エゾウコギ果実抽出物が動脈スティフネスおよび血圧に及ぼす影響: ランダム化プラセボ対照試験

動脈スティフネス(動脈の硬さ)の亢進や血管内皮機能障害などの血管機能障害は、将来の心血管疾患発症を予測する重要な因子である。ハーブや香辛料を含む食品や栄養補助食品などの天然由来製品は、生理機能に有益な作用を有し、心血管疾患リスクの低減に寄与する可能性が示されている。 なかでもエゾウコギ( Eleutherococcus senticosus(シノニム;Acanthopanax senticosus))は、従来は根や根茎の利用が中心であったが、近年では果実についても新たな機能性が注目されている。
エゾウコギは、ロシア極東地域や日本、中国、韓国などに分布する薬用植物であり、伝統的にアダプトゲンとして利用されてきたその根や根茎の免疫調整作用や身体的・精神的パフォーマンスの向上については広く研究されてきている。
一方、エゾウコギの果実には、カルシウム、マグネシウム、鉄、マンガン、亜鉛、銅、セレンなどのミネラルが含まれている。フィトケミカル成分としては、よく知られたエレウテロシドの他に、リグナン(セサミン、シリンガレシノール)、フェノール酸(クロロゲン酸、カフェ酸)、多糖類、クマリン類、フラボノイド(ケルセチン、ケンフェロール)などのポリフェノールが含まれている。(1)
これまでのエゾウコギの果実に関する基礎研究では、免疫機能の調節、インスリン抵抗性および肝臓への脂質蓄積の改善、肝障害に伴う酸化ストレスからの保護作用などの可能性が報告されている。(1)
本研究では、心血管疾患リスクを有する成人を対象に、エゾウコギ果実水抽出物の有効性および安全性を評価することを目的として、ランダム化二重盲検プラセボ対照並行群間比較試験(RCT)を実施した。(2)
対象は、境界域高血圧、喫煙習慣、境界域脂質異常の3項目のうち2項目以上を有する20~64歳の成人76名とし、エゾウコギ果実水抽出物500 mg/日(低用量群)、1,000 mg/日(高用量群)、またはプラセボを12週間経口投与した。介入期間中は通常の生活習慣を維持し、併用療法は実施しなかった。主要評価項目は上腕足首間脈波伝播速度(baPWV)および血流依存性血管拡張反応(FMD)、副次評価項目は頸動脈内膜中膜複合体厚(cIMT)、血圧、血管内皮一酸化窒素合成酵素(eNOS)のリン酸化とした。
結果として、低用量群では、プラセボ群と比較して動脈の硬さを評価する指標であるbaPWVが有意に改善した(変化量:プラセボ群 +31.1 cm/s、低用量群 −98.7 cm/s、P=0.007)。また、収縮期血圧もプラセボ群(+0.1 mmHg)と比較して低用量群(−7.7 mmHg)で有意に低下した(P=0.044)。一方、血管内皮機能を評価するFMD、頸動脈の動脈硬化の程度を示すcIMTおよび拡張期血圧については有意な変化は認められなかった。血管拡張に重要な一酸化窒素(NO)を産生する酵素であるeNOSの活性化を示すリン酸化eNOS/eNOS比では、介入効果に境界域の有意性が認められ(交互作用P=0.097)、ベースラインのプラセボ群を1として補正した解析では、12週間後の低用量群はプラセボ群と比較して有意に高値を示した(0.80 vs. 1.22、P=0.037)。一方、酸化LDL(oxLDL)濃度には有意な変化は認められなかった。また、介入に関連する重篤な有害事象は認められなかった。用量依存的な効果は認められず、その要因として、エゾウコギ果実抽出物に含まれる複数の生理活性成分が互いに作用し合い、単一成分とは異なる反応を示した可能性が考察された。
本研究では、エゾウコギ果実水抽出物500mg/日を12週間摂取することで、心血管疾患リスクを有する成人において動脈スティフネスおよび収縮期血圧の改善が認められ、その作用にはeNOSの活性化が関与することが示唆された。さらに、安全性にも大きな問題は認められなかった。以上より、エゾウコギ果実水抽出物は、心血管疾患リスクを有する成人の血管機能改善に有用である可能性が示された。
【文献】
Oh E, et al. The fruit of Acanthopanax senticosus Harmsimproves arterial stiffness and blood pressure: a randomized, placebo-controlled trial. Nutrition research and practice. 2020;12(8):2476. https://doi.org/10.4162/nrp.2020.14.4.322
Graczyk F, et al. Hepatoprotective Activity of the Fruits of Eleutherococcus senticosus in Acetaminophen-Induced Liver Injury in Mice and Their Chemical Composition. Nutrients. 2025 Nov 1;17(21):3456. doi: 10.3390/nu17213456.





