさん)」、「六君子湯(りっくんしとう)」などです。葛根湯は、かぜの初期に効果があり、秋の七草に詠まれるクズ(葛)の根が主成分ですが、前回、紹介した芍薬や甘草などと共に、生姜が含まれます。補中益気湯は、食欲の不振を改善し、疲労の回復をもたらし、六君子湯も食欲の不振を改善するとされます。 「当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)」と「桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)」と共に、女性の三大漢方薬の一つといわれる加味逍遙散は、更年期障害などに効果があるとされます。

乾姜が含まれているのは、「小青竜湯(しょうせいりゅうとう)」、「大建中湯(だいけんちゅうとう)」、「甘草乾姜湯(かんぞうかんきょうとう)」などです。小青竜湯は、花粉症を抑えるといわれ、乾姜が芍薬、甘草などと共に含まれます。大建中湯は、胃腸の働きを整え、腹痛を改善します。甘草乾姜湯は、甘草と乾姜で構成され、体力虚弱による冷えや頻尿、めまいなどの症状に効果があります。

期待される、新しい“健康力”とは?

ショウガが健康に貢献する力は、近年、次のように、血糖値の上昇や骨粗しょう症の発症を抑える作用や、抗がん効果などが発表されています。いずれも、動物での実験ですが、人間にも同じ効果があることの立証が期待されます。

2004年に、農研機構から、ショウガの成分に血糖値の上昇を抑える効果が見出されました。ショウガの抽出物を与えた糖尿病のモデルマウスで、与えないマウスに比べ、糖を与えた後の血糖値の上昇が低いことが示されたのです。

2021年に、三重大学の研究で、骨粗しょう症の発症を抑制する効果が、ショウガに含まれるジンゲロールの一種でもたらされることが明らかにされました。骨粗しょう症は、加齢などが原因で、骨を壊す働きが骨をつくる働きより上回ると発症します。熱帯魚のゼブラフィッシュを用いた研究で、ジンゲロールの一種が骨を壊す働きを抑制することが見出されたのです。

2023年に、大阪公立大学から、「東南アジアのショウガに抗がん効果が確認された」と発表されました。東南アジアでスパイスや漢方薬の原料として栽培される、ショウガの仲間である「ケンチュール」という植物から抽出した液を、がんになるはずのモデルマウスに与えると、抗がん効果が確認できたというものです。

甲南大学名誉教授
田中 修 たなか おさむ
たなか・おさむ 京都大学農学部卒業、同大学院博士課程修了(農学博士)。米国スミソニアン研究所博士研究員などを経て、現職。近著に、『誰かに話したくなる植物たちの秘密』(大和書房)、『かぐわしき植物たちの秘密』(山と渓谷社)、『植物たちに心はあるのか』(SB新書)、四季折々の植物の個性と生きぬく力を著した『雑草散策』(中公新書)など。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第76号 2026年6月