ライフスタイルを見直そう健康な体は胃腸から

自律神経にコントロールされている胃腸は、ストレスや生活習慣の影響を受けやすい臓器。胃腸を整える習慣を身につけて、春からの新生活を元気にスタートさせましょう。
胃腸は生命活動のパワーの源「ガッツのある」体になろう
胃腸の役割は、食べた物を一時的に貯蔵し、消化・吸収した後、残った物から便をつくって排泄することです。この働きがなければ活動のためのエネルギーを得ることができず、丈夫な体をつくることもできません。消化機能がうまく働かないと、体に必要な栄養が行き渡らないだけでなく、本来は排出すべき老廃物や毒素をため込んでしまい、体の機能が低下して様々な不調が生じたり、思わぬ病気を招いてしまったりすることにもなります。
元気がある人のことを「ガッツがある」といいますが、「ガッツ(guts)」は英語でもともと胃腸を意味し、体の奥にある底力といったニュアンスで使われる言葉です。東洋医学にも生命活動を営むエネルギーを表す「気」という概念があり、気は胃腸の働きによってつくられると考えます。パワーの源である胃腸を健やかに保つことは、毎日を生き生きと過ごす上での要といってよいでしょう。
免疫やメンタルの健康にも重要な役割を担っている胃腸
腸は免疫の働きにも関係しています。免疫細胞の7割は腸に存在しているといわれ、ウイルスや細菌などの病原体の侵入を防いだり、がん細胞を撃退したりして私たちの体を守っています。そのため腸内環境が悪くなると免疫力が低下し、かぜなどの感染症にかかりやすくなったり、花粉症などのアレルギー性疾患を起こしやすくなったりします。
また、胃腸の働きは自律神経によってコントロールされているため、メンタルの健康とも深くかかわります。自律神経は交感神経と副交感神経の2つがバランスをとりながら働いていますが、ストレスを受けると自律神経が乱れ、胃酸の分泌が過剰になったり、胃酸から胃粘膜を守る胃粘液の分泌が減ったりすることで胃痛や胸焼け、食欲不振などの症状が現れやすくなります。
特に腸は「脳腸相関」といって脳と相互に影響を及ぼし合う関係にあります。脳がストレスをキャッチすると自律神経を介して腸に伝わり、ぜん動運動※1が乱れて便秘や下痢などの不調をもたらします。逆に、腸の不調は脳にストレスを与え、情緒の不安定や不安、うつ、不眠といったメンタルの不調を引き起こすことになります。
肝臓や腎臓が「沈黙の臓器」と呼ばれ自覚症状が現れにくいのに対し、胃腸は私たちに実に雄弁に語ってくれます。急な激しい症状の場合はもちろんのこと、何となくお腹がスッキリしない状態が続いていれば、「体がよくない方向に傾き始めている」ことを告げるサインととらえ、しっかりケアしていくことが大切です。
胃腸の不調の傾向は変わってもトラブルを抱える人は減らない
日本人の胃腸の病気では、かつて多かった慢性胃炎や胃・十二指腸潰瘍、胃がんなどは減少傾向にあります。医療の進歩や食生活の変化に加え、衛生環境の変化でこれらの病気の原因の1つとされている「ピロリ菌」※2保有者が減ってきたことが背景にあると考えられています。
それでは胃腸の不調に悩む人も減ってきたのかといえば、決してそうではありません。薬局やドラッグストアにずらりと並ぶ胃腸薬を見ても分かる通り、多くの人が日頃から何らかの胃腸のトラブルを抱えているのが現状です。
現代人に増えている胃腸の病気に「機能性ディスペプシア」、「逆流性食道炎」、「過敏性腸症候群」があります。いずれもストレスとのかかわりが深く、比較的若い年代や働き盛りの人にも多く見られます。命にかかわる病気ではありませんが、不快な症状が続くことで生活に支障を来してしまうことが少なくありません。気になる症状が続く場合は必ず医療機関を受診して検査を受けるようにしましょう。
※1 ぜん動運動…胃や腸が収縮を繰り返して内容物を送り出す動き。
※2 ピロリ菌…正式にはヘリコバクター・ピロリ菌といい、日本では60代以上に感染者が多い。様々な胃の病気と関連しているため、検査でピロリ菌感染が分かった場合は、服薬による除菌がすすめられている。
現代人に増えている胃腸の病気
機能性ディスペプシア
検査をしても炎症や潰瘍といった異常が見られないのに、胃の不快症状が慢性的に続く。主な症状は、食後のもたれ感、早期満腹感(すぐにお腹がいっぱいになってしまう)、みぞおちの痛み、みぞおちの灼熱感など。ストレスとの関係が深いとされている。

逆流性食道炎
胃酸が食道に逆流して食道の粘膜を傷つけ、胸焼け、酸っぱいげっぷ、のどの違和感などの症状が現れる。ストレスによる胃酸過多や胃液の逆流を防ぐ機能の低下が原因で起こり、過食、脂っこい物や甘い物の食べ過ぎ、喫煙、飲酒、肥満などで悪化しやすい。

過敏性腸症候群
特に消化器の病気がないにもかかわらず、下痢や便秘を慢性的に繰り返す。多くは腹痛やお腹の張りを伴い、日常生活に支障を来すケースも少なくない。ストレスや自律神経の乱れの他、腸の炎症や腸内環境の悪化なども発症に関係すると考えられている。

