2025.11.23

食卓で世界旅行!スパイスを巡るお国柄あれこれ


それぞれの国や地域には固有のスパイス文化があり、スパイスの香りは異国の旅の記憶を呼び覚まします。

世界各国のスパイス事情をご紹介します。

インド

 スパイスの最大の産出国であり、スパイスを最もよく使いこなしている国です。広大な国なので料理も地方色豊かで、カシミール地方のカシミールチリ、ベンガル地方のイエローマスタード、南インドのカレー・リーフやタマリンド、ヒングなど、地域によってよく使われるスパイスも異なります。

 スパイス使いに長けたインドでも、家庭で日常的に使うスパイスは7〜8種類程度といわれます。家事を預かる人は毎日の料理に欠かせないスパイスを専用の容器に入れておき、料理のたびに上手に調合します。

 主に北インドのタンドリー料理や肉のカレーに使われる「ガラム・マサラ」は、クミン、コリアンダー、カルダモン、クロ—ブなど何種類かのスパイスを調合して挽いたもの。そのブレンドは家庭によって様々です。

タイ

 一年を通して気温が高いタイでは数多くのスパイスが自生し、フレッシュなパクチーやレモングラス、バイマックルー、ホーリーバジル、スイートバジルなどが料理に豊かな風味と彩りを添えます。これらは野菜と区別されることなく、皿に盛ってサラダ感覚で食されたりもします。

 タイ料理では、フレッシュなスパイスをクロックと呼ばれる石臼ですりつぶし、ペースト状にして使うことが多いのも特徴です。白コショウ、ニンニク、コリアンダーの根、ホムデン(小赤タマネギ)、トウガラシ(生または水で戻したもの)、カー(タイのショウガ)などを混ぜ合わせたペーストは、汁物や、肉や魚の焼き物、炒め物を作る時に欠かせません。

台湾

 中国本土と同様に医食同源の考え方が暮らしに浸透している台湾では、あえて薬膳という言葉を使うまでもなく、様々な薬効をもったスパイスが日常の食事に自然に取り入れられています。

 「八角(スターアニス)」は、そんな台湾を代表するスパイスの一つ。独特の強い香りがあり、日本でもおなじみの東坡肉(トンポーロー)や魯肉飯(ルーローハン)といった肉の煮込み料理によく使われます。この八角とシナモン、クローブ、花椒(ホアジャオ)、フェンネル、陳皮(チンピ)などをミックスしたのが、「五香粉(ウーシャンフェン)」です。いつもの料理に少量加えるだけで、本場台湾の味が楽しめます。

▶p.15で手作り五香粉とルーローハンの作り方を紹介しています。

中東

 中東は古くから東西貿易の要所として栄え、今も市場にたくさんのスパイスが並ぶ風景を見ることができます。料理にはカルダモンやシナモン、クミン、タイム、セージ、イタリアンパセリ、コリアンダー、ミントなどが多用され、一般に味つけはマイルドです。

 シリア、レバノン、ヨルダン、パレスチナなどの東地中海地域やトルコでよく使われるのが、ウルシ科の植物の果実を乾燥させた「スマック」。そのスマックとタイム、ゴマ、塩を混ぜ合わせた「ザータル」は、たっぷりのオリーブ油と合わせて薄焼きパンに塗って食べるのが定番です。中東発祥のミックススパイスとしては、ローストしたナッツとクミンやコリアンダーを混ぜたシーズニングソルト「デュカ」も有名です。

フランス

 ヨーロッパに自生するオレガノ、パセリ、タイム、ミント、バジル、ディル、フェンネル、ローズマリーなどに加え、外来のスパイスが早くから取り入れられ、スパイス文化が根づいています。ただし、ワインの文化もある国なのでインド料理のようにスパイシーに仕上げることはめったになく、辛みには主にコショウとマスタードが使われます。

 南仏の「エルブ・ド・プロバンス」と共にフランスを代表するミックススパイスといえば、「キャトルエピス」。コショウ、シナモンまたはジンジャー、クローブ、ナツメグという伝統的な4種のスパイスを合わせたものです。肉料理、特にレバーなどを使うパテやテリーヌ作りには欠かせないスパイスですが、お菓子作りにも用いられます。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第73号 2025年9月