エコロジカルガーデニングデザイン
HERB & LIFE
ハーブのある暮らしを楽しむ<春>
Ecological gardening design
エコロジカルガーデニングデザイン
春は種まきや植え付けのシーズン。今回は、エコロジカルハーバリズムに基づいて、ショウガやターメリック、ミョウガ、ジャガイモ、キクイモ、サトイモなどの根茎、塊茎、地下茎類の植え付け方、育て方を紹介します。
第16回
根茎・塊茎類の植え付け方と育て方

question
根茎と塊茎の違いはなんですか?
ショウガやミョウガはプランターでも育てられますか?
朝不耕起でどうやって植え付けるのでしょうか?
秋に掘り取ったショウガを保存して春に植え付けられますか?

地球環境に負荷をかけないエコロジカルハーバリズムでは生態系を大切にして化学農薬や化学肥料を使用せず、不耕起栽培することによって、土をかき乱すのも最小限に抑えます。今回は根茎・塊茎類の植え付け方、育て方です。
まず、地下茎、根茎、塊茎、球茎の違いについてですが、これらはいずれも根ではなく地下にある茎で、このうち茎が肥大しないものを地下茎(地下にある茎の総称でもある)、茎が肥大して根のように見えるものを根茎(rhizome)、塊に見えるものを塊茎(tuber)、球状に見えるものを球茎(corm)といいます。ただし、これらは慣例的に呼びわけているにすぎず、ショウガを塊茎と呼ぶ人もいます。なお、鱗茎というのは茎ではなく葉が肥大したものです。また、根が塊状に肥大するものを塊根(tuberous root)といいます。ちなみに、花卉業界では地下茎以外を球根と呼びます。
地下茎(茎):ミョウガ、ミント、ドクダミ、タケ
根茎(茎):ショウガ、ターメリック、ワサビ
塊茎(茎):キクイモ、サトイモ、ジャガイモ、コンニャク
球茎(茎):クワイ、サフラン
鱗茎(葉):タマネギ、ニンニク、ラッキョウ、ユリ
塊根(根):サツマイモ、キャッサバ、ヤーコン、オオバンガジュツ
用意するもの
植え付ける根茎・塊茎・地下茎(*1)、畜糞堆肥(*2)、腐葉土(*3)、シャベル、水/(プランターの場合)上位以外に、深さ20cm以上のプランター、園芸培養土
*1)ジャガイモは種苗店、園芸店で購入した種イモを使う。ジャガイモ以外は食用で売られているものも可。
*2)牛糞堆肥や鶏糞堆肥など、入手できるものどれでもよい。数種混ぜて使ってもよい。
*3)畜糞堆肥があれば入れなくてもよい。腐葉土だけで栽培する場合は、袋に表示されている窒素濃度が1%以上のものを選ぶ。
植物の特徴
ショウガ科(根茎、地下茎)
該当植物:ジンギベル属(ショウガ、ミョウガ)、クルクマ属(ターメリック、春ウコン、ガジュツなど)、アルピニア属(ゲットウ、クマタケラン、ナンキョウ(タイショウガ、カー)など)、ボエセンベルギア属(オオバンガジュツ(レッサーガランガル、クラチャイ)など
ショウガ科植物は熱帯地域を原産とする多年草。寒さに弱く、15℃以下で枯死が始まり、10℃以下では根茎が腐敗し始める。温帯では宿根草のように冬に地上部を枯らして翌春萌芽する。ショウガ科の利用部位はカルダモン類では果実・種子、ミョウガでは花蕾や軟白した葉鞘(ミョウガタケ)、ゲットウの仲間は葉、オオバンガジュツでは根茎から伸びる根で、それ以外のショウガやウコン、ガランガルなどの多くは主として根茎。ショウガ科植物を殖やす時は、根茎や地下茎を植え付けて栄養繁殖を行う(ただし、カルダモン類やゲットウの仲間では種子での繁殖も可能)。したがってオオバンガジュツでは利用部位の根ではなくその上に着いている塊状の根茎を植え付ける。エスニック食材店などでタイショウガやレッサーガランガル、ターメリックなどが手に入ったら、是非育ててみよう。