あなたの胃腸はどちらのタイプ?
現代人の胃腸の不調はその原因から大きく「ストレス不調タイプ」と「胃腸虚弱タイプ」に分けられます。あなたのタイプを見極めて、それぞれに合った方法でケアしましょう。
Check
⬜︎いつも時間に追われている
⬜︎ストレスで過食に走りがち
⬜︎夜遅くに食事をとることが多い
⬜︎緊張するとお腹の不調が起こりやすい
⬜︎仕事上のつき合いの飲食が多い

A ストレス不調タイプ
ストレスや不規則な生活などによって自律神経のバランスが乱れ、胃腸の不調を招いているタイプです。まじめで几帳面な人や、仕事一辺倒で気分転換が下手な人、小さなことを気にする人に多く、食べ過ぎや飲み過ぎ、夜遅い食事など食習慣の乱れも大きく関係します。
ケアのポイント
◦頑張り過ぎないようにし、リラックスを心がける。
◦仕事以外に趣味や関心事をもち、上手に気分転換をする。
◦睡眠時間を十分にとって体を休める。
◦脂っこい物、甘い物、刺激の強い物、カフェイン、アルコールを摂り過ぎない。
◦夕食を軽くして胃腸をしっかり休ませる。
B 胃腸虚弱タイプ
誰でも年齢と共に消化機能は低下し、不調が起こりやすくなります。また、生まれつき胃腸が弱い人もいて、このタイプの人は重い肉料理などを食べると胃がもたれたり下痢を起こしたりします。小食で量が食べられないため、便秘にもなりやすい傾向があります。
ケアのポイント
◦40歳以上になったら、食事の量や内容を見直す。
◦1日3食にこだわらず、1食の量を少なめにしてこまめに食べる。
◦冷たいものを控え、温かいものか常温の物を摂る。
◦発酵食品や食物繊維を摂って腸内環境を整える。
◦軽い有酸素運動を取り入れて体力をつける。
Check
⬜︎年齢と共に胃腸の不調を感じるようになった
⬜︎子どもの時から胃腸が弱かった
⬜︎食べ過ぎるとぐったり疲れてしまう
⬜︎すぐにお腹がいっぱいになってしまう
⬜︎下痢や便秘をしやすい

メディカルハーブを胃腸のケアに取り入れる
ハーブやスパイスの多くは胃腸の働きをよくする「健胃作用」をもち、習慣的に取り入れることで胃腸の不調の改善に役立ちます。ハーブティーには消化官に直接働きかけるという強みがあり、香りにもリラックス効果が期待できます。自律神経系に働きかけるアロマと併用するのもよいでしょう。
もともと胃腸が弱い人、複数の症状がある人、ストレス性の不調の人などは、特にハーブのケアが向いています。ただし、不調の原因がはっきりしない人は、まず医療機関を受診して、診断を受けることが大切です。

“腸内環境がよい”ってどういうこと?
“腸内環境がよい”とは、多様性に富んだ腸内細菌がバランスよく存在している状態をいいます。腸内細菌には大きく分けて、健康によい影響を与える「善玉菌」、増え過ぎてしまうと健康に悪い影響を与える「悪玉菌」、そのどちらでもなく、優勢なほうに味方する「菌」の3種類があります。腸の健康を保つには、乳酸菌やビフィズス菌などの善玉菌を増やして日和見菌を味方につけるのがポイントです。
その方法として、①食品から善玉菌そのもの(プロバイオティクス)を摂ること、②善玉菌のエサとなる食品(プレバイオティクス)を摂ることの2つがあります。プロバイオティクスとしては、ヨーグルト、納豆、ぬか漬け、キムチ、みそ、酢などの発酵食品が、プレバイオティクスとしては、食物繊維やオリゴ糖が挙げられます。これらの食品をできるだけ多種類組み合わせて、毎日の食卓にのせるようにしましょう。
一般にお腹によいとされている食品でも人によっては合わないことがあり、過敏性腸症候群の人では症状を悪化せてしまうことがあります。不調が改善しない場合は、食べるものを変えてみましょう。
胃腸を元気にするための生活習慣 5カ条
日頃のライフスタイルを振り返り、実践できていないことがあれば改善していきましょう。
POINT 1 規則正しい生活を送る
胃腸は規則正しい生活が大好き。食事や睡眠の時間をできるだけ一定にすることで、胃腸の消化・吸収のリズムが整います。
POINT 2 質のよい睡眠をとる
睡眠中は胃腸をリセットする大事な時間。夕食は脂っこい物を控え、就寝の3時間前くらいには済ませるようにしましょう。
POINT 3 ゆっくりよくかんで食べる
早食いは胃腸に負担をかけ、過食にもつながります。ひと口30回かむようにすると、唾液の働きで消化がよくなり、口の中もきれいになります。
POINT 4 体を冷やさない
冷えは自律神経を乱し、血行を悪くして胃腸の機能を低下させます。手足は温かいのにお腹が冷えている「隠れ冷え」の人も多いので注意しましょう。
POINT 5 運動を取り入れる
適度な運動は消化器の働きを高め、ストレス解消や自律神経を整えるのにも役立ちます。有酸素運動や筋トレの他、ストレッチやヨガなども有効です。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第71号 2025年3月