2025.12.15

エコロジカルガーデニングデザイン

当協会理事・事務局長。(株)グリーン・ワイズ。NHK趣味の園芸やさいの時間講師。博士(農学)。

木村 正典

HERB & LIFE
ハーブのある暮らしを楽しむ<秋>

Ecological gardening design
エコロジカルガーデニングデザイン

前号の挿し木に続いて、はじめての栄養繁殖第2弾。
今回は、株分けで殖やす方法を紹介します。挿し木よりも簡単に殖やせるものの、
できない植物も多いので、向く植物を知ることがまず大切です。

第18回
株分けで殖やす

question

株分けできる植物とできない植物の違いは何ですか?
レモングラスの株分けはどうしたらよいですか?
株分けに失敗しないコツはありますか?
株分けの適期はいつですか?

 地球環境に負荷をかけないエコロジカルハーバリズムでは生態系を大切にして、化学物質を使わず、無理なく無駄なく育てます。育てる楽しみには殖やす楽しみもあります。植物を殖やす繁殖には、交雑によって親とは違う遺伝子となる種子繁殖と、クローンによって親と同じ遺伝子をもつ栄養繁殖とがあります。今回は、前回に続く栄養繁殖第2弾として、株分けで殖やすコツをご紹介します。

株分けとは

 株分け(かぶわけ)は、根元から茎葉が何本か立ち上がる性質をもった植物、すなわち株状になる植物や、地下茎や匍匐茎などで根を下ろしながら広がる植物が対象になります。株元から立ち上がったり、地下茎や匍匐茎などで根を出しながら広がったりしている茎葉を切断して殖やすのが株分けです。原則として、既に根の着いている状態で切り分けますので、失敗するリスクの低い繁殖方法です。ただし、株状になる植物や地下茎などで広がる植物でしかできず、株分けできる植物は限られています。

分げつして殖えているチャイブ

株分けに向く植物

 株分けに向く植物は、以下の形態的特徴をもっています。

1分げつ(分けつ、分蘖)

 分げつとは、主として単子葉類のイネ科植物やネギ属植物などで、根元の短い茎(短縮茎)の節(正しくは、節の直上の葉腋に相当する部分)から短縮形を分枝して葉を出すことをいいます。地際の根元で分げつすることから、分げつした新しい株も短縮茎から発根しやすく、根のついた株の集合体になっていて株分けが容易です。

該当ハーブ/レモングラス、シトロネラグラス、ベチバー、スイートグラス、スイートバーナルグラス、チャイブ、ニラ、ネギなどの草本など

2分球

 分球とは、主として単子葉類のユリ科やヒガンバナ科、アヤメ科、ショウガ科、サトイモ科などの球茎や塊茎、根茎など、広く球根ともいわれる茎の塊から、新たな茎の塊(子球)が枝分かれするように形成されることをいいます。これらの植物は分球した子球(茎)を切り分けて植えつける方法で株分けします。一般には、秋に地上部が枯れてから掘り上げて分球して殖やしますが、生育途中で株分けすることも可能です。

ショウガの根茎

該当ハーブ/ユリ、イリス、ニンニク、ラッキョウ、サフラン、ショウガ、ウコンなど

3地下匍匐茎

 地下茎も匍匐茎も、直立する茎に対して、横に広がって伸長する茎で、地下を這うものを地下茎、地上を這うものを匍匐茎といいます。匍匐茎は匍匐枝ともいいます。また、子どもの根づく場所が親から遠くなるように出る、節間の異常に長い茎を走出枝(ランナー)といい、オランダイチゴやワイルドストロベリーなどが該当します。ミントなどは地下も地上も関係なく、地際に旺盛に匍匐茎を出して広がります。地下茎は茎の各節から、根と茎葉を出しながら広がります。一方、匍匐茎は伸びた茎の節が地面に着いて湿ると根を出します。匍匐して広がる茎から発根していれば、株分けすることができます。

該当ハーブ/(地下茎):ドクダミ、タケ、ササ、ミョウガ、フキ、スギナ、ヤブガラシ、ハマスゲ、ミントなど/(匍匐茎):タイム、ヤロウ、ローマンカモミール、ワイルドストロベリー、ヘビイチゴ、匍匐茎ローズマリー、メヒシバ、サツマイモ、トマト、ミントなど

4ロゼット植物

 ロゼット植物とは、アブラナ科やセリ科、キク科、オオバコ科植物のように、地際に短い短縮茎があって、その短縮茎から四方八方に葉を広げる植物のことです。短縮茎は、その先端にある生長点(茎頂)が花芽分化することによって伸長し、抽苔(チュウダイ)(とう立ち)します。抽苔すると茎が立ち上がるわけですが、抽苔していない状態をロゼット状態といいます。ロゼット状態では、茎は地際の短縮茎だけであり、その状態は、分げつするイネ科や分球する単子葉類と同様です。

