料理の名脇役は、体を整える効果も抜群 薬味とミックススパイス
薬味やスパイスは、料理を引き立てる脇役と思われがちですが、
おいしさと高い栄養価を兼ね備えた魅力的な食材です。
日常的に食事に取り入れて摂取しているうちに知らず知らずのうちに心や体が整っている。
そんな効果が期待できます。

薬も食事も元は同じ「薬食同源」という考え
インドの伝統医学アーユルヴェーダでは、病気になってから治すのではなく、病気にならない体づくりや生活習慣の教えがあり、そこでは体質や症状に合った食事が薬よりも大切であると説かれています。中医学でも、「薬と食物とはその源が同じ」を意味する「薬食同源」の考え方が根底にあり、病気の予防や治療のために、同じ食材をある時は食事に、ある時は薬として利用してきました。薬は病気になってからのみますが、食事は毎日の生活と共にあるもので、食事から見直すことが健康への近道であるという考え方は、現代の予防医学にも通じるものです。
現代では「医食同源」という言葉のほうが浸透していますが、これは1970年代始めに日本で生まれた比較的新しい言葉です。「病気を治すのも食事をするのも、生命を養い健康を保つためで、その本質は同じ」という意味合いで使われ、食事が健康と切り離せないものであるということでは薬食同源に通じています。こうした食事において、日常的に取り入れるスパイスの果たす役割は、決して小さくありません。
香り、辛み、色で嗜好性を高め健康増進にも役立つスパイス
スパイスは香辛料ともいい、芳香や辛みをもつ植物の茎、葉、種子、果実、根、根茎、鱗茎、樹皮などを乾燥したものを指すのが一般的です。ただし、スパイスの中には生(フレッシュ)で用いられるものも多く、ハーブとの区別は明確ではありません。ハーブを「人の生活に役立つ植物の総称」と定義すれば、スパイスもハーブの一部といえます。逆に、食用になるハーブは、すべてスパイスの仲間といってもよいでしょう。
スパイスの主な役割としては、香りづけ、辛みづけ、色づけの3つが挙げられます。風味で嗜好性を高め、料理にアクセントを与えるのがスパイスです。また、肉や魚など食材の臭みを消す目的で使われるものや、食材の防腐・保存に役立つものもあります。
スパイスには食欲を増進させたり代謝を高めたりする作用をもつものが多く、体の調子を整える効用が古くから知られてきました。また、料理にスパイスを使うと塩分控えめでも満足感を得やすいため、減塩対策に活用できるなど二次的な効果も期待できます。
日本料理独自の薬味には色彩や季節を楽しむ効果も
新鮮な食材が手に入りやすかった日本では、スパイスを用いるとしても、新鮮で味が比較的淡泊な素材にアクセントをつける程度に少量を添えるような使い方が主流となりました。これが日本料理に欠かせない「薬味」です。香りや味の強い香味野菜や香辛料だけでなく、種子類、海藻、動物性の食品も薬味と呼んでおり、代表的なものにネギ、ショウガ、ワサビ、ミョウガ,大葉、ユズ、サンショウ、三つ葉、ニンニク、ゴマ、海苔、かつお節などがあります。
薬味は料理の味を引き立てるだけでなく、見た目を美しく仕上げるために添えられることもあります。また、薬味に旬の野菜を使うことで季節を感じるのは、四季のある日本ならではといえるでしょう。薬味はスパイス同様に健康面において様々な効能をもち、一部は抗菌、消臭などにも効果を発揮します。
それぞれの地域で育まれた世界各地のミックススパイス
スパイスは、複数をブレンドして使うことでそれぞれの芳香が複合され、薬臭さが薄れて奥行きも出ます。そのため、スパイスは基本的に複数を組み合わせて用います。
ミックススパイス(混合香辛料)は、あらかじめ複数のスパイスがブレンドされたもので、スパイスミックス、シーズニングスパイスなどとも呼ばれます。世界を見渡せば、各地にそれぞれの気候風土や食糧事情によって培われた独自のミックススパイスがあり、その地域の食文化には欠かせないものとなっています。
日本と世界のミックススパイス
七味唐辛子
材料:トウガラシ、サンショウ、麻の実、ショウガ、ゴマ、青海苔、陳皮、シソなど…七味唐辛子は17世紀初めに江戸で考案され、その後全国に普及したとされます。一般に「二辛五香」といわれ、辛さに特徴があるもの2種、香りを重視したもの5種を組み合わせます。
ラー油(辣油)
材料:トウガラシ、ネギ、ニンニク、ゴマ油など…中華料理の中でも特に四川料理に用いられる香味油で、粗挽きにしたトウガラシを植物油で加熱して作られます。辛みを抽出した油だけを使うものの他、最近では材料を具としてそのまま残したタイプもあります。
ガラムマサラ
材料:カルダモン、コリアンダー、クミン、シナモン、クローブ、コショウなど…主に北インドでカレーやタンドリー料理などに使われ、その配合は家庭や店の数だけあるといわれます。香りをつけることを目的とするため、煮込み料理では火を止める直前に加えます。
柚子胡椒
材料:青ユズ、青トウガラシ、塩など…九州発祥で現在は全国に広まっています。「胡椒」という名ですが、ペッパーではなく、九州地方でコショウと呼ばれるトウガラシが使われます。青トウガラシが一般的ですが、赤トウガラシを用いる地域もあります。
エルブ・ド・プロバンス
材料:ローズマリー、セイボリー、オレガノ、バジル、タイム、フェンネルなど…南仏プロバンス地方を代表するミックススパイスで、使用するハーブに特に決まりはありません。煮込み、ロースト、グリルなど様々な料理に使われ、さわやかな風味を加えてくれます。
デュカ(ダッカ)
材料:コリアンダー、クミン、ゴマ、アーモンド、ヘーゼルナッツ、塩など…中東諸国で用いられるミックススパイスで、スパイスとナッツ類、塩を入れるのが基本です。肉、魚、卵、豆料理などにかけたり、オリーブ油と合わせてパンにつけたりします。
コーレーグス
材料:島トウガラシ、泡盛など…沖縄を代表的する調味料で、3㎝ほどの小さく辛みが強い島トウガラシを泡盛に漬け込んだものです。たいていの食堂で卓上調味料として置かれており、沖縄そばやチャンプルー、鍋もの、刺身などにかけます。
ハリッサ
材料:トウガラシ、ニンニク、クミン、コリアンダー、塩、オリーブ油など…モロッコやチュニジアなど北アフリカのマグレブ地域発祥の、トウガラシをベースにしたペースト状のソース。クスクス、タジン、ケバブなどの薬味として用いる他、和・洋・中の幅広い料理に合います。
チリパウダー
材料:トウガラシ、オレガノ、ディル、パプリカ、ニンニク、クミンなど…アメリカ発祥で、チリコンカンやタコスなどの味つけに欠かせません。トウガラシ以外の材料が多く含まれるため辛みはそれほど強くなく、肉や野菜のグリルや煮込みなどに幅広く利用できます。
初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第74号 2025年12月





