日本のハーブ:ビャクシとヨロイグサ
薬草園の路傍のホザキイカリソウに囲まれた背の高いセリ科植物が見られたが、鑑定できず、開花を待っていた。高さは3m20cmに伸びた。標本園のヨロイグサの種が逃げたものであった。ヨロイグサは山城では生薬ビャクシ(白芷)の生産が報告されている。
1)薬局方の記載
薬局方のビャクシ(白芷)は基原植物:ヨロイグサAngelica dahurica Bentham et Hooker filius ex Franchet et Savatier(Umbelliferae セリ科)の根である。形態は主根から多数の長い根を分枝し、ほぼ紡錘形、又は円錐形を呈し、長さ10〜25cmである。外面は灰褐色〜暗褐色で、縦じわ及び横長に隆起した多数の細根の跡がある。根頭に僅かに葉鞘を残し、密に隆起した輪節がある。横切面の周辺は灰白色で、中央部は暗褐色を呈するものがある。特異なにおいがあり、味は僅かに苦い。
ビャクシ



2)ヨロイグサの学名の検討
薬局方の基原植物の解明の担当者の寺林進氏(横浜薬科大学)は、日本の分類学者の協力で、薬用ヨロイグサの学名の解明を論文にまとめ、植物研究雑誌に掲載した。ヨロイグサの学名をAngelica dahurica(Fisch.)Benth. et Hook.fil.として、異名にCallisace dahurica Fisch.を挙げた。
3)ヨロイグサの形態
巨大な草本。茎は直立、上方分岐し、高さ1〜3m、基部の直径7〜8cmに達し、無毛、上方に短微毛ある。根葉及び茎の下葉は有柄で大形、2〜3回3出羽状に複生し、頂小葉は基部垂下し、更に3深裂、小葉及び裂片は長楕円形、又は狭卵長楕円形で、長さ5〜10cm、幅2〜5cm、鋭頭、又はやや鋭頭、整正の鋭粗鋸歯があり、質はやや厚く、特に脈上及び縁に微細毛があり、上葉は縮小、鞘は膨大で、倒卵形又は長楕円形。大散形花序は数個、梗は枝及び小梗と共に微細突起がやや密生し、枝は20〜40個、長さ4〜6cm、小総苞片は数個、広披針形で尾状鋭突頭、小梗と略同長、小梗は長さ4〜10mm、楕円形で無毛、扁平、基部は少し凹入し、長さ8〜9mm。分果の背肋は細く脈状、縁肋は翼状を呈す。本州の山地。朝鮮、満州、東シベリアに分布する。
ヨロイグサ

④ホザキイカリソウに囲まれた路傍のヨロイグサ



ヨロイグサの和名には、オオシシウド、サイキ、ウマゼリ、カンラ、ヤマウド等がある。『本草和名』の白芷に、「和名加佐毛知、一名佐波宇止、一名与呂比久佐」と『延喜式』の白芷に、「カサモチ、ヨロヒクサ」と。『倭名類聚抄』の白芷に、「和名加佐毛知、一云与呂比久佐」がある。小野蘭山『本草綱目啓蒙』の白芷に、「ヨロヒグサ延喜式 サイキ信州 ウマゼリ、カンラ勢州 ヤマウド作州 今ハ通名」とある。
ビャクシは、『神農本草経』の中品に初収載され、宋代になり『図経本草』の中で、ビャクシは「根は白色。枝は地上から5寸離れて分かれ、紫色で、葉は相対し、三指の広さである」とヨロイグサに一致し、江戸時代の『本草辨疑』や『手板発蒙』には「ビャクシはヨロイグサ」と明記されている。『中華人民共和国葯典』の2001年版では、ビャクシの原植物にA. dahuricaとA. dahurica var. formosanaが記されている。
[写真提供]
①②③:株式会社栃本天海堂 松島 成介氏
④⑤⑥⑦:昭和薬科大学 薬用植物園 中野 美央氏





