2026.9.17

ハーバルセラピストのための精油専門講座:第6回 精油の皮膚への安全な使い方

当協会 理事長

林 真一郎

1. はじめに

皮膚科領域に精油を用いる場合だけでなくオイルマッサージの場合にも精油と皮膚が接触することになります。皆さんのなかには精油を含んだ化粧品で肌に刺激を感じたりオイルマッサージで肌に炎症を起こすなどの経験をされた方もいらっしゃると思います。今回は精油の皮膚への安全な使い方に関していくつかの要点を解説します。

2. 精油の細胞毒性

細胞毒性とは化学物質や放射線などが細胞に対して細胞死や機能障害または増殖阻害を引き起こす性質をいいます。細胞毒性のメカニズムには物理的に細胞を破壊したり細胞の呼吸や代謝活動を阻害するなどさまざまな仕組みがあります。精油は分子量が小さく、脂溶性であるため細胞膜の脂質二重層を容易に通過します。そして細胞膜の破壊やミトコンドリアの機能障害、酸化ストレスの誘発などにより細胞毒性をもたらします。昭和大学医学部の青柳子先生が正常ヒト皮膚線維芽細胞に精油を暴露させることで得られた様々な種類の精油の細胞への影響(細胞毒性)を表1に示します。この表から非常に強い細胞毒性がある精油としてサイプレス、パチョリ、サンダルウッドがあげられます。逆に細胞毒性が弱い精油にローズウッド、ユーカリ、ラバンジン、パルマローザ、ペパーミント、ラベンサラがあげられます。

表1: 精油の細胞への影響(細胞毒性)

細胞への影響(CC50)精油濃度(%)精油名(一般名)
CC50 < 0.0075Cypress, Patchouli, Sandalwood
0.0075 ≦ CC50 < 0.01Bergamot, Frankincense, Grapefruit, Juniper berry, Lemon, Mandarin, Orange bitter, Orange sweet
0.01 ≦ CC50 < 0.025Clary sage, Geranium, Neroli, Rosemary, Ylang Ylang
0.025 ≦ CC50 < 0.05Lemongrass, Marjoram, Melissa, Niaouli, Petitgrain, Roman Chamomile, Tea tree, Lavender
0.05 ≦ CC50 < 0.075Eucalyptus globulus, Eucalyptus radiata, Lavandin, Palmarosa, Peppermint, Ravensara
0.075 ≦ CC50Rosewood

CC50: 50% Cytotoxic concentration(この場合、細胞を50%死滅する濃度)

3. 構造分類による皮膚毒性

精油の成分はその分子構造によりアルコール、アルデヒド、ケトン、エステル、フェノール、フロクマリンなどのグループに分類されます。このうちフェノール類やアルデヒド類、フロクマリン類については特に皮膚毒性に注意が必要です。

①フェノール類およびフェノール誘導体

フェノール類が有するフェノール性水酸基は反応性に富むため皮膚や組織のタンパク質に傷害を与える可能性があります。フェノール類およびフェノール誘導体に分類される精油成分とそれを含む精油にはチモール(タイム)、カルバクロール(タイム)、アネトール(フェンネル)、オイゲノール(クローブ)、メチルカビコール(バジル)などがあります。

②アルデヒド類

アルデヒド類はアルデヒド基(-CHO)がタンパク質のアミノ基と反応してシッフ塩基を形成します。それが免疫系に生体異物と認識されるためアレルギーを誘発する可能性があります。アルデヒド類に分類される精油成分とそれを含む精油にはシトラール(レモングラス)、シトロネラール(レモングラス)、シンナムアルデヒド(シナモン)、ペリルアルデヒド(シソ)、バニリン(ベンゾイン)などがあります。シンナムアルデヒドの濃度のちがいによる過敏症を起こす割合を調べた結果を表2に示します。18人のうち濃度が0.01%では過敏症を起こしたひとは0名でしたが2.00%では18名全員が過敏症を起こしました。

表2: シンナムアルデヒド精油によるパッチテストの結果

使用された濃度(%)患者の反応率(%)反応患者数
2.0010018/18
1.008315/18
0.506111/18
0.10275/18
0.05173/18
0.0261/18
0.0100/18

(Data from Johansen et al 1996a)

③フロクマリン類

フロクマリン類は光毒性反応をもたらし紅斑や水疱、炎症や色素沈着を誘発する可能性があります。この反応はフロクマリン類の分子が紫外線(UV)のエネルギーを蓄積したあとに一気に放出して皮膚に傷害を与えるためです。ベルガモットの精油は外用で用いた際に紫外線を浴びると光毒性反応を起こしてベルロック皮膚炎またはベルガプテン皮膚炎を誘発するので注意が必要です。フロクマリン類に分類される精油成分とそれを含む精油にはベルガプテン(ベルガモット)やアンゲリシン(アンジェリカ)などがあります。表3に光毒性に注意すべき精油を示します。なお例えばユズの精油には圧搾法で得たものと蒸留法で得たものがありますが蒸留法ではフロクマリン類はほとんど蒸留されないため後者の方が光毒性のリスクは少ないといえます。また光毒性と光感作はメカニズムが異なります。光毒性は紫外線を浴びるとすぐに紅斑や色素沈着などの反応を示しますが、光感作はアレルギー反応なので感作が成立するまでに時間が必要です。また光毒性の発症にはある程度の濃度が必要ですが感作が成立後は低濃度でも発症します。臨床症状としては光毒性は紫外線を浴びたところに紅斑や色素沈着が生じますが光感作は全身反応が生じる可能性があります。光毒性と光感作のちがいを表4に示します。

