2025.12.5

トウガラシの植物学と栽培

当協会理事

木村 正典

分類・名称

分類

 トウガラシは、広義には、ナス科カプシクム属(Capsicum)植物の総称で、狭義には、Capsicum annuum var. annuumのうちの辛味種を指します。ほかに甘味種として、ピーマンの仲間と甘トウガラシがあり、ピーマンの仲間は一般流通ではトウガラシに含めません。ここでは「トウガラシ」を広義で用い、狭義のトウガラシは「アンヌウム種」もしくは学名表記で「C. annuum var. annuum」とします。

 カプシクム属には43種あり、このうち、アンヌウム種(C. annuum L.)と、キダチトウガラシ(C. frutescens L.)、キネンセ種(C. chinense Jacq.)、キイロトウガラシ(C. baccatum L.)、ロコト(C. pubescens Ruiz & Pav.)の5種が栽培種とされています(表2)。日本では、伝統野菜としてのトウガラシや、明治以降に導入されたピーマン、日本で作出されたシシトウなどのアンヌウム種と、沖縄を中心に亜熱帯地域で栽培されるキダチトウガラシの2種が重要な栽培種です。そのほか、観賞用にキイロトウガラシが導入されています。また、近年の激辛ブームでキネンセ種が導入されるとともに、ロコトの栽培も見られます。これら5種以外にも、中南米では、各地に自生するトウガラシを伝統的に採集したり栽培したりしており、そのうちの主なものを表2に示しました。

名称

 学名の属名であるCapsicum(カプシクム)は、フランスの植物学者トゥルヌフォール(1656-1708)の記述を基にリンネによって命名されましたが、名前の由来について記されておらず不明です。有力説は、古代ギリシャ語で「箱のような」を意味するkapsikósや、ラテン語で「箱」を意味するcapsaが語源となり、果実の内部が空洞であることに由来する説です。このほか、ギリシャ語で「噛む」を意味するkaptoを語源とし、舌を噛むような辛さに由来するという説もあります。

 種小名については、アンヌウム種のannuumは「一年生の」の意ですが、この種は多年生です。命名者のリンネが、温帯では越冬できないのと、栽培ではほとんど一年生扱いされていることから、一年生植物と思い込んだのかもしれません。

 一方、キネンセ種のchinenseは「支那の」の意ですが、原産地は南米アマゾン流域です。これは、命名者の豪州のJacquinが植物材料を中国から入手し、中国料理に広く用いられていたことから、中国原産と誤って命名したことによります。

 英語でトウガラシは、「コショウ」の意のpepper(ペッパー)で、コショウと区別するために、chili pepper、あるいは単にchili、 辛いことからhot pepperなどと称されます。chiliは国名のチリとは関係なく、メキシコ先住民のナワトル語でトウガラシを指す「chilli」に由来します。そのほか、Jalapeño(ハラペーニョ)やHabanero(ハバロネ)など、品種名で呼ばれることも多いです。ちなみに、ピーマンは英語でbell pepperやsweet pepperなどと呼ばれます。トウガラシをred pepper、ピーマンをgreen pepperと呼ぶこともありますが、コショウの完熟果を強制乾燥させたもの(あるいはその代用品)をred pepper、未熟果を強制乾燥させたものをgreen pepperと呼ぶことがあるため、混乱のもとになっています。

 スペイン語でトウガラシは、中米ではchile(チレ)、南米ではají(アヒ)、スペインではguindilla(ギンディーヤ)と呼ばれます。なお、ピーマンはpimiento(ピミエント)やpimiento morrón(ピミエントモロン)などと呼ばれます。仏語でトウガラシは、piment(ピモン)で、これが日本のピーマンの語源になったとされています。なおピーマンは仏語でpoivron(ポアブホン)です。イタリア語でトウガラシはpeperoncino(ペペロンチーノ)で、ピーマンはpeperone(ペペローネ)です。中国語でトウガラシは辣椒(ラージャオ)や蕃椒(ファジャオ)と呼ばれ、ピーマンは青椒(チンジャオ)です。

