2026.8.18

毎日の食事から伝統療法まで 東南アジアのハーブと出会う

東南アジアの人々にとって、ハーブは野菜と同様にごく身近な存在であり、
ハーブを抜きにして東南アジアの料理を語ることはできません。
そこには、食と健康が分かちがたく結びついた香りの文化が生きています。

東南アジアはハーブの宝庫
香り豊かな料理が食卓を彩る

東南アジアは、中国の南、インドの東に位置するアジア地域。インドシナ半島とマレー諸島からなり、11カ国で構成されています。そこでは古くから交易路の要衝として様々な文化や宗教が交錯し、多様性に富んだ文明が育まれてきました。食文化も国や地域によって様々ですが、料理に香り豊かなハーブを多用することは、東南アジア地域全体に見られる1つの特徴といえるでしょう。

高温多湿な熱帯・亜熱帯の気候、沿岸部から山岳地帯にまで至る手つかずの自然が多種多様なハーブの宝庫を形成し、人々は自生するハーブを日々の食事にとり入れてきました。野菜とハーブは特に区別されることなく用いられています。

東南アジアはまた、ショウガやウコン、コショウといったスパイス(調理に用いられる乾燥したハーブ)の世界的な生産地でもあります。例えばインドネシアは、かつてクローブの世界で唯一の生産地で、現在も最大の生産国かつ消費国です。料理にはこうしたハーブやスパイスを何種類も使用し、一皿の中に豊かな香りの層が生まれます。

ハーブは食材の臭みを消し、食欲をそそる香りを加え、料理全体に奥行きを与えます。時には料理に鮮やかな彩りを添え、食感のアクセントにもなります。東南アジア料理には酸味や辛味、スパイシーさなど、暑さの中で食欲を刺激するような味わいのメニューが多くありますが、そこで大きな役割を果たしているのもハーブです。用いられるハーブの中には殺菌作用や防腐作用をもつものもあり、高温多湿の環境下で料理の保存性や安全性を高める意味でも役立っています。

東南アジアの伝統医療に見る
薬草としてのハーブの利用

東南アジアでハーブは、ヘルスケアの面でも重要な位置を占めています。現在、台所で使われるハーブの多くは薬草、つまりメディカルハーブとして伝統医療にも用いられてきたものです。人々はそれぞれのハーブの薬効を経験的に知り、病気の予防や治療、日々の健康維持のために役立ててきました。

東南アジアの伝統医療はインドの古典医学であるアーユルヴェーダと中国医学の影響が大きく、それに各地域の民間療法をとり入れて独自に発展しました。タイ、ラオス、ベトナム、カンボジア、インドネシアなど多くの国の伝統医療において、ハーブはアーユルヴェーダや中国医学における生薬と同様に中心的な役割を担っています。そこには、東洋に特徴的なホリスティックな身体観を見ることができます。体だけでなく心、霊性、自然環境、社会関係までを一体とみなし、病気や不調を全体のバランスの乱れと捉える考え方であり、ハーブは心身両面から人の健康と幸福に寄与するものと考えられているのです。

近年は、西洋医学の補完としてのハーブ療法の推進が盛んになり、タイのように国立の研究センターをもつ国もあります。これまで医療として意識することがなくても、不調を感じた時に目の前にあるハーブを煎じたり、料理にとり入れたりして自身の健康を守ることは、人々の間でごく自然に行われてきました。そのことに改めて気づき、古来脈々と受け継がれてきた伝統医療の智慧が再評価されるようになった結果といえます。

東南アジアの代表的なハーブ

レモングラス レモンを思わせるさわやかな香りで食欲を増進し、気分をスッキリさせてくれます。主に茎を料理の香りづけや臭み消し、ハーブティーなどに利用し、香りが強い根の部分は叩いたりすりつぶしたりして肉や魚介の料理に使います。 ▶タイ語:タクライ、ベトナム語:サー、マレー語:スライ、インドネシア語:セレイ、タガログ語:タンラッド

ホーリーバジル インドではトゥルシーと呼ばれ、アーユルヴェーダにおいて重要なハーブとされています。スイートバジルよりも香りが強く、スパイシーなのが特徴です。加熱しても風味が飛びにくいため、サラダ、ティー、炒めもの、揚げものなど様々な料理に使われています。 ▶タイ語:ガパオ、ベトナム語:ラウ・フン・クエ

コリアンダー 日本で「パクチー」または「香菜(シャンツァイ)」と呼ばれる生葉は独特の強い香りをもち、主にタイやベトナムで料理の香りづけやトッピングに用いられます。完熟させた種子(コリアンダーシード)は、スパイスとして煮込み料理や炒めものなどに使われます。 ▶タイ語:パクチー、ベトナム語:ザウムイ、インドネシア語:クトゥンバル

カフィア・ライム・リーフ カフィア・ライム(コブミカン)の葉。柑橘特有のさわやかさとスパイシーな香りを合わせもち、スープや煮込み料理、カレーなどを作る時に香りづけとして加えます。マレーシアなどでは生の葉を刻んで食べることもあります。 ▶タイ語:バイマックルー、ベトナム語:ラー・チャイン、マレー語:ダウン・リマウ・プルッ

スペアミント 東南アジアで多用されるミント。強い清涼感をもつペパーミントに対し、甘くソフトな香りでクセがないのが特徴で、肉料理や魚介料理にも合います。タイやラオス、ベトナムなどでは生春巻きやサラダ、和えもの、炒めものなどに幅広く利用されます。 ▶タイ語:サラネー、ラオス語:ホム・ラープ、ベトナム語:フンルイ

ガランガル 和名を「ナンキョウ」といい、日本のショウガに似ていますが、辛味が強く独特の柑橘系の香りをもちます。スライスしたりペースト状にしたりしてスープやカレー、煮込み料理などの香りづけに用いる他、インドネシアでは健康飲料にもよく利用されています。 ▶タイ語:カー、インドネシア語:ラオ、マレー語:レンクアス

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第76号 2026年6月