2020.12.15.

女性の健康とチェストツリー (チェストベリー)

日本メディカルハーブ協会 理事・ 学術委員会委員長 株式会社トトラボ代表

村上 志緒

チェストツリー(chaste treeシソ科ハマゴウ属Vitex agnus-castusセイヨウニンジンボク)は地中海沿岸から西アジアに自生する低木です。主に海浜に自生し、葉は掌状で、初夏の頃に青い小花を房状に咲かせ、花も葉も実 も特徴ある芳香をもっています。このチェストツリーの仲間ハマゴウ属の植物には、日本でも沖縄などの海浜でみられるハマゴウ(Vitex rotundifolia)や南太平洋地域の海浜に多く自生するミツバハマゴウ(Vitex trifolia)などがあり、同じく薬用植物として活用されてきました。

このチェストツリーの果実であるチェストべリーは、月経前症候群(PMS)、月経痛、月経不順、そして更年期の症状など女性の不調の改善や催乳などに用いられてきた人気の高いメディカルハーブであり、ブラックコホシュ(Actaea racemosa )と共に、女性のためのハーブの代表的なものといえるでしょう。

その機能発現のメカニズムについては、脳下垂体への作用により黄体形成ホルモン(LH)の分 泌の増加や卵胞刺激ホルモン(FSH)の分泌抑制に影響を与えること、エストロゲン受容体、そしてドパミンやβ‐エンドルフィンなどの神経伝達物質への関与などが示唆され、これらは女性ホルモンのバランスにかかわる不調の改善への効果の要因であると考えられており、子宮筋腫や子宮内膜症、不妊症への適応も試みられています。

1. PMSに対する有効性

チェストツリーは、ホルモンバランスの不具合に起因する女性の不調に幅広く活用されますが、そのうちPMSは代表的なものといえるでしょう。まずはこのチェストツリーの有効性について報告された臨床研究の中から一つご紹介いたします。

チェストツリー


日本人のPMSに対するチェストツ リー抽出物の有効性と安全性 1)

チェストツリー抽出物を含むハーブ製剤は、 ヨーロッパでは月経前症候群(PMS)の女性に広く使用されていますが、日本人を対象とした臨床研究についての報告はこれまでにはありません。この研究は、日本人PMS患者におけるチェストツリー抽出物の有効性と安全性を明らかにすることが試みられました。

方法:

  1. いくつかの医療施設において施行した。
  2. 18~44歳のPMSの症状をもつ日本人女性69名を対象とした。
  3. 20mgの抽出物を含むPrefemin®(Max Zeller Söhne AG, Romanshorn, Switzerland)を1日1回、3回の月経周期で摂取した。
  4. 有効性についてはビジュアルアナログスケール (VAS)で記録した10のPMS症状である、過敏性、抑うつ気分、怒り、頭痛、腹部膨満、乳房膨満、皮膚障害、疲労、眠気、及び不眠の強度に基づいて検討した。
  5. 医師のグローバル評価(PGA)スコアが記録された。
  6. バイタルサインや臨床検査値をもとに安全性の評価をした。

結果:

  1. 最初の月経周期の後、VASの合計スコアが有意に減少した( P < 0.001 )。
  2. 2番目の周期の間、スコアは減少し続け、その結果10の症状スコアのそれぞれが大幅に減少した。
  3. 3番目の月経周期では被験者のほとんどが無症状であるか、軽度の症状のみを示した。
  4. 8人の被験者が重篤ではない有害事象を示し、そのうちの1人は抽出物との因果関係が不明のアレルギー性皮膚炎であった。

これらの結果によりチェストツリー抽出物は、実質的な有害事象を見ることもなく安全に、日本人のPMS症状を改善したことが示唆されました。月経前症候群の症状緩和にチェストツリー抽出物を活用することが選択肢の 一つとして期待できます。

2. フィトエストロゲンにかかわる作用

植物が生合成する物質のうち、摂取した体内で内分泌された女性ホルモンのような機能を有する物質のことをフィトエストロゲンといっています。女性のためのメディカルハーブで は 、それらのもつエストロゲン様作用 や抗エストロゲン作用が不調の改善に大きくかかわっていることが示唆されています。

大豆やレッドクローバーなどマメ科の植物のイソフラボンやゴマ、アマ、穀類などに含まれるリグナンはその代表的なものですが、チェストツリーについてもエストロゲン受容体への影響を示唆するいくつかの論文がありますので、そのうちの一つを紹介します。

チェストツリーが、卵巣切除ラットの認知機能を改善、エストロゲン受容体αの転写を増加 2)

閉経後の女性ではエストロゲンのレベルが低くなり、それが学習と記憶力が減退することの大きな要因と考えられています。フィトエストロゲンは力価が生体内エストロゲンと比較して小さいことから、フィトエストロゲンを有するハーブはホルモン補充療法と比べて副作用が少ないことが考えられ、更年期障害に関連する認知機能低下を防ぐために活用することが望まれています。この研究では、卵巣切除により閉経後のモデルとなるラットを対象にチェストツリーの認知機能への有効性とそのメカニズムが検討されました。

方法:

1) 体重180~220gの24匹の雌Wistarラットを卵巣切除し対象とした。
2 ) ラットは以下のグループにランダムに分けられた。
・対照群
・8mgまたは80mg /kgチェストツリーのエタノール抽出物を投与
・40μg /kgのエストラジオールを投与
3) 学習と記憶の評価には、ステップスルー受動回避(STPA)試験を用いた。
4) 海馬エストロゲン受容体α(ERα)の発現をリアルタイムPCRで測定した。

結果:

1) チェストツリーまたはエストラジオール投与によりステップスルー受動回避試験で、対照群と比較してより、優れたパフォーマンスを示した(すべてP<0.05)。
2 ) チェストツリーまたはエストラジオールの投与により、ERαの海馬mRNAレベルが増加し、卵巣切除ラットの子宮重量の減少が抑えられた。

これらの結果より、チェストツリー抽出物は卵巣切除ラットの学習と記憶を改善することが確認されました。こういったチェストツリーの学習と記憶に対するプラスの効果は、海馬でのERα遺伝子発現の増加と関連していることが示唆されます。

参考文献

1)Momoeda M, et.al. Efficacy and safety of Vitex agnus-castus extract for treatment of premenstrual syndrome in Japanese patients: a prospective, open‐ label study. . 2014; 31(3):362‐373.
2)Allahtavakoli M. et.al., Vitex Agnus Castus Extract Improves Learning and Memory and Increases the Transcription of Estrogen Receptor α in Hippocampus of Ovariectomized Rats. Basic Clin Neurosci. 2015;6(3):185‐192.

日本メディカルハーブ協会 理事・ 学術委員会委員長 株式会社トトラボ代表
村上 志緒 むらかみ・しお
薬学博士・理学修士。早稲田大学及び大学院 理工学研究科修了。東邦大学大学院薬学研究科修了。植物 療法学(民俗薬草文化、作用機序、特に向精神作用)を研究。 東邦大学薬学部訪問研究員。東京都市大学など非常勤講師。 著書に『日本のハーブ事典』、『日本のメディカルハーブ事典(』東京堂出版)など。http://www.totolab.com