 和名は唐辛子で、唐の辛子の意ですが、ここでの唐は海外を意味します。ほかにも、南蛮やなんば、南蛮胡椒、高麗胡椒、胡椒など、多くの名称があります。九州や長野、岐阜などで、トウガラシをコショウと呼ぶ地域があり、伝統品種には‘ぼたんこしょう’(長野県中野市)や‘ししこしょう’(長野県栄村)、‘あじめコショウ’(岐阜県中津川市)、‘花岡こしょう’(鹿児島県鹿屋市)があり、調味料の「柚子胡椒」もコショウではなくトウガラシです。沖縄にはキダチトウガラシの‘島唐辛子’があり、方言でコーレーグースー(地域により表記に揺れがある)と呼ばれます。コーレーグースーは高麗胡椒の訛りとされ、植物名であると同時に、泡盛に漬ける調味料をも指します。そのほか、最も多く流通している伝統品種の‘鷹の爪’の名で呼ばれることもあります。また、緑の未熟果を青唐辛子、赤熟した完熟果を赤唐辛子と称します。

 トウガラシにはカイエンペッパー(cayenne pepper)と呼ばれるものがあります。カイエン(cayenne)は仏領ギアナの首都名でもありますが語源を異にするようです。トウガラシのカイエンは、ブラジル先住民の古代トゥピ語で「トウガラシ」の意のkyynhaの訛りとされています。カルペパー(1514-1541)がこの用語をGuinea pepper(この時代のトウガラシの呼称)の別名としたとする記述も見られ(未確認)、古くから、トウガラシの別称や商品名などに用いられてきました。カイエンが何を指すかは時代により曖昧ですが、今ではトウガラシの別称ではなく、アンヌウム種のカイエンの名のつく品種群とする解釈が主流です。

形態・成分 

形態

 トウガラシは若いうちは草本ですが、やがて基部から木化し、常緑木本になります。草丈はアンヌウム種で40〜120cmで、2mに達するものもあります。一方、キネンセ種は、アンヌウム種よりやや高く40〜150 cmに、フルテスケンス種は1〜2 mになります。

 アンヌウム種は、発芽後、本葉8枚程出たのち、先端に花芽が形成され、その後は温度や日長などの影響を受けずに、各葉の葉腋に規則正しく葉の数だけ花が咲きます。ただし、鷹の爪群では節間が詰まって房成りしやすい傾向があり、八房群では完全に房成りし、心止まりして果実が一斉に着きます。

 トウガラシの花は合弁で、花冠の先が5裂を基本とし、7裂まで変異が見られます。花色は、アンヌウム種やアヒ・プタパリオで白を基本とし、品種によって紫や緑などがあります。キダチトウガラシとキネンセ種、キイロトウガラシでは白〜淡クリーム色を基本とします。一方、ロコトでは美しい紫を呈し、ウルピカやウルピカ・デ・チャコでは、花冠の背軸面(裏面)が白く、向軸面(表面)は紫を呈しています。

 果実は野生種で小さく、栽培種で大きい傾向があります。栽培種内では品種によって大きく異なり、アンヌウム種では果実の小さい品種で上を向いて着果し、果実の長いあるいは大きい品種で下に垂れ下がる傾向にあります。果実色は、熟すとクロロフィルが分解されて隠れていたカロテノイド類が現れて、黄色やオレンジ色になるもの、そこにアントシアニンが着生して紫色になるもの、カロテノイドの一種のカプサンチンが発現して赤くなるものなど、品種によって異なります。また、これらの色素が一つの植物で様々現れる五色系は観賞に供されます。なお、カプサンチンはカロテノイド一種で、カプサイシンと違って辛くはありません。

 種子は白花種では淡黄〜黄色ですが、ロコトなどの紫花種では黒褐色です。

辛味成分カプサイシノイド

 辛味の主成分はカプサイシン(capsaicin)で、次に多いジヒドロカプサイシン(dihydro-capsaicin)とあわせて8〜9割を占めます。そのほかノルジヒドロカプサイシン(nordihydro-capsaicin)やホモカプサイシン(homo-capsaicin)、ホモジヒドロカプサイシン(homo-dihydro-capsaicin)などがあり、総称してカプサイシノイドと呼ばれます(岩井・渡辺,2000)。

