コリアンダーの植物学と栽培
今回は、コリアンダーの特徴や栽培方法などを、植物学の視点で解説します。
分類・名称
分類
コリアンダー(coriander)はセリ科コリアンドルム属(コエンドロ属;Coriandrum)植物です。World Flora Online(2026)には、コリアンドルム属に2種がアクセプトされています。コリアンダー以外は、Coriandrum tordylium Bornm.(コリアンドルム・トルディリウム)で、ワイルドコリアンダー(wild coriander)などと呼ばれ、コリアンダーの原種と考えられています。レバノン〜トルコに自生し(Ali et al., 2026)、消化器疾患や肌トラブルなどに用いられるほか、料理の風味づけに使われるとされるものの(Selina Wamucii, 2026)、油管をもたないとの記述もあり(Türkiye Bitkileri, 2026)、香りなどは不明です。
このほか、表(p.25)に示すように、コリアンダーと名のつく、コリアンドルム属以外の植物が2種あります。一つは、同じセリ科エリンギウム属のロングコリアンダーで、もう1種は、タデ科ペルシカリア属のベトナムコリアンダーです。これらはコリアンダーと似た香りを有するため、コリアンダーの代用もしくは同等に用いられています。
名称
学名の属名の「Coriandrum(コリアンドルム)」は、ギリシャ語で「コリアンダー」を意味する「κορίαννον(koriannon)」を語源とし、悪臭を放つ「トコジラミ」の意の「κόρις(koris)」と「アニス」の意の「ἄννησον(annson)」の合成語から派生したとする説や、「キャラウェイ」や「クミン」の意の「καρώ / κάρον(karō / karon)」に由来する説などがあります。 種名の「sativum(サティウム)」は「栽培された」を意味するラテン語形容詞の中性形です。
和名は、「胡荽(こすい)」や「古仁之(こにし)」、「椿象草(かめむしそう)」、「コエンドロ」、「香菜(こうさい)」など複数あり、渡来した時代ごとに新しい名前がつけられています。最も古い渡来は平安時代であり、当初は中国名の「胡荽」から「胡荽」と呼ばれていました。中国名の「胡荽」はペルシャ語の「koswi」を語源とし、前漢時代に張騫(B.C.175〜114)が、胡(西方の中央アジアなどの遊牧民族)から持ち帰ったとされています。胡麻や胡椒、胡瓜などの「胡」も西方から伝わったことに由来します。中国ではその後、「香荽(こうずい)」と呼ばれ、和名の「古仁之」は「香荽」の音読みの訛りに当て字をしたとされています。「コエンドロ」はコリアンダーのポルトガル語の「coentro(コエントロ)」の訛りとされており、南蛮貿易でポルトガルから伝来した際に名づけられたものです。「香菜(こうさい)」は中国名の「香菜(シャンツァイ)」の日本語音読みで、1972年の日中国交正常化以降に起こった中国野菜ブームで導入された際の名称です。その後、1980年代の本格的なハーブブームとエスニック料理ブームでコリアンダーが普及、定着し、タイ料理の影響で今ではタイ語の「パクチー」の名が浸透しています。農林水産省では「コウサイ(香菜)」と呼んでいます。
一方で、1970年代にはコリアンダーの果実が「コリアンダー」あるいは「コリアンダーシード」の名でスパイスとして販売されるようになります。コリアンダーという名称はあくまで植物名です。乾燥果実(シード)をコリアンダー、葉をパクチーと呼び分けている記述を目にすることがありますが、これではどの部位か相手に伝わりません。葉を丁寧に「コリアンダーの葉」もしくは「パクチー」と呼び、乾燥果実を「コリアンダーシード」あるいは「コリアンダーの果実」と呼びます。
