日本のハーブ:ヒキオコシとエンメイソウ
薬草園にはヒキオコシが植えられている。ヒキオコシは生薬名をエンメイソウとして第5改正日本薬局方に収載されたことがある。第二次世界大戦で、ヨーロッパからの生薬が入手困難になり、国産生薬を利用することとなった。その代表が苦味健胃薬のゲンチアナで、エンメイソウを代用にした。多くの家庭薬に配合され汎用された。
しかし、ヨーロッパから生薬の輸入が復活し、第6改正日本薬局方では削除され、現在は日本薬局方生薬規格集に収載されている。
1)ヒキオコシ
シソ科植物で、茎が四角く、葉は対生し、花が二唇形で、筒状の花冠である。茎や葉には香気がある。雄蕊は4個。雄蕊は舟形の花冠の下唇に沿って傾下し、花冠は上唇4個、下唇の裂片より成る2唇形。シソ科の香辛料植物には、木本のローズマリーやイブキジャコウソウがある。草本ではヒキオコシ以外にも、シソ、ハッカ、エゴマ、ミント、ラベンダー、セージなどがある。
ヒキオコシはヤマハッカ属で、花が白色から紫青色で、分果が無毛のヒキオコシとカメバヒキオコシがある。花は暗紫色、長さ5〜6mm。分果は有毛のクロバナヒキオコシがある。ヒキオコシは花冠の長さ5〜7mm、白色を帯びる。雄蕊または雌蕊は花外に超出する。葉は長さ6〜15cmである。カメバヒキオコシは蕚が2唇形、花は長さ6〜20mm、花冠の上唇は濃紫色の小点がない。分果に粒腺がない。花は長さ8〜12mm、筒部は長さ弦部の1〜3倍。葉は、卵円形、三角状円形、または広卵形、先端は急に亀尾状の頂片である。頂片は2〜5cm、長さ5〜8cm、幅5〜8cmである。




2)クロバナヒキオコシ
茎は短い根茎から叢生し、4稜あり。高さ0.5〜1.5m、上部は分枝がある。葉は三角状広卵形から広披針形にして、鋭尖頭、鋸歯あり、基部広楔状脈上に圧短毛がある。仮輪に腋生する。長細い梗には集散花序がある。上方のものは総状になる。萼は微毛があり、果実長さ3〜3.5mm、葉は三角形。花冠は暗紫色、長さ5〜6mm、筒部は下唇及び萼と同長。分果は倒卵形でほとんど扁平ではなく、長さ1.5mm、白毛がある。北海道、本州の山地に分布する。



3)エンメイソウ(延命草)
ヒキオコシとクロバナヒキオコシが基原植物とされている。ヒキオコシIsodon japonicus H. Hara、又は、クロバナヒキオコシIsodon trichocarpus Kud(Labiatae)の地上部である。
生薬は、茎、及びこれに対生する葉からなり、茎は方柱形で、淡褐色〜緑褐色、細毛がある。葉は狭卵形〜広卵形で、先端は鋭形、基部は浅い心形、又は広いくさび形をし、長さ6〜15cm、幅3.5〜10cm、辺縁に鋸歯があり、葉柄は長さ2〜4cmである。上面は淡黄褐色〜緑褐色、下面は淡緑黄色である。両面には細毛が認められる。僅かに匂いがあり、味は極めて苦い。
成分は、ジテルペノイド(エンメイン、ジヒドロエンメイン、イソドカルピン、オリドニン、トリコドニンなど)を含む。薬用としては、苦味健胃薬として、家庭薬に配合されている。
延命草は日本の民間薬、『和漢三才図会』(1712年)芳草類、延命草は俗名、「俗曰云、引起すの義は回生起死の謂である」として収載されている。ヒキオコシの名前の由来は、弘法大師が、山で病んだ人に出会い、野草を与えたら元気になったとの故事からで、引き起こした草からヒキオコシの名前がついたといわれ、弘法大師の書に般若心経秘鍵があるので、この中に薬草に触れたとの伝承かもしれない。
[写真提供]
①③⑤⑥⑦:株式会社栃本天海堂 松島 成介氏
②④:昭和薬科大学 薬用植物園 中野 美央氏
初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第70号 2024年12月