小さな粒に秘められた魅力に迫る 生活で楽しむスパイス
スパイスははるか昔から食事や医療、祭祀など様々な用途で用いられてきました。
世界中のスパイスが手軽に入手できるようになった現在は、スパイス新時代!
改めてその魅力に迫り、毎日の生活でもっとスパイスを活用していく方法を提案します。

そもそもスパイスって何?
ハーブとの違いはあるの?
スパイスは日本語では香辛料とも呼ばれ、一般に食品の調理のために用いる芳香性や刺激性をもった植物を指します。
それでは、スパイスとハーブとの違いは何でしょうか? フレッシュなものをハーブ、乾燥させたものをスパイスとしたり、葉や種子、果実、花、根、樹皮など使う部位によって分けたり、食用、薬用といったように用途によって分類したりすることもありますが、実はスパイスとハーブの明確な違いや定義づけはありません。「料理など暮らしの中で役立つ香りのある植物」という意味で、スパイスも大きなくくりではハーブの一種と位置づけられます。
現在、世界で使われているスパイスの種類は、350〜500種にものぼるといわれます。日本ではスパイスというとスパイシー=「辛い」というイメージをもっている人が多いようですが、辛いスパイスは全体のごく一部に過ぎません。
料理にスパイスを使う時、その役割(機能)は大きく分けて、次の4つがあります。
●香りづけ…料理に食欲をそそるおいしそうな香りをつける。
●辛みづけ…料理の味を引き締めたり、食欲を増進したりする。
●色づけ…鮮やかな彩りを演出する。
●臭い消し…魚や肉などの素材の臭みを抑える。
料理の味つけだけではなく健康にも役立つスパイス
ほとんどのスパイスは、複数の役割を同時にもち合わせ、料理に加えることで食材の味を引き立たせたり、食欲を増進させたりする効果を得ることができます。
ヨーロッパやアジアの国々では、食文化はもちろん、健康や美容など様々な分野にスパイスが取り入れられてきました。特に薬として用いられた歴史は長く、インドの伝承医学であるアーユルヴェーダでは、スパイスが欠かせないアイテムです。また、中国の伝統医学や漢方の生薬としても用いられています。日常的に食事に取り入れることで、知らず知らずに健康を増進する効果が期待できるスパイスは、現代医薬品やサプリメントのルーツといってもよいでしょう。
古くは食物の保存や祭祀に使われたスパイス
スパイスの歴史は人類が狩猟を始めた時にまでさかのぼるといわれます。狩りで得た肉や魚を長く保存するために、防腐剤として利用されていたのがスパイスです。
エジプトでは紀元前3,000年頃から、ミイラの防腐剤としてクローブやシナモンなどのスパイスを用い、王たちの儀式などにもスパイスが利用されていました。中国でも紀元前2500年頃に、スパイスを加えた香酒や香飯を神に祀っていたという記録があります。
大航海時代の立役者スパイスが世界史を変えた
中世に入ると、食用としてのスパイスの利用度が高まります。世界4大スパイスといわれる「コショウ」「ナツメグ」「クローブ」「シナモン」は、主に東南アジアやインドなどの熱帯地域が原産です。そのため栽培ができないヨーロッパではスパイスは貴重品であり、金銀に匹敵する財宝として高額で取引きされていました。
東洋へのあこがれをかきたて、15世紀からの大航海時代を演出したのもこれらのスパイスです。スパイスを巡り、ポルトガル、スペイン、イギリス、オランダ、フランスといった列強国が東南アジアを舞台に熾烈な争いを繰り広げました。こうしたスパイス戦争がようやく終わったのは、19世紀になってからのことです。
素材本来の味を生かす日本独自の「薬味」文化
日本でも古くからスパイスが利用されてきました。最古の歴史書である『古事記』には、ショウガ、サンショウを指す「はじかみ」が登場します。奈良時代には東南アジア原産のスパイスが渡来し、正倉院御物にはコショウ、クローブ、シナモンなどが収められています。これらは当時、薬として用いられました。その後も中国や東南アジア、ポルトガルなどとの交易でトウガラシなどが次々と伝播し、江戸時代にはトウガラシを使った七味唐辛子が全国に普及します。
明治時代になると、西洋料理の1つとしてカレーが紹介されました。明治38(1905)年には国産カレー粉が開発され、大正時代に急速に普及してカレーライスは洋食の代表的な存在となります。ただし、コショウ以外のスパイスが一般家庭で使われるようになるのは戦後のこと。今日のように様々なスパイスがスーパーなどで手軽に買えるようになったのは1970年代半ば以降です。
気候風土に恵まれた日本では、新鮮な食材を容易に入手できたため、スパイスに香りづけや消臭効果を求める必要がほとんどなく、素材本来のもち味を活かすことに重きが置かれました。そのため、サンショウ、わさび、シソ、三つ葉、柚子など「薬味」としてスパイスを取り入れる文化が培われ、諸外国とは異なる大きな特徴となっています。
初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第73号 2025年9月