タイ語のผักชี(パクチー)は、「葉」を意味する「ผัก(パック)」+「尼僧」を意味する「ชี(チー)」の合成語で、葉の形が尼僧の頭に似ていることに由来するともいわれています。なお、タイ語でコリアンダーシードは「種子」の意の「เม็ด(メッ)」をつけて「เม็ดผักชี(メッパクチー)」です。 ベトナム語では、葉をrau mùi(北部ではザウムイ、南部ではラウムイと発音)もしくは南部でngò rí(ンゴーリー)と呼び、シード(乾燥果実)をquả mùi(クアムイ)と呼びます。 ヒンディー語では、コリアンダーを「धनिया(ダニヤ)」といい、葉を「धनिया पत्ती(ダニヤ・パティ)」(パティは葉の意)もしくは「हरा धनिया(ハラ・ダニヤ)」(ハラは緑の意)といいます。 中南米では、葉とシードを区別なく同じ単語で呼ぶことが多く、スペイン語圏では一般に、「cilantro(シラントロ)」と呼ばれ、国によって訛りもあります。ブラジルではポルトガル語で「coentro(コエントロ)」です。なお、米国はヒスパニック料理の普及の影響で、コリアンダーの単語が通じず、シラントロと呼ばれます。 英国では葉はコリアンダー、乾燥果実はコリアンダーシードと呼ばれます。
人とのかかわりの歴史
コリアンダーは、地中海沿岸北東部原産で、イスラエルの先土器新石器時代の洞窟から果実が発見されており、B.C.6000年頃には利用されていた可能性があります(Önder, 2018)。 古代エジプト時代には、ツタンカーメン王の墓からも果実が発見されており、栽培されていた可能性があります。『エーベル・パピルス』(B.C.1550年頃)にはコリアンダーの利用方法が記されています。 ヒポクラテス(B.C.460頃-370頃)は果実を胸焼け防止や催眠に用いると述べています。 大プリニウス(A.D.23-79)は『Naturalis historia(博物誌)』の中で、コリアンダーの属名をはじめて用いたとされ、果実を薬用に紹介しています(Blumenthal, 1998)。 ディオスコリデス(A.D.40頃-90頃)は『De materia medica(薬物誌)』の中で、「コリアンダーには冷却作用があり、パンや大麦の粒と一緒に塗ると丹毒や帯状疱疹を治す。蜂蜜とレーズンと一緒に塗ると夜間に最も痛む膿疱、睾丸炎、癰を治療する。砕いたトウモロコシと一緒に塗ると腺の腺病性の腫れや腫瘤を溶かす。少量の果実をブドウシロップと一緒に飲むと腸内寄生虫を駆除し精子の生成を促進するが、摂りすぎると危険なほど思考プロセスを阻害する。そのため過剰にかつ継続的に飲まないように注意。白鉛またはリサージ、酢、バラの軟膏で塗った汁は、炎症を起こした表面の腫瘍に効果がある」と述べています(Beck, 2005)。 『千夜一夜物語』には媚薬として登場します。 17世紀にフランスではカルメル会修道女の作った万能化粧水のカルメル水(Carmelite water)にコリアンダーシードが重要な役割を果たしています。
伝統医療
アーユルヴェーダでは地上部を麻疹の治療に用いてきました。また、果実には、駆風、利尿、強壮、健胃、胆汁分泌促進、解熱、去痰、鎮痙、催乳、通経、催淫などの作用が知られています。 中薬では、植物名を芫荽(げんすい)、その根つきの全草を胡荽(こずい)(異名:香荽、胡菜、園荽、芫荽、莞荽など)と呼んで、春に日干しして乾燥した全草を、小児天然痘を早く発疹させたい場合に胡荽酒を作って顔以外にかけたり、子どもの丹毒や蛇毒の治療につき汁を塗布したり、小腸積熱や小便不通の治療に内服したり、脱肛の治療に焚いた煙を燻ずるなどの処方例があるとしています。