2021.8.18.

【薬物相互作用を学ぶ】メディカルハーブがもたらす一般的傾向と治療的相互作用の可能性

グリーンフラスコ代表

林真一郎

今回は「薬物相互作用を学ぶ全4回シリーズ」の最終回です。1回目は「食品と医薬品の相互作用」と題して、緑茶やグレープフルーツジュース、納豆や緑黄色野菜と医薬品などの相互作用の具体例とそのメカニズムを解説しました。2回目は「ハーブと医薬品の相互作用」と題して、アスピリンやエストロゲンとメディカルハーブの相互作用の具体例を提示し、3回目はAHPA(米国ハーブ製品協会)編集の『メディカルハーブ安全性ハンドブック第2版』で相互作用クラスBおよびクラスCに分類されたメディカルハーブについて、具体的にその内容を解説しました。

さて、医薬品の種類は膨大であり、メディカルハーブの種類も多いため、すべての組み合わせの相互作用を調べたり把握することは現実的ではありません。そこで薬物相互作用の原因となるメディカルハーブの一般的傾向である4つの傾向について解説します。また、薬物相互作用は作用の減弱や亢進、有害作用の発現などの不利益を生じさせる可能性がある一方で、その相互作用を上手に使いこなすことで利益をもたらす可能性もあります。そうした治療的相互作用(therapeutic interactions)についても解説します。

1.メディカルハーブがもたらす一般的傾向

1.肝薬物代謝酵素の誘導

フィトケミカル(植物化学)成分は化学合成の産物ではなく植物が光合成によって生合成したものですが、ヒトにとっては生体異物(xenobiotics)であるため生体防御システムが働き、異物を分解、排出するための反応が生じます。薬物代謝は第1相から第3相に分類されます。第1相ではシトクロムP450などの酵素が働き、酸化、還元、加水分解などの反応が起こります。第2相ではグルタチオンやグルクロン酸などとの抱合反応により、水溶性が高まります。第3相ではP糖タンパク質などの排出トランスポーターによって細胞から排出されます。こうした代謝は主に肝臓において行われますが、消化管や肺、皮膚の上皮細胞においても行われます。メディカルハーブにはフラボノイドやカリウム、食物繊維などが含まれているため、発汗、利尿、緩下作用をもつものが多く、代謝、排泄をさらに促します。ところでメディカルハーブと医薬品を併用した場合に、メディカルハーブによって医薬品の代謝に変化がもたらされることがありますが、逆に医薬品もメディカルハーブの成分の代謝に影響を与えることがあります。例えばある種の医薬品はカフェインの代謝を阻害することが知られていますが、この場合はコーヒーやマテ茶を服用した際のカフェインの効果が長引くことになります。

2.抗血栓作用の増強

活性酸素は血小板凝集を促進しますが、ポリフェノールをはじめとする植物化学成分は活性酸素を消去するため、血液の凝固や血栓の生成を防ぎます。またポリフェノールやクエン酸などの植物酸は、活性酸素の連鎖的な発生の触媒となる鉄イオンや銅イオンをキレートして、反応を阻止します。ストレスにより交感神経系が亢進すると好中球が活性化し、白血球同士や白血球と血管上皮細胞が結合することで、血液の流動性が低下します。メディカルハーブは一般に副交感神経を優位にするため、こうした反応を防ぎます。クエルセチンなどのフラボノイドは血小板のCOX1(シクロオキシナーゼ1)を阻害し、血小板凝集を起こすTXA2(トロンボキサンチンA2)の合成を抑制します。こうした多様なメカニズムによってメディカルハーブは抗血栓作用をもたらすため、アスピリンのような抗血小板薬やワルファリン、ヘパリンのような抗凝固薬との併用には注意が必要です。

3.光感受性の増強

クロロフィル(葉緑素)の分解物であるフェオホルバイドは光増感剤(自らが光を吸収して得たエネルギーを他の物質に渡す性質をもつ物質)として作用し、光線過敏症を招く可能性があります。このためクロレラや緑の濃い野菜やハーブの粉末には注意が必要です。セントジョンズワートに含まれるヒペリシンは光感受性を高めます。ベルガモットの精油に含まれるベルガプテンやアンジェリカの精油に含まれるアンゲリシンなどのフロクマリン類は、光毒性のリスクをもちます。光線過敏症の原因には、光毒性反応と光感作反応の2種類があります。光毒性反応の例にはフロクマリン類があり、光増感物質の蓄積によって起こります。一方、光感作反応は光線によってハプテンとなった物質がタンパク質と結合して抗原性を獲得し、免疫反応を起こすものです。光感受性を増強する成分を用いる場合はニューキノロン系抗菌薬や非ステロイド性消炎鎮痛薬、利尿薬や抗ヒスタミン薬などの光線過敏症のリスクをもたらす薬との相互作用に注意が必要です。

4.経皮吸収の促進

精油の成分は脂溶性で分子量が500以下であることから、経皮吸収されることが明らかになっています。また精油の成分は経皮吸収するとともに、他の薬物の経皮吸収を促進するケースも報告されています。抗がん剤の5-フルオロウラシルの経皮吸収を、アニスの精油は2.8倍、イランイランの精油は7.8倍、ユーカリの精油は34倍高めます。l-メントールは、消炎鎮痛剤のインドメタシンの経皮吸収を15倍高めます。ところでオイルマッサージのキャリアオイルに植物油が用いられますが、一般に飽和脂肪酸は経皮吸収を妨げ、不飽和脂肪酸やアルコールは経皮吸収を促進します。そのためオレイン酸などの不飽和脂肪酸は、経皮吸収を促進します。また脂肪酸自体も経皮吸収して血中に取り込まれることも報告されています。経皮吸収促進作用のある精油とニトログリセリンなどの狭心症治療剤、ツロブテロールなどの喘息治療剤、エストラジオールなどのホルモン製剤、ニコチンなどの禁煙補助剤、フェンタニルなどの麻薬鎮痛剤、リバスチグミンなどのアルツハイマー型認知症治療剤、などの経皮吸収型製剤の併用は相互作用に注意が必要です。

2.治療的相互作用の可能性

メディカルハーブと医薬品との相互作用については「医薬品の作用を不安定化させる困ったもの」といったマイナスの捉え方が一般的でしたが、最近では相互作用を積極的に活用しようという前向きな捉え方も普及しつつあります。薬力学的相互作用の活用例としては、アセトアミノフェンの服用者があらかじめミルクシスルを服用して肝臓を保護し、肝障害を予防するといった例です。また抗がん剤を服用する際に、アジュバント(免疫補助薬)としてエゾウコギを服用し、抗がん剤による気力、体力の低下を防いで化学療法を支持するといった例もあります。薬物動態学的薬物相互作用の活用例としては、ブラックペッパーやヒハツに含まれるピペリンがバイオアベイラビリティ(生物学的利用能)を高めることが知られているので、医薬品やサプリメントを服用する際に併用するといった例があります。統合医療や統合ヘルスの普及に伴い、こうした試みは広まっていくと予想されます。

グリーンフラスコ代表
林真一郎 はやししんいちろう
当協会理事長。1982年、東邦大学薬学部薬学科卒業。1985年、ハーブ専門店グリーンフラスコ設立。2001年、植物療法の調査研究のためグリーンフラスコ研究所を設立し、医師・薬剤師・看護師などとネットワークをつくり、植物療法の普及に取り組む。東邦大学薬学部客員講師、日本赤十字看護大学大学院非常勤講師。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第37号:2016年9月