表3: 光毒性に注意すべき精油

ミカン科セリ科
オレンジ精油(ビター、圧搾)
グレープフルーツ精油
ベルガモット精油
マンダリンリーフ精油
ライム精油(圧搾)
ルー精油
レモン精油(圧搾)
アンジェリカルート精油
クミン精油

表4: 光毒性と光感作のちがい

光毒性光感作
初回曝露時の反応ありなし(感作のみ)
潜伏期短い長い
発症に必要な濃度高濃度低濃度
臨床症状紅斑・色素沈着湿疹など多様

4. 精油と医薬品との薬物相互作用

①精油の経皮吸収促進作用

精油成分は脂溶性で分子量が500以下であることから経皮吸収することが知られています。また精油成分は自ら経皮吸収すると共に経皮吸収型製剤の医薬品など他の物質の経皮吸収を促進することがわかっています。例えば抗がん剤の5-フルオロウラシルの経皮吸収をアニスの精油は2.8倍、イランイランの精油は7.8倍、ユーカリの精油は34倍高めます。また消炎鎮痛剤のインドメタシンの経皮吸収をℓ-メントールは15倍高めます。経皮吸収を高めることは一見、良いことのように感じますが経皮吸収型製剤は薬物がゆっくりと血中に入ることを意図した製剤なので注意が必要です。経皮吸収促進作用のある精油とニトログリセリンなどの狭心症治療薬、ツロブテロールなどの喘息治療薬、エストラジオールなどのホルモン剤、ニコチンなどの禁煙補助剤、フェンタニルなどの麻薬鎮痛剤、リバスチグミンなどのアルツハイマー型認知症治療薬との併用には注意が必要です。経皮吸収を高める精油の成分と対象となる薬物の一覧を表5に示します。

表5: 精油成分による経皮吸収促進作用

精油成分薬物経皮吸収
ネロリドール5-FU20倍促進(ヒト)
ゲラニオールカフェイン16倍促進
α-テルピネンハイドロコーチゾン5倍促進
1,8-シネオール5-FU83倍促進(ラット)
ℓ-メントールインドメタシン15倍促進
リモネンアルプラゾラム15倍促進

なお薬物相互作用ではありませんが、精油の経皮吸収を促進する要因として皮膚に炎症や傷害がある場合があげられます。こうした場合はその部位には精油の使用を控えるのが賢明です。皮膚の保水性が高い場合や皮膚の温度が高い場合も経皮吸収は高まります。また皮膚面をラップや布などで密閉した場合やエタノールや石けん水などに精油を溶かした剤形も経皮吸収を高めます。さらにマッサージなどの手技も物理的に精油の経皮吸収を高めます。

②光感受性の増強

ニューキノロン系抗菌薬や非ステロイド性消炎鎮痛薬、利尿薬や抗ヒスタミン薬などは光に対する感受性を高める可能性があります。こうした精油とベルガモットやアンジェリカの精油などを併用すると、さらに光感受性を高めて光線過敏症などのリスクを高める可能性があります。

5. セラピスト自身によるプロテクト

アロマセラピストにとって精油の皮膚への曝露はある意味で職業病といえます。曝露を完全に避けるわけにはいきませんが、自らトラブルを未然に防ぐためのプロテクト(防御法)を心がけましょう。感作を防ぐには皮膚への精油の曝露を必要最小限にすることと同じ種類の精油を使い続けないことです。また精油は経皮吸収して全身循環に入り主に肝臓で代謝されるのでミルクシスルやダンディライオンなどのデトックスハーブを使う方法もあります。ストレスは不感蒸泄(皮膚や呼気からの水分の喪失)を高めるため皮膚のバリア機能を弱めるので日常的に半身浴を心がけます。

6. おわりに

わが国では精油の希釈濃度は1%が共通認識になっています。欧米では2%程度で用いられることもありますが、わが国で精油の皮膚への健康被害の報告が少ないのは1%濃度が守られていることも関係しているかもしれません。医薬品の場合は用量依存といって医薬品の投与量を高めれば効果も高まるという考え方ですが、アロマセラピーの場合は精油の量(濃度)によって効果を高めようという考え方はあまりふさわしくないと私は考えています。むしろできる限り低い濃度で目的を達成するところにアロマセラピストの腕のみせどころがあると思います。巷では精油の原液塗布や飲用といった危険な使い方も散見されますが、アロマセラピーは香りという繊細な感覚に働きかけるセラピーですからアロマセラピスト自身が繊細な感性を磨いていただきたいと思います。

[参考資料]

  • 『精油の安全性ガイド 第2版』 ロバート・ティスランド著 フレグランスジャーナル社
  • 『ファーマシューティカルアロマセラピー&メディカルハーブ』 林真一郎著 南山堂
当協会 理事長
林 真一郎 はやし しんいちろう
東邦大学薬学部薬学科卒業。グリーンフラスコ株式会社代表、東邦大学薬学部客員講師、静岡県立大学大学院非常勤講師、日本赤十字看護大学大学院非常勤講師、ソフィアフィトセラピーカレッジ代表。医師・鍼灸マッサージ師・助産師・薬剤師などとネットワークをつくり、情報交換を行いながらホリスティック医学としてのアロマセラピーやハーブ療法の普及に取り組んでいる。著書に『アロマ&ハーブ大事典』(新星出版社)、『臨床で生かせるアロマ&ハーブ療法』(南山堂)、共著に『高齢者介護に役立つハーブとアロマ』(東京堂出版)など。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第76号 2026年6月