2026.10.8

ウイルス性呼吸器疾患の予防および治療におけるエルダーベリー:システマティックレビュー

学術委員

菊地伶弥

エルダーベリー(Sambucus spp.)の花や果実は古くから風邪やインフルエンザなどの呼吸器疾患に用いられてきた。その一方で、免疫系を過剰に刺激し、サイトカインストームのリスクを高める可能性も懸念された。本研究は、ウイルス性呼吸器感染症の予防・治療におけるエルダーベリーの有益性・有害性と、炎症性サイトカインの過剰産生との関連を評価した。対象はSambucus nigra、Sambucus ebulus、Sambucus canadensisなどを単独または他のハーブと併用した研究とした。

① 呼吸器感染症の予防
普通感冒の予防を評価したRCT(1件、312人)では、発症率はエルダーベリー群12/154人(8%)、プラセボ群17/158人(11%)で有意差はなかった(RR 0.69、95%CI 0.34~1.39、p=0.30)。発症した29例では、罹病期間が平均2.13日短く(MD −2.13日、95%CI −4.16~−0.10、p=0.04)、症状重症度も低かった(MD −13.69、95%CI −24.54~−2.84、p=0.01)。有害事象はエルダーベリー群3例、プラセボ群2例で有意差はなかった(RR 0.65、95%CI 0.11~3.84、p=0.63)。エビデンスの確実性は、発症率で低く、有害事象で非常に低かった。

② 呼吸器感染症の治療
インフルエンザ治療のプラセボ対照2研究(87人)では、2日後の治癒率に有意差はなかったが、3日後および4日後はエルダーベリー群で有意に高かった(RR 2.40、95%CI 0.59~9.82;RR 2.60、95%CI 1.14~5.93;RR 1.94、95%CI 1.12~3.36)。全般的な改善または治癒までの期間も平均2.68日短かった(MD −2.68日、95%CI −5.23~−0.13、I²=94%)。エビデンスの確実性は非常に低かった。オセルタミビルとエキナセア+エルダーベリー配合剤のRCT(420人)では、5日後の回復率に差はなかった(RR 1.06、95%CI 0.99~1.14)。合併症(RR 0.38、95%CI 0.14~1.04)および有害事象(RR 0.82、95%CI 0.51~1.33)は配合剤群で少ない可能性が示され、エビデンスの確実性は低かった。

③ 炎症性サイトカイン
健康な閉経後女性を対象とした12週間のRCT(アントシアニン500 mg/日)では、CRP、TNF-α、IL-6にプラセボとの差はなかった。健康成人22人の30日間摂取試験(煎液200 mL、アントシアニン約3.66 mg/L)では、CRPとIL-1βが有意に低下し、IL-6、TNF-αにはほとんど変化がみられなかった。健康成人3人への単回投与(ブラックエルダーベリーチンキ2.5 g)では、IL-6が2、4、8時間後、TNF-αが2時間後に有意に低下した。

結論として、エルダーベリーはインフルエンザや普通感冒の症状の重症度および罹病期間を軽減する可能性があり、重篤な有害事象との関連は認められていない。ただし、現時点のエビデンスは規模・質ともに限られている。免疫系の過剰刺激を示す懸念は確認されていないが、今後も臨床的に関連する報告を継続的に検討する必要がある。

[文献]

Wieland LS, et al. Elderberry for prevention and treatment of viral respiratory illnesses: a systematic review.BMC Complement Med Ther. 2021 Apr 7;21(1):112. doi: 10.1186/s12906-021-03283-5.