サトイモ(塊茎)
品種:‘土垂’、‘石川早生’、‘セレベス’、‘八ツ頭’、‘海老芋’など
熱帯アジア原産のサトイモ科の多年草。親イモ、子イモ共に食べられる。葉柄を「ずいき」や「いもがら」、「だつ」と呼んで食べるのは赤軸系品種(‘セレベス’、‘八ツ頭’、‘海老芋’)のみで、青軸系品種(‘土垂’、‘石川早生’)はシュウ酸結晶を多く含むので食べない。根茎を食べない葉柄専用のハスイモ(リュウキュウ)はサトイモとは別種。赤軸系品種の葉柄を軟白すれば「芽イモ」で食べることができる。


キクイモ(塊茎)
品種:‘赤キクイモ’、‘白キクイモ’
北米原産のキク科の多年草。種子でも塊茎でも殖え、除去するのが大変なくらい繁殖力旺盛。塊茎にイヌリンを多く含み、アントシアニンで塊茎の皮の赤い‘赤キクイモ’の方がイヌリン含量が高い。


ジャガイモ(塊茎)
品種:‘男爵’、‘メークイン、‘キタアカリ’、‘インカのめざめ’、‘とうや’、 ‘アンデスレッド’、‘キタムラサキ’、‘ノーザンルビー’、‘シャドークイーン’など
アンデス山脈原産のナス科の多年草。ほかの根茎・塊茎類と違って、植え付けた親イモは腐敗してなくなる。


小学校の屋上緑化で深さ15cmのパレットで栽培したジャガイモの収穫
植え付け・収穫時期
ショウガ科、サトイモ:最低気温が10℃以上になってから、関東〜九州では八十八夜(5月1〜2日)以降に植え付けて、秋、地上部が枯れてから収穫。ミョウガは夏ミョウガで7〜8月、秋ミョウガで9〜10月に開花前の蕾を収穫するが、開花後でも少し硬いだけで問題ない。
キクイモ:3〜5月に植え付けて、秋、地上部が枯れてから収穫。
ジャガイモ:植え付けは、関東〜九州で3〜5月、8〜9月で梅雨時を避ける。収穫は植え付けの3カ月後、地上部が枯れたら収穫。
根茎・地下茎の特徴
ショウガ科、サトイモ、キクイモ:根茎・塊茎に筋模様があり、地上茎で言う節に該当し、その節(筋)のすぐ上(葉腋に相当)から新芽を出す。
ミョウガ:地下茎に節があり、節から新芽と根を出す。
ジャガイモ:塊茎に筋模様はなく、芽の部分が節にあたる。ジャガイモは分枝した地下茎の先端が肥大したもので、塊茎には茎の着いていた痕があり、その反対側は茎の先端にあたるため、小さな芽が密集している。この小さな芽から伸びた茎はイモの成りの悪い無駄枝になりやすい。
芽出し(めだし)
新芽の動いていない根茎を植え付けてもそのまま腐敗してしまうことがあるので、根茎(種ショウガ)・塊茎(種イモ)を植え付ける際には、まず新芽を出させる「芽出し」を行ってから植え付けるのがポイントです。
ショウガ科、サトイモ、キクイモ:水を薄く張った皿か湿らせた綿などの上に根茎・塊茎を載せるか、園芸培養土などに浅植えして灌水しながら暖かいところに置く。新生姜の場合は乾燥させてひね生姜になってから吸水させる。新芽が膨らむのに1カ月くらいかかる場合がある。ミョウガの地下茎は芽出しの必要なし。
ジャガイモ:直射日光に2週間程度当てて、光による催芽処理を行う。
植え付ける根茎・地下茎の大きさ
ショウガ科、キクイモ:50〜200gの大きさが理想。この大きさに分割し、切り口に灰をまぶすか乾かしてから植え付ける。ミョウガは地下茎を15〜20cmに切る。
サトイモ:子イモを分割せずにそのまま植え付ける。
ジャガイモ:大きさとしては40gを標準とする一方、芽の数が大切で、3芽以上確保し、6芽以上ある場合は2つに分割。分割する場合、茎の着いていた痕とその反対側の小さな芽が密集している部分を結ぶラインで切る。メークイン系の細長いイモの場合は、縦長に切ることになる。分割した切り口には、灰をまぶすか乾かして傷口にカルス(かさぶた)を作ってから植え付ける。


