ハーブ療法の母・聖ヒルデガルトの自然学:聖ヒルデガルト帰天祭
9月17日、聖ヒルデガルト帰天祭おめでとうございます。2010年9月1日に教皇ベネディクト十六世が236回目の謁見の中で「ビンゲンの聖ヒルデガルト」について話され、その後2012年「教会博士」に任じました。
以下はその抄訳です。
「12世紀ドイツに生きた、ビンゲンの聖ヒルデガルト(Hildegard von Bingen; Hildegardis Bingensis 1098−1179年)。彼女を『ドイツの女預言者(professa teutonica)』という称号で呼びました。この『預言者』はわたしたち現代人にも深く今日的な意味をもって語りかけます。すなわち、時のしるしを読み取る勇気ある力をもって。その被造物への愛、医学、詩、現代において再現された音楽をもって。キリストと教会への愛をもって。教会は当時も苦しんでいました。教会は、司祭と信徒の罪によって傷つけられていましたが、彼女はなおさらいっそう教会をキリストのからだとして愛したのです。このように聖ヒルデガルトはわたしたちに語りかけます。ヒルデガルトの神秘的幻視は豊かな神学的内容をもっています。それは救いの歴史の中の主な出来事を参照し、主要な詩的・象徴的言語を用います。たとえば『スキヴィアス(道を知れ)』(Scivias)という有名な著作の中で、35の幻視によって、世界の創造から世の終わりに至るまでの救いの歴史の出来事を要約します。ヒルデガルトのような輝かしい模範に代表される、きわめて豊かな中世の