2026.8.18

小児白血病患者における化学療法誘発性好中球減少症に対するカモミールの効果:無作為化三重盲検プラセボ対照臨床試験

学術委員

辻恵子

近年、日本では健康維持や症状緩和を目的として、ハーブや健康食品、漢方薬などの補完・代替療法(Complementary and Alternative Medicine:CAM)への関心が高まっている。成人領域では、がん治療に伴う副作用の軽減やQOL(生活の質)の改善を目的とした研究が進められている一方、小児におけるハーブ療法の有効性や安全性に関するエビデンスは十分とはいえない。特に小児がん患者では、化学療法による副作用の軽減を目的として補完療法への関心が高まっており、その効果と安全性を慎重に評価する必要がある。

本研究は、化学療法誘発性好中球減少症に対するカモミール(Matricaria chamomilla)の効果を明らかにすることを目的として、小児急性リンパ性白血病(acute lymphoblastic leukemia:ALL)患者を対象に実施された無作為化三重盲検プラセボ対照臨床試験である。ALLでは、化学療法による骨髄抑制によって好中球数が低下し、感染症発症リスクが高まることが大きな課題となっている。好中球減少は治療スケジュールの変更や入院期間の延長につながる可能性があるため、安全で有効な支持療法の開発が求められている。カモミールは古くから薬用植物として利用され、抗炎症作用、抗酸化作用、免疫調節作用を有する可能性が報告されていることから、化学療法中の免疫機能低下を補助する植物療法として注目された。

対象は2~18歳のALL患児で、カモミール投与群とプラセボ群に無作為に割り付けられた。最終的に40名(各群20名)が解析対象となり、介入群にはカモミール抽出物を含むシロップ2.5mLを1日1回、30日間投与した。対照群には、外観や味を一致させたプラセボシロップを投与した。本研究では、患者、研究者、評価者の全員が割付内容を知らない三重盲検法を採用し、研究バイアスの低減が図られた。評価項目は、白血球数(WBC)、絶対好中球数(absolute neutrophil count:ANC)、およびQOLであった。

研究の結果、カモミール投与群ではANCの増加傾向が認められた一方、プラセボ群ではANCが低下する傾向を示し、群間比較では統計学的に有意な差が認められた(P interaction=0.019)。また、白血球数についてもカモミール群で改善傾向がみられた。さらに、研究期間中に重大な有害事象は報告されず、安全性についても一定の可能性が示された。

本研究の意義は、小児白血病患者に対するハーブ療法の効果を、無作為化比較試験という質の高い研究デザインで検証した点にある。化学療法中の小児患者では、感染症予防や治療継続のために好中球数を維持することが重要であり、カモミールが支持療法の一つとなる可能性を示したことは臨床的意義が大きい。

一方で、本研究にはいくつかの限界がある。第一に、対象者数が40名と少なく、単施設で実施された研究であるため、結果の一般化には慎重な解釈が必要である。第二に、介入期間は30日間と短く、長期的な有効性や安全性は評価されていない。また、カモミールが好中球減少を改善した作用機序についても明らかではなく、さらなる基礎研究が求められる。

以上より、本研究は、カモミールが化学療法を受ける小児ALL患者の好中球減少を軽減する可能性を示した重要な報告である。しかし、ハーブ療法は天然由来であっても薬理作用を有するため、自己判断で使用するのではなく、抗がん剤との相互作用や患者の状態を十分考慮し、医療者の管理のもとで使用することが重要である。今後は、多施設・大規模試験による検証を進めるとともに、日本においても小児がん患者を対象とした補完療法の有効性と安全性に関するエビデンスを蓄積し、標準治療を補完する適切な支持療法として確立されることが期待される。

【引用】

Daneshfard B, Shahriari M, Heiran A, Nimrouzi M, Yarmohammadi H. Effect of chamomile on chemotherapy-induced neutropenia in pediatric leukemia patients: A randomized triple-blind placebo-controlled clinical trial. Avicenna J Phytomed. 2020;10(1):58-69. PMID: 31921608; PMCID: PMC6941685.