植え付け方法
エコロジカルハーバリズムでは、土をかき乱して土壌生物が棲みづらくならないように、また、そこに生えている植物をできるだけ温存するように不耕起栽培を行います。不耕起とは必要最低限の耕起しかしないという最小耕起の意味で、植穴は掘りますが、周囲を広く耕したりしません。根茎・塊茎の子イモは親イモよりも上にできますので、子イモのスペースを十分に確保して深い位置に植え付けます。以下に手順を示します。
❶植穴を掘る。深さは30cm(ミョウガの地下茎の場合は20cm)。根茎が横に広がるジャガイモは土が固い場合には穴の内部を広めに掘る。プランターで園芸培養土の場合は、鉢底石を敷かず、底まで園芸培養土で満たし、底近くまで掘るか、下の方に土を入れて根茎・塊茎を置いてから残りの土を入れる。
❷植穴の底に畜糞堆肥と腐葉土をそれぞれ2〜3握り(プランターで園芸培養土の場合は各1握り)ずつ入れ、穴の中の周りの土とよく混ぜる。❸畑や庭の場合、穴が水没するくらいまでたっぷり灌水し、水が引くのを待つ。❹堆肥と根茎が直接接触するの防ぐ目的で、掘り上げた土を少し入れて深さ20cm(ミョウガは10cm)まで埋め戻す。❺芽が上または横を向くように根茎(種ショウガ)・塊茎(種イモ)、地下茎を置く。❻掘り上げた土をかけ、軽く灌水する。


育て方のポイント
植え付けてから萌芽した葉が地上に顔を出すまで1〜2カ月を要するので、特にプランターの場合、その間、乾かさないように注意。
・ショウガ科は乾燥を嫌うので半日陰〜日陰で、そのほかは直射日光のよく当たるところで育てる。
・土の乾燥を防ぐためにもイネ科以外の多様な雑草を移植したり生やしたりして共存する。カタバミやスベリヒユ、ハハコグサ、チチコグサ、イヌタデ、ツユクサ、ホトケノザ、ヒメオドリコソウ、ハコベなどの食べられる雑草がおススメ。プランターの場合は雑草が生えにくいので、イタリアンパセリやホウレンソウ、レタス、シュンギク、スイスチャード、アイタデなど背の低い葉物やベビーリーフのタネを植え付けと同時に播いて、葉物の間から萌芽させ、葉物が下草の役割を演じるようにするとよい。
・生えている植物の葉色が悪くなってきたら、油かすと畜糞堆肥、腐葉土をそれぞれ一握り程度、混ぜてからドーナツ状に下草の隙間に施す。
ショウガ科の葉鞘、サトイモの葉柄の軟白栽培
ショウガ科の葉鞘やサトイモの葉柄を軟白して食べます。ミョウガは「ミョウガタケ」、サトイモは「芽イモ」と呼ばれます。ショウガ科のほかの植物も葉鞘を軟白して食べることができるはずです。サトイモは赤軸系品種で行います。軟白するには、地面から葉鞘や葉柄が顔を出してきたところに、山のようにもみ殻を積むか、牛乳パックや段ボールなどで枠を作ってその中をもみ殻で満たします。もみ殻の頂上から葉鞘が顔を出してきたら、もみ殻を除けて地際で切って収穫します。収穫したミョウガタケは花蕾のミョウガと同じように料理に用います。もみ殻がなければ、段ボールなどを被せて暗黒にしてもよいです。


収穫後の保存
収穫して掘り上げた根茎・塊茎は全部食べずに少し残して翌春の植え付けのために貯蔵しましょう。ショウガ科植物では掘り上げた親ショウガ(ひね生姜)は翌春の植え付けには向きませんので利用してしまいましょう。貯蔵する場合は、表皮を傷つけないよう土を取り除きます。水洗いしてもよいです。2週間程度、十分に乾燥させてから貯蔵します。
貯蔵は15℃前後に保って適度に湿度を与えることが大切です。湿らせた新聞紙などに包んで、玄関など、屋内で最も寒い場所か、冬凍らない屋外などで越冬させます。土に埋め戻してもよいです。その場合は、抗菌性の高いもみ殻に覆われるようにして腐敗を防ぎながら土深くに埋めておきます。もみ殻がない場合は、赤玉土や鹿沼土などの無菌の土でもよいでしょう。
収穫しなかった場合やミョウガは、秋には地上部が枯れますが、翌春また萌芽してきます。その場合、春先に1度、牛糞堆肥と腐葉土をドーナツ状に下草の間に敷き詰めるとよいでしょう。
初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第71号 2025年3月