 カプサイシノイドは、果実内の白いワタの部分である胎座(プラセンタplacenta)と、果実内部の仕切りとなる隔壁(septum)の表皮細胞で作られ、細胞外に放出されます。ただし、放出直後は表皮細胞を覆っているクチクラ(cuticula;キューティクル)の膜の中に留まっています。この放出が続くと、まもなくクチクラが壊れてカプサイシノイドは果実内部に拡散し、果実の内壁全体が辛くなります。外壁には付着しませんので、舐めても辛くないはずです。胎座は種子に栄養を運ぶと共に辛味で外敵から保護する役割もあります。種子はカプサイシンを作りませんが、胎座表皮から放出されたカプサイシンがまんべんなく付着するため、果肉よりも辛味を強く感じます。


Capsicum annuum var. annuum ‘Jalapeño(ハラペーニョ)’の果実断面。種子の着いている白い部分が胎座(プラセンタ)で、部屋を分ける白い仕切りが隔壁。胎座と隔壁の表皮細胞でカプサイシノイドが作られ、やがて果実内部に放出される。

 カプサイシノイドが作られ始めるのは、アヒ・プタパリオで開花後7日目から、そのほかの種では14日目からとされています。また、カプサイシノイド含量が最大になるのは、ロコトでは開花後70日、そのほかの種では14〜30日であり、その後低下がみられるとしています(岩井・渡辺,2000)。南ら(1998)は‘鷹の爪’と、ネパール産、タイ産のキダチトウガラシとキネンセ種の交配種では、いずれも開花後40日にピークに達したことを報告しています。アンヌウム種では開花後20〜30日で青唐辛子が収穫され、40日くらいで赤熟し始め、60日くらいで赤唐辛子が収穫されます。したがって、開花後2週間以内の幼果は辛くなく、収穫適期の青唐辛子が最も辛く、赤熟すると辛味がやや弱くなることになります。

 カプサイシンは外敵から種子を守る働きがあり、哺乳類ではヒトとツバイ以外はトウガラシの果実を食べないとされています。また、哺乳類の糞中の種子は発芽能力を持たないことが分かっています。一方、鳥類は辛味を感じないだけでなく、糞中の種子は発芽能力を維持しています。これらのことから、トウガラシは哺乳類を避け、鳥類に食べられて糞で種子の拡散を狙っていると考えられています(Tewksbury & Nabhan,2001;松島,2025)。また、果実がカメムシに吸汁されるとそこからフザリウム(真菌類)に感染します。フザリウムはカプサイシノイドで繁殖が抑えられることや、カメムシの吸汁痕の多いもの(フザリウム感染しやすいもの)ほど辛いこと、フザリウム感染しやすい降水量の多い地域ほど辛いことなどが明らかになり、トウガラシはフザリウム感染を防ぐために辛くなったと推察されています(Tewksbury et al., 2008;Haak et al., 2012;松島,2025)。

機能性成分と作用、薬用

 マヤ文明やアステカ文明では、咳や喘息、歯痛、潰瘍などに用いられてきました。

 中薬としては、キダチトウガラシの果実を「辣椒」と呼んで、腰腿痛や外科炎症、凍傷、外傷による鬱血と腫れに外用されるほか、下痢などに内服されます。また、中国南部産のキダチトウガラシの果実を「指天椒」と呼び、イヌによる咬傷などに外用されます。

 林(2023)は、トウガラシには健胃や鎮痛、局所充血作用があり、食欲不振や筋肉痛、神経痛などの疼痛に用いられると記しています。健胃作用はカプサイシンによるもので、摂り過ぎると胃腸障害を起こしますが、適量では辛味健胃薬として消化不良や食欲不振に効果があります。また、鎮痛作用から、軟膏剤やチンキ剤、パップ剤で、帯状疱疹後の神経痛や糖尿病性の神経障害、関節炎、打撲、捻挫、筋肉痛などに外用されます。さらに、局所充血作用から、無水エタノール抽出したチンキ剤をローションで希釈して育毛や養毛に用います。