また、果実を胡荽子(異名:芫荽子)と呼んで、麻疹の初期で発疹しない場合の治療に炭火で煮て蒸気を病室に充満させたり、下痢や血便の治療に温服したり、痔疾や痔瘻の治療に内服したり、脱肛痔瘻の治療に燻したり、歯痛の治療に煮詰めた液を口に含んでから吐き出したりするとしています(中薬大辞典)。 近年では、コリアンダーの抗アレルギー作用や抗炎症作用などの最新研究が注目されています。これらの詳細は、本誌の「コリアンダー(パクチー)はアレルギーを防げるか:その可能性を探る(小原理加)」を参照ください。
現代における人とのかかわり
コリアンダーは、熱帯アジアや中南米を中心に、葉や根、時に茎はフレッシュでハーブとして、完熟した乾燥果実(コリアンダーシード)はホールのままあるいは粉末でスパイスとして、各国の重要な伝統食に用いられています。なお、コリアンダーの葉と共に、中南米原産のセリ科のロングコリアンダーや、東南アジア原産のタデ科のベトナムコリアンダーの葉が、似た香りのため、同様に利用されています。
タイ料理では、「パクチー」をメインとする料理はなく、フレッシュな葉や根、時に茎を、トムヤム(スープ)やクイッティアオ(ライスヌードル)、パッタイ(焼きそば)、カオパッ(チャーハン)、ヤムウンセン(春雨サラダ)など、あらゆる料理のトッピングに用い、タイ料理を特徴づけています。また、西洋のコリアンダーの意の「パクチーファラン」と呼ばれるロングコリアンダーがタイ東北部のイサーン料理を中心に用いられています。なお、ラオスのコリアンダーの意の「パクチーラオ」と呼ばれているのはディルなので注意しましょう。
ベトナム料理では、ゴイクン(生春巻き)やフォー(ライスヌードル)、バインミー(サンドイッチ)などに欠かせないハーブで、コリアンダーとドクダミとミントのサラダもあります。ベトナムではロングコリアンダーやベトナムコリアンダーをコリアンダー同様に用いている場面を多く目にします。 そのほか、インド料理のチャツネや、メキシコ料理のサルサ・クルダやワカモーレ、中華料理のトッピング、中南米料理などにフレッシュなコリアンダーの葉が用いられます。
一方、コリアンダーシードは、オレンジ系の爽やかな香りが特徴のスパイスです。インドでは、カレー粉の基本となる4つの原料の1つです。ちなみにほかの3つは、トウガラシ(辛味)とターメリック(色)、クミン(香り)です。そのほか、ガラムマサラやチャツネの材料でもあります。欧州では、ソーセージやテリーヌ、ローストポーク、パテなどの肉料理や、マリネ、スープ、シチュー、ピクルスなどのほか、パンやパウンドケーキ、マフィン、ドーナツなどにも用いられます。飲料としては、ハーブティーのほか、アルコール飲料の香りづけに用いられます。ビールでは、ベルギーのヒューガルデン村で14世紀から造られている、小麦を原料とするエール酵母による上面発酵でホワイトエールビールに分類される「ヒューガルデン・ホワイト」に、オレンジピールと共に香りづけに用いられています。リキュールでは、「カンパリ」や「アマーロアンジェレノ」、「オニのアマーロクラシック」などの「アマーロ」(苦味のあるイタリアのリキュールの総称)や、フランスのカルトジオ会修道院に伝わるリキュールの「シャルトリューズ」、カンキツベースでニオイスミレなどで香りづけされるフランスの「パルフェタムール」、フランスのブランデーベースのリキュール「ベネディクティン」、フランスのアニス酒の「ペルノ」などの香りづけに用いられています。
日本における人とのかかわりの歴史
