植物たちが秘める健康力:〜 日本人の健康に貢献する“シャクヤクの力” 〜

今回は、シャクヤクの力を紹介します。でも、「シャクヤクが、日本人の健康に貢献する植物にふさわしいのか」と怪訝に思われるかもしれません。実は、私も、若い時には、そのように思う1人でした。
ところが、歳を重ねて、ある症状に悩んで、お医者さんに相談した時、シャクヤクを原材料とする漢方薬を処方されて服用し、この植物の力を知ったのです。そこで、高齢者を対象とする講演会で、そのお薬を示して、「このお薬の恩恵を受けている人はおられますか」と聞いたのです。すると、びっくりするほど、多くの人が手を挙げられました。「シャクヤクは、間違いなく、多くの日本人の健康に貢献している植物だ」と確信しました。
薬草として、日本へ伝来
シャクヤクは、中国や朝鮮半島、シベリアやモンゴルなどを原産地とする、ボタン科の植物です。学名は「パエオニア ラクティフローラ(Paeonia lactiflora)」で、「パエオニア」は、ギリシャ神話の医薬の神「Paeon(パエオン)」に由来し、ボタン属であることを示し、「ラクティフローラ」は「乳白色の花」を意味し、原種は白い花を咲かせていたことにちなみます。英語名は、ペオニー(Peony)です。
日本には、平安時代までに、中国から、薬草として伝えられました。初夏に、背丈は50〜80cmになり、甘い香りを放つ直径10数cmの大きな花が咲き、観賞用としても栽培されています。
古来、「立てばシャクヤク、座ればボタン、歩く姿はユリの花」という言葉で、シャクヤクは、ボタンと並んで女性の美しさをたとえるのに使われてきました。ボタンが「花の王様」といわれるのに対し、シャクヤクは「花の宰相」と呼ばれ、花の美しさを競っています。ただ、シャクヤクは草であり、ボタンは木です。
漢字では「芍薬」と書かれます。「薬」という字から、薬草として使われてきたことは容易に想像できます。「芍」という語は、「美しい」とか「あざやか」で、「はっきり目立つ」ことを意味します。しかし、「芍」ではなく、「癪」が本来の意味であるとの説があります。「癪」というのは、胃や胸などが急激に病んで、差し込むような痛さでけいれんが起こるものです。時代劇などで女性が「持病の癪が出て…」とうずくまる病気です。「癪薬」と書くと、この植物は癪を治す薬草ということになります。

生薬としての力
この植物の根は漢方の「芍薬」という生薬で、主成分は「ペオニフロリン」です。これは、筋肉の痛み、腹痛、解熱、血行促進などに効果があるとされます。これは、冒頭で紹介した、私がお医者さんに相談して、処方してもらって服用した漢方薬「芍薬甘草湯」の主成分です。この漢方薬は、名前の通り、芍薬と甘草の2つの生薬を含んでいます。
悩んでいたのは、夜中に足がつったり、筋肉がけいれんしたりする、「こむら返り」といわれるような症状です。そのような時、「芍薬甘草湯」は、すぐに服用すれば、個人差もあるでしょうが、私の場合は、早ければ数分、遅くても10分以内には、効果があらわれる“即効薬”です。
これらの症状は、カルシウムイオンの筋肉細胞への過剰な流入が原因であり、ペオニフロリンは、甘草に含まれるグリチルリチン酸との作用で、カルシウムイオンの過剰な流入を抑制すると考えられています。
「芍薬」という生薬は、「芍薬甘草湯」だけでなく、生理不順、めまいなどに効果のある「当帰芍薬散」や、かぜのひき始めや頭痛、肩こりに効果がある「葛根湯」などの漢方薬の成分にもなっています。
シャクヤクの生薬としての発展
この植物は日本や中国で長く栽培されてきているので、多くの品種がありますが、薬用としては、「梵天(ボンテン)」と呼ばれる品種がよく知られています。また、ペオニフロリンを多く含む品種として、「べにしずか」や「夢彩花」、「春の粧(よそおい)」などが生み出されています。
新品種が開発されるだけでなく、栽培方法が工夫され、雑草と競合して育てると、ペオニフロリンの含量が増えることが分かってきています。
根が生薬として利用されますが、花やつぼみの効果も検討されています。その結果、花やつぼみも、ペオニフロリンを含み、血圧の上昇を抑制する効果が明らかになっており、将来的な利用が期待されます。
ペオニフロリンには、強い抗炎症作用や、損傷を受けた皮膚を修復する作用が認められています。たとえば、ペオニフロリンを含むシャクヤクエキスには、紫外線の照射によって肌が赤くなるのを抑える効果が確認されます。また、がんを抑制する効果があり、予防薬や治療薬とはなっていませんが、近年、そのメカニズムが研究されています。
このように、今後も、シャクヤクは、花の美しさだけでなく、薬効でも、私たちの心と身体の健康に貢献してくれるでしょう。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第75号 2026年3月