 近年では、肥満解消につながる脂肪燃焼作用も明らかになっています(細山田ら,2021)。

 辛味成分のカプサイシンは、甘味や酸味、塩味、苦味、うま味といった5味が舌の上にある味蕾で感知されるのと違って、痛みや熱と同じく、TRPV1と呼ばれる筒状膜の受容体で感知されます(富永,2024)。詳細は本誌の富永先生のページを参照ください。カプサイシンが受容体と結合すると受容体が広って、カルシウムやナトリウムなどのイオンが細胞内へ流れ込みやすなります。ナトリウムイオンが味蕾とは別な受容体から知覚として伝わることにより、少量の塩でも塩味を強く感じてしまいます。この仕組みを利用して、辛味を感じない程度の微量の辛味成分を料理に加えることで、辛味受容体からの塩味信号によって塩味を強く感じます。減塩しても塩気の満足感を維持できることから、減塩の普及が期待されます。

人とのかかわりの歴史

 トウガラシの祖先は、小さくて丸く赤いベリー状果実を着ける植物で、カプサイシン受容体を持たない鳥類によって種子が拡散し、種分化をしていったと考えられています(Chile Pepper Institute, 2024)。その起源地は、ベネズエラ、コロンビア、エクアドル、ペルーを含む北アンデス地域といわれています。一方で、現在の栽培種に近い野生種はアマゾン流域の低地に分布しており、栽培化には低地の役割が大きいとされています(Piperno and Pearsall, 1998)。トウガラシと人との関わりは1万年前のB.C.7500年頃、メキシコを起源とするC. annuum var. annuumとキダチトウガラシが最初とされ、特にC. annuum var. annuumは、人間到達前からメキシコに存在していたC. annuum var. glabriusculumを祖先として、メキシコ南部のユカタン半島とゲレロ州南部低地の異なる数個所から同時期に栽培化が起こって誕生したと推察されています(Chiou, 2024)。その後、スペインによってマヤ文明が滅亡するまでの間、栽培種と野生種の交配が続いたとされています(Nelson, 2024)。

 1492年に、コロンブスはインドを目指して出航し、コショウを持ち帰るつもりが、中米の西インド諸島に上陸、翌年には、トウガラシをコショウの仲間と思ってpepperの名で欧州に持ち帰りました。それ以降、あっという間に旧世界の温帯〜熱帯地域に普及し、各地の食文化を変えてしまうような大きなインパクトとなりました。コショウと違って温帯でも栽培できるメリットは大きかったと思われます。

食利用

 中米では、アンヌウム種を中心に、キダチトウガラシやキネンセ種(‘ハバネロ’など)、ロコトが用いられています。アンヌウム種の原産地のメキシコでは、「サルサ」や「モーレ」などの調味料や、「タコス」、「アドボ」、「チレレジェーノ」、「チレスエンノガダ」などの伝統料理に用いられています。また、タバスコ州のキダチトウガラシを用いたチリペッパーソース(商品名:タバスコ)や、アンヌウム種数品種を原料とするハーブソルト(商品名:タヒン)などもメキシコの企業で作られ、世界中で利用されています。

 南米では、サバナ平原のグランチャコを中心に、ペルーからボリビア、パラグアイ、アルゼンチンにかけて、アヒ・アマリージョ(キイロトウガラシ)やロコト、ウルピカが栽培されているほか、ウルピカ・デ・チャコやアヒ・プタパリオなどの野生種も利用されています。ペルーには、ジャガイモとチーズを使った「パパアラワンカイナ」や鶏肉シチューの「アヒデガジーナ」などのトウガラシ料理があります。ボリビアでは、「リャフア」と呼ばれる辛味調味料や、ワンプレート料理の「プラトパセーニョ」、スープの「フリカセ」などにトウガラシが使われています。

 欧州では、コロンブスが持ち帰って以降、主としてアンヌウム種が地中海沿岸を中心に導入され普及しました。スペインやポルトガルでは、ソーセージの保存と辛味を目的として、「サラミ」や「チョリソー」などに、イタリアでは、「ペペロンチーノ」や「アラビアータ」などのパスタに、トウガラシが伝統的に用いられています。ハンガリーでは、16世紀にトルコ経由で導入され、独自に品種分化が進み、1724年にはハンガリー語のパプリカの名が誕生しました。ハンガリーでは甘味種のパプリカ以外にも、辛味種が普及し、スープの「グヤーシュ」や「ハラースレー」、具詰め料理の「テルテット・パプリカ」、煮込料理の「レチョー」や「パプリカーシュ」、絶品サラミの「テーリサラーミ」など、辛い料理が欧州で最も多い国といわれています。