日本には平安時代に渡来したと考えられ、『本草和名』(918)以前には記載が見られませんが、藤原時平(871-909)・藤原忠平(880-949)による『延喜式』(927)には「内膳司」の「耕種園圃」として、「胡荽」の名で次のように記載されています。「営胡荽一段、種子二斗五升、總單功廿八人、耕地二遍、把犂一人、馭牛一人、牛一頭、料理平和二人、畦上 作二人、糞百卅二擔、運功廿二人、下子半人、《三月、八月》」とあり、コリアンダーを10 a栽培するのに、種子45 L、延べ労働力28人、耕耘2回、犂を扱う者1人、牛を馭する者1人、牛1頭、砕土・整地に2人、畝作りに2人、厩肥132担、厩肥の運搬に22人、種まきに0.5人と、宮廷料理用に栽培するための方法がかなり詳細に記されています。
源順(911-983)は『倭名類聚抄』(931〜938)で「胡荽」について、「胡荽 崔禹錫食經云、胡荽〈息遺反、和名古仁之〉、味辛臭、一名香荽、魚鳥膾尤爲レ要、博物志云、張騫入二西域一得レ之、故曰二胡荽一也」と記し、和名が「古仁志」であり、魚や鳥肉の刺身に特に必要なものであることを紹介しています。
16世紀半ば〜17世紀前半に行われた南蛮貿易の際にはポルトガルから渡来し、ポルトガル語の「coentro(コエントロ)」から、当初は「コエントロ」と、やがて「コエンドロ」と呼ばれるようになりました。
塩見坂梅庵(生没年不明)は『料理塩梅集』(1668)の「一夜鮓方」の項で一夜鮓(一夜なれずし)の作り方を、「生魚に沸かした酢をかけ、桶にゆびきしたわきぎを敷いてその上に魚を置き、わぎぎにも魚にもこゑんとろを粉にしてふりかけ、重石を重くかける。翌日には鮓になっており、ご飯は使わない」(抜粋して要約)と記し、ご飯の無い生魚の一夜なれずしに用いられる「こゑんとろ」は「粉にして」とあることから、コリアンダーの乾燥果実と推察されます。
また、宮崎安貞(1623-1697)は『農業全書』(1697)の「菜之類」第24に「胡荽」として、「南蠻の語に、こゑんとろと云、食物等の悪臭をよく去ものなり、猪肉鶏肉などの料理に加ゆれば、あしきかを消し甚宜し、其子は痘疹の出かぬるをよく發す、さまざま其用ゆる法あり、痘疹の時けがれにふれてわづらふに、此實を酒に煎じ、病人の邊りのかべ帳などに吹かくれぱ、能穢を去、又魚肉などの悪気を殺す、不時に用ある物なり、必少作るべし」と記し、葉が肉の臭み消しに用いられるほか、果実が天然痘などの発疹の発現促進や、酒で煎じて周りに吹きかけて穢れを防いだりするのに用いるとし、備えとしての栽培を奨励しています。
小野蘭山(1729-1810)述/小野蕙畝(1774-1852)録による『重修本草綱目啓蒙』(1844)では「胡荽」として、「胡荽 コニシ コエンドロ〈蠻語コリアンデルノ轉ナリ〉 蠻種長崎ヨリ傳ヘ來リ、今處處ニ栽ユ、八月種ヲ下ス、初出ノ葉ハ形圓小ニシテ、鋸歯アリテ石胡荽葉ノ如シ、漸ク長ズレバ分テ三葉トナリ、漸ク花岐多クナル、春ニ至テ薹ヲ起ス、高サ一二尺、葉互生ス、梢葉ハ細クシテ絲ノ如ク、茵蔯蒿ノ梢葉ニ似タリ、四月莖上ニ花簇リ傘状ヲナス、五瓣ニシテ砕小、瓣ゴトニ一缺アリ、花ウドノ花ニ似テ至テ小ナリ、淺紫色、後實ヲ結ブ、大サ一分許、正圓ナリ、熟スレバ分レテ兩片トナリ、根乃チ枯ル」と、形態や性状について詳細に記述しています。
貝原益軒(1630-1714)は『養生訓』(1712)で食べ合わせについて、「同食の禁忌多し、其要なるをこゝに記す、猪肉に生薑、蕎麦、胡荽、炒豆、梅、牛肉、鹿肉、鼈鶏、鶉をいむ」と記し、猪肉とコリアンダーの食べ合わせのよくないことを述べています。
明治時代にはカレー粉としてコリアンダー果実が利用されますが、家庭では普及しませんでした。1970年代にはスパイスとして販売されるようになり、家庭で使う機会が広がりました。 1972年の日中国交正常化に伴う中国野菜ブームで、コリアンダーは青梗菜などと共に導入され、中国名の「香菜」の日本語音読みで「香菜(シャンツァイ)」と呼ばれるようになり、現在でも農林水産省では「コウサイ」を採用しています。