 ロゼット植物の中には、フェンネルやルバーブ、ホースラディッシュのように生育が旺盛で多年化するもがあります。多年化するものは、地際の短縮茎の節から分げつしたり、胚軸上部にいくつもの芽を着けたりするため、生長点を分けるように根を切り分けることで株分けすることができます。

 ホースラディッシュは繁殖力が旺盛で、茎がなくても根だけで繁殖することができます。

該当ハーブ/フェンネル、ルバーブ、ソレル、ホースラディッシュなど

株分けの方法

 株分けするには、ハサミや包丁、スコップなどで株元を切って、切り離す必要があります。植わったままスコップなどで乱暴に切り分けると、傷口が大きくなるなどのダメージが大きくなりますので、できれば掘り上げて株元をしっかり見て、つけ根ギリギリで丁寧に切断するのが望ましいです。

 株分けには、大株を2つ、3つに均等に分ける方法と、大株から、1本、2本と少しずつ切り取って殖やす方法とがあります。

 大株を均等に分けるのに向いているのは、イネ科のような単子葉類の分げつ株や、地下茎・匍匐茎で根を出しながら広がっている植物など、新たな茎から十分に根が出ているものです。そうでないものは、茎を1本、1本丁寧に分けていきます。

1分げつするもの

 分げつした株(子株)の分岐点となっているつけ根の部分で切断します。多くの場合、手で取り分けられますが、取れない場合は、丁寧にハサミなどで切り分けます。

 レモングラスなどは短縮茎を地際から数センチ〜十数センチ伸ばしてそこから分げつするため、分げつ株(子株)から発根していないものも多く見られます。したがって、株分けとはいえ、ほぼ挿し木の要領で育苗して発根させてから植えつけます。分げつ株は地上部を15〜20cmに切り、ポリポットなどに入れた赤玉土に挿して1カ月ほど置いて発根させます。その間、土が乾かないようにこまめに灌水します。

株分けしたレモングラスは十分に発根していないため、地上部を切り詰め、挿し木の要領で殖やす

2分球するもの

サフラン

 株を掘り上げて、手で根茎を割ったり、子球を外したりします。植わっている状態のまま株分けする場合は、株元から立ち上がっている葉鞘や茎の根元をつかんでゆっくりと引っ張るか、移植ゴテなどを刺して切断します。失敗しないようにするには、全部掘り上げなくても、分岐点まで掘って、丁寧に切断します。

 ちなみに、サフランは、秋に開花後、冬に栄養のある土で葉を茂らせることで、低温に当たって分球を始めます。翌夏、葉が枯れたら子球を収穫し、植えつけまで常温で貯蔵します。夏の高温条件下では休眠していて、この休眠中に花芽が着き、9月以降に植え付けることで秋に開花するサイクルになっています。

3地下匍匐茎で広がるもの

株分けのために切り分けたミョウガ

 地下茎で広がるものは、スコップなどで切断して掘り上げるだけで簡単に株分けすることができます。一方、匍匐茎で広がるものは、地面と接しているところから根が出ていないと株分けできませんので、匍匐茎を地面からゆっくりと剥がすように持ち上げて、根づいている部分を探します。根づいている部分があれば、そこで匍匐茎を切って、根を掘り上げて株分けします。植えつける際は、立ち上がる茎を短く切って、蒸散部分を少なくしましょう。

4ロゼット植物で多年化するもの

春に収穫したホースラディッシュの根。
長さを重視して切り分けて植えつける

 ロゼット植物の場合、株がある程度大きくならないと株分けできません。新しい子株ができて株分けが可能になったら、根を掘り上げます。そして、包丁などで芽と細根がセットになるよう、根を切断して株分けします。なお、切口には灰をまぶすなどして殺菌します。ロゼット植物は直根のため、そもそも移植を嫌いますので、掘り上げた時点で株に大きな負担をかけています。根が傷んで、根から水分を十分に吸えない状態ですので、葉からの蒸散を抑える必要があり、古い葉から取り除いて、葉の数を半分以下に減らします。

 ホースラディッシュは極めて強靭で、根だけで繁殖可能ですので、根を分割して植えつけます。その際、植えつけた根の長さが収穫時の根の長さになりますので、根をなるべく長く掘り取って、根の長さを保つように切り分けて植えつけます。植えつけた根は伸びることなく肥大します。

株分けの適期

 株分けは、挿し木と違って既に発根した状態ですので、一年中可能です。ただし、失敗しないためには、蒸散の激しい真夏と生育のストップしている真冬は避けるべきで、春か秋が適期です。

当協会理事・事務局長。(株)グリーン・ワイズ。NHK趣味の園芸やさいの時間講師。博士(農学)。
木村 正典 きむら まさのり
ハーブの栽培や精油分泌組織の観察に長く携わると共に、都市での園芸の役割について研究。著書に『有機栽培もOK!プランター菜園のすべて』(NHK出版)など多数。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第73号 2025年9月