 北西アフリカのマグレブ諸国では、チュニジアの調味料の「ハリッサ」など、伝統的調味料の原料などにトウガラシが用いられています。

 アジアでは、主としてアンヌウム種が用いられるほか、タイや沖縄など、キダチトウガラシを利用する地域もあります。インドでは、カレー粉の基本スパイス(トウガラシ、ターメリック、クミンシード、コリアンダーシードの4種)として欠かせないものになっています。南アジア各国の「アチャール」もトウガラシが必須です。ブータンには、「エマダツィ」や「エゼ」、「パクシャパ」などのトウガラシ料理があります。タイには、「トムヤム」や「カーオガパオ(ガパオライス)」、「ソムタム」、「ヤムウンセン」、「ゲーン(タイカレー)」など、キダチトウガラシによる激辛料理の多い特徴があります。中国では、地域差があり、湖南、雲南、四川、貴州で花椒と共に辛い料理に欠かせないスパイスになっており、特に四川料理が有名です。トウガラシを用いた調味料には、「辣椒油(辣油)」や「豆板辣醤(豆板醤)」などが、料理には「麻婆豆腐」や「担々麺」、「回鍋肉」、「火鍋」、「辣子鶏」などがあり、いずれも日本でもおなじみの激辛の定番になっています。韓国には、トウガラシを用いた調味料に「コチジャン」があり、漬物の「キムチ」をはじめ、「スンドゥブチゲ」や「タッカルビ」、「タッパル」、「プルダック」など、辛い料理がたくさんあります。ただし、韓国の品種は、日本の‘鷹の爪’ほど辛くなく、風味の高い特徴があります。

 日本にトウガラシが伝来したのは、南蛮貿易の頃で、コロンブスが欧州に持ち帰って半世紀しか経っていません。伝統的には「七味唐辛子」や「柚子胡椒」、「コーレーグースー」などの辛味調味料があり、麺類や鍋物、煮物、汁物、チャンプルー、干物などに、各自、好みで量を調整して用いる特徴があります。また、乾燥赤トウガラシを刻んで和え物や酢の物、きんぴらなどにピリ辛のアクセントとして用いたり、漬物などの保存やアクセントに用いたりします。辛子明太子にも必須です。ただし、伝統的な日本料理にはトウガラシを使った激辛料理の少ない特徴があります。

 このほか、アジアでは、果実以外にも葉を野菜として炒めるなどして食べるほか、日本では葉を佃煮にして葉唐辛子として食べます。トウガラシやピーマンの葉は、ほかのナス科植物と違って食べることができ、しかも、ビタミンCやA、Eなどの含有量は果実よりも高く、辛味を有しませんので、葉も積極的に食べましょう。

観賞用

 日本では、古くからアンヌウム種の‘五色’(五色唐辛子、別名:花唐辛子)や‘榎実’などの品種が観賞に供されてきました。そのほかにも、キイロトウガラシ(バッカトゥム種)の‘アヒオムニコロール(Aji Omnicolor)’や‘パンプキン(Pumpkin)’、キダチトウガラシの‘ニューメックストワイライト(NuMex Twilight)’などがあります。米国では地上部全体が黒〜濃紫色の‘Black Pearl’(アンヌウム種)が、ハンガリーでは葉は緑で未熟果が黒色でやがて赤熟する‘Hungarian Black’(アンヌウム種)が、南米や欧州各地では、裾広がりのベル型の‘Bishop’s Crown’(‘Christmas Bell’、‘Joker’s Hat’とも)(Capsicum baccatum var. pendulum (Willd.) Eshbaugh)が、観賞用と食用の両方で楽しまれています。

病害虫獣対策ほか

 トウガラシは、カプサイシンの威力により、害獣対策にも用いられ、ネズミやイノシシ、シカ、タヌキ、イタチなどの侵入を防ぐために燻煙したりスプレーしたりし、クマ撃退スプレーにも用いられています。熱帯アジアやアフリカでは、ゾウから作物を守るために、周囲作として植えられることがあります。そのほか、防虫・抗菌作用を利用して、書物や衣類、人形、食品などの保存に利用されてきました。また、酢と焼酎を半々に割ってニンニクと共に漬け込んだ「ストチュウ」は病害虫対策に有効です。