1980年代のハーブブーム、エスニック料理ブーム、特にタイ料理ブームの影響でタイ語の「パクチー」の名が次第に浸透し、その後のベトナム料理ブームなどもあって消費が伸び、いち早くスーパーの野菜売り場に並ぶようになりました。国内生産は、1981年の静岡県JA遠州中央が最初で、中国野菜ブームによる生産がきっかけですが、エスニック料理ブームと共に、重油の高騰による特に冬場のメロンからの転作が進んで、生産が拡大し、一大産地になりました。現在では、バジルと共に食用ハーブとしてほとんどのスーパーに常備され、普及、定着しています。さらに、種苗の普及で、手軽に育てて楽しむハーブとして定着しています。

日本でのコリアンダー利用において特筆すべきこととして、与那国島でのコリアンダーとのかかわりがあります。与那国島では、第二次世界大戦以前に台湾への行き来が盛んであった時代がありました。その時代に台湾から持ち帰られたコリアンダーは「クシティ」と呼ばれて食卓に欠かせないハーブとして定着しており、単独でサラダで大量に食べるなど、独特の食文化をもっています。

形態・成分
根・茎・葉
温帯原産の冬型一年草(越年草)で、冬期にロゼットを呈し、春に抽苔して開花、夏に結実します。ロゼットとは、バラを意味するロゼッタを語源とし、バラの花の如く1か所から四方に何枚も葉を出す様子から来ていて、タンポポやオオバコなどの地際に葉を広げている状態を示します。 根は、ロゼット植物に共通の直根で、やや肥大し軟らかく食用に向きます。冬期、葉を旺盛に展開して光合成をし、光合成産物を根に蓄えて次第に根を肥大させ、春の抽苔に備えます。 茎は、ロゼットを呈している間は、外部からは見えない短縮茎として地際に存在します。短縮茎は、花芽分化後、抽苔に伴って伸長し、花茎や抽苔茎、伸長茎などと呼ばれます。茎が伸長するのは訪花昆虫から目立つ高い位置で開花するためで、花茎は1 mに達します。根に蓄えられた栄養で茎を伸長させるため、抽苔に伴って根はスカスカになっていきます。 葉は、根出葉(ロゼット葉)と花茎葉とでは同じ植物とは思えないほど形態的に大きく異なります。ロゼットを形成する葉を根出葉と言いますが、葉は根から出ているのではなく、短縮茎から出ていて、外見からは根から出ているように見えるので根出葉と呼ばれます。根出葉は、10 cmを超える長い葉柄をもち、葉身はイタリアンパセリの葉を丸葉にしたような1〜2回羽状複葉です。まず、1回全裂してミツバのように3つの小葉(リーフレット)になり、葉が大きくなるとそれぞれの小葉がさらに2回目の全裂をして小葉でさらに三つ葉を形成します。葉長(葉身と葉柄を合わせた長さ)は50cmにも達し、一株から20枚以上出ます。一方、抽苔後に花茎に着く花茎葉は、欠刻がきつくなり、カモミールの葉のように葉脈だけ残して線形〜糸状になって、2〜3回羽状に全裂します。花茎葉がロゼット葉に比べて葉面積の小さくなる傾向は植物全般に見られます。抽苔・開花・結実に必要な栄養は根から供給されるため、葉の役割が小さい上に、伸長するに際して葉を軽くする必要があるためと考えられます。 トキタ種苗からは、ロゼット葉が花茎葉のように細葉になる‘ナリーパクチー’という品種が販売されています(トキタ種苗、2026)。


花・果実・種子
花はセリ科特有の傘形花序で、コリアンダーは複合散形花序を形成し、オルラヤ(Orlaya grandiflora (L.) Hoffm.)の花を小さくしたような美しい花です。1花序に2〜8個の小花序を形成します。各小花序には3〜20個の小花を着生します。各小花の花弁は5枚で、小花序中央部の花の花弁はいずれも小さく、時に雄花となって結実しません。小花序の外側の花の花弁は、花序の中心側の2枚が小さく、外側の3枚が大きくなり、外側の3枚のうち、中央の1枚の花弁だけが根元まで深裂して、2つの大きな裂片に発達するため、外側にほぼ同じ大きさの4枚の花弁があるように見えます。このように、小花序の外側に大きな花弁が配列することで、小さな花の集まりで花を大きく見せています。花色は白から桃を呈します。例外もあって一概にはいえませんが、花色によって、白花ほど果実が大きくて抽苔しやすく、桃花ほど果実が小さくて抽苔しにくい性質があります。
コリアンダーシードなど、種子と称されて利用されている部位は植物学的には果実であり、果肉が発達せず、痩果と呼ばれ、セリ科に共通の特徴です。セリ科以外でも、シソ科やキク科も痩果です。コリアンダーの痩果は球状(品種によっては長球)を呈し、2個の分果からなり、各分果にそれぞれ1個の種子を含有します。ほかのセリ科植物が果実形成初期の段階から2分果に分かれるのに対し、コリアンダーは2分果が癒合した球形を示す特徴があります。播種する時は手で割って半球ずつ播種すると1本ずつ発芽し、球のまま播くと2本発芽してくることになります。果実径は2〜5mmと、品種によりかなりの違いがあります。特に、ロシア産のものは果実径3mm以下と小果で、モロッコやインド、東南アジア産のものは3mm以上の大果であることが知られており、これらを変種としている記述もあります(Önder, 2018)。



油管
精油は、セリ科に共通の油管と呼ばれる精油分泌組織に存在します。油管は、数個の精油分泌細胞がリング状に離れて管状の細胞間隙を形成したものです。この油管を形成する精油分泌細胞で精油が作られ、細胞壁を経て管状の細胞間隙中に放出され、蓄積されます。油管は、維管束と関連して、根、茎、葉柄、葉身、花、果実と、全草に張り巡らされて分布するため、全草が香ります。そのため、根もハーブとして、果実もスパイスとして利用することができます。コリアンダーの香りを嗅ぐ時は、切ったり、ちぎったりして油管の断面を露出させない限り、触ったり踏んだりしても香りません。また、ほかのセリ科ハーブ、特にクミンなどの乾燥果実では、乾燥によって果皮と共に油管が壊れやすく、そのままでも香りますが、コリアンダーの果皮は乾燥しても壊れにくいため、つぶしたり傷つけたりするなどして油管を壊さない限り香りません。 コリアンダーをはじめ、セリ科ハーブの茎葉は中薬利用以外、ドライで用いられることがほとんどありません。それは、乾燥中に油管の切り口から精油が揮発してしまって、香りが残りにくいためです。長期保存する時は、使いやすいサイズに刻んで冷凍するのがおススメです。
全く異なる2種類の香り
茎葉や緑色した未熟果の香りはカメムシの匂いに例えられます。これらの主な成分は、(E)-2-デセナール(18%)、デカナール(14%)、デカン-9-エン-1-オール(12%)、(E)-2-ドデセナール(9%)、n-テトラデカノール(6%)、ドデカナール(6%)、デカノール(6%)とする報告があります(Padalia et al., 2011)。カメムシの匂いは、ヘキセナール、デセナール、ヘキサナールとされ、似た成分であることが分かります。 一方、完熟した乾燥果実はオレンジのような柑橘系の甘い香りです。精油の主成分はリナロール(55%)、ゲラニアール(6.3%)、ミルセン(6%)、α-フムレン(5%)、1,8-シネオール(3%)とする報告があります(Padalia et al., 2011)。 果実から抽出された精油は、食品や医薬品、化粧品、香水などの香料原料になります。なお、抽出残渣は家畜の飼料になります。