スコヴィル値

 1990年以降、米国や英国を中心に、最も辛いトウガラシ品種を作出するために、キネンセ種を中心に品種改良が激化しています。辛味の指標として、1912年に「スコヴィル値」が開発されました。開発当初は、トウガラシ抽出物を砂糖水で希釈して5人の被験者が辛味を感じなくなる希釈率をスコヴィル値としていました。現在では分析して得られたカプサイシン含量をスコヴィル値に換算しています。この値が100万を超える品種はスーパーホット(激辛)と呼ばれ、ランキングされています(表1)。ランキングのトップは皆、キネンセ種、もしくはキネンセ種とフルテスケンス種の交雑品種です。1990年までの激辛品種の代表は ‘ハバネロ’でした。アンヌウム種では‘ハラペーニョ’や‘鷹の爪’が、フルテスケンス種では、沖縄の‘島唐辛子’やタイの‘プリッキーヌ’が辛いトウガラシの代名詞になっていました。現在、ギネス記録を持つ世界一辛い唐辛子は、‘ペパーX’で、次いで、‘ドラゴンズブレス’、‘チョコレート7ポット’、‘キャロライナリーパー’と、いずれもキネンセ種が上位を占めています。

日本の伝統品種

 日本の食用伝統品種は、‘島唐辛子’がキダチトウガラシ(フルテスケンス種)であることを除いて、全てアンヌウム種で、いくつかの品種群に分けられます。五色群、榎実群は、小さい果実が上向きに着く観賞用品種群で、‘榎実’は食用にもなります。鷹の爪の群は最も代表的な品種群で、‘鷹の爪’のほか‘本鷹’や‘だるま’があり、辛味が強く、果実は上向きに着き、多収ですが収穫時期が不揃いのため手摘みされます。八房群には‘八房’や‘栃木三鷹’などがあり、辛味は鷹の爪群よりも弱く、果実は房成で心止まりをして一斉に赤熟することから株ごと収穫されます。伏見群には‘万願寺’や‘伏見甘長’、‘剣先’、‘日光’、‘札幌大長’などがあり、果実以外にも葉唐辛子としても出荷され、果実は大型で下向きに着き、辛味は弱く、辛味を感じない甘味種も含まれます。

育て方

 トウガラシは5℃以下で枯死するため、温帯では越冬できずに一年草扱いの夏野菜です。一方、熱帯・亜熱帯では常緑多年草で、基部から次第に木化して常緑小灌木になります。

 発芽適温は25〜30℃であり、遅霜の心配がなくなって十分に暖かくなってから播種しましょう。播種から発芽まで5〜10日ほどかかり、適温から外れるほど日数がかかります。播種後、2カ月くらいして本葉7〜8枚で一番花が咲きます。一番花から下の各葉腋からは側枝が繰り返し出ますが、それらは全て芽かきをして除去します。果実が実ったら、それより下の葉は全て除去します。除去した葉は野菜として美味しくいただきましょう。果実はいつ収穫しても構いませんが、開花後20〜30日で青唐辛子、60日くらいで赤唐辛子の収穫が目安です。八十八夜に播種すれば、青唐辛子で8月には、赤唐辛子で9月には収穫可能になるでしょう。八房群は房成りで心止まりをして一斉に結実しますので、収穫は1株1回で済みます。そのほかの品種は収穫できるものから順次1個ずつ収穫していきます。青い未熟果をフレッシュで使うほか、赤熟した完熟果をフレッシュやドライで使います。ドライにする場合は、キッチンリースなどに飾り付けるとよいでしょう。

引用文献

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Capsicum baccatum L.のいろいろな品種
Capsicum pubescens Ruiz & Pav.のいろいろな品種
当協会理事
木村 正典 きむらまさのり
(株)グリーン・ワイズ。博士(農学)。ハーブの栽培や精油分泌組織の観察に長く携わると共に、都市での園芸の役割について研究。著書に『有機栽培もOK! プランター菜園のすべて』(NHK 出版)など多数。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第73号 2025年9月