性状と栽培
コリアンダーは温帯原産の冬型一年草です。エスニック料理の影響もあって、熱帯に適しているようにも思われがちですが、生育適温は18〜25℃で、寒さに強く氷点下でも枯死しません。
コリアンダーは、種子が吸水した時点から低温を感じて花芽分化するシードバーナリゼーション(種子春化)タイプです。低温というのは10℃以下の温度で、その温度を葉で感じると花成ホルモン(フロリゲン;ジベレリンの一種)が生成され、それが生長点に移動してある一定量に達すると、それまで葉芽だった生長点が花芽に変わるという花芽分化を引き起こします。花芽分化をすると葉は一枚も生成されず、低温の間は花芽で少しずつ花が発達します。その後、高温になることで、短縮茎が伸長して抽苔し、訪花昆虫に目立つ高い位置で開花します。
自然界では、秋に発芽して、冬期にロゼットを呈し、春に抽苔して開花、夏に結実してこぼれ種を落として枯死するライフサイクルです。 従って、温帯・亜熱帯では秋播きを原則とします。春播きした場合、夜温の10℃を感知して花芽分化し、日中の高温によって葉を何枚も出さないうちに抽苔してしまい、葉の収穫ができません。また、葉の茂らないうちに抽苔することから、まだ根に栄養分が蓄えられておらず、花も少なく、果実も収穫できません。周年栽培する場合は、春播きではベビーリーフ収穫に徹することです。無理して春播きせずに、秋播きで楽しむのがおススメです。ただし、コリアンダーの中には環境に鈍くて抽苔しにくい品種もあります。かつて、20品種ほどで栽培実験をしたところ、花色の桃色が濃く、種子の小さい品種で抽苔しにくい結果が得られました(未発表)。近年では、トキタ種苗から‘サバイパクチー’という、抽苔しにくい晩抽性品種が販売されています(トキタ種苗、2026)。
繁殖は種子(果実)で行います。果実は球のまま播くと、中に種子が2つ入っているので、芽が2本出ます。それでもよいですが、球状の果実を指で軽く摘んで半球に割って、あるいは割れ目を入れて播くと吸水も早まり、発芽も若干早まります。発芽適温は20〜25℃で、発芽に1週間以上を要するため、その間、乾かさないよう注意します。エコロジカルハーバリズムでは、無間引きタネ播きを推奨しており、ベビーリーフから食べられるコリアンダーは、2.5〜5 cm間隔に碁盤の目に播種します。発芽後、間引きはせずに、本葉3〜4枚になった時点で、規則的に一つ置きに、ハサミを使って地際で切って収穫します。根の肥大していない間は、抜き取らずに根を土に残して収穫します。その後、定期的に一つ置きに収穫を繰り返し、株が少なくなって、葉の数が増えてきたら、外葉から葉をかき取って収穫し、やがて根を引き抜いて収穫して根も食べます。最後は1本以上残して、開花させ、花や未熟果を収穫して食べると共に、最終的には採種します。採種のタイミングは果実の付け根の茎が枯れた時です。枯れている部分を切って収穫し、そのまま紙袋などに入れて1カ月ほど自然乾燥で十分に追熟させ、その後、密閉して冷蔵庫か冷凍庫で保存します。
プランターで育てる場合、市販の園芸有機培養土だけで十分です。これまで使っていたプランターに播種する場合、窒素1%程度の牛糞堆肥などと腐葉土を半々の割合で土の上に5〜10cmほど敷き詰め、更にその上にプランターの土や園芸培養土などを篩いやざるなど3mm以下のメッシュのもので篩って、数cm積んで播種するのが理想です。 深刻な病害虫もなく、庭でもプランターでも育てやすいハーブです。秋播きのルッコラやディル、イタリアンパセリ、レタスなどと混植して育てて収穫して楽しみましょう。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第76号 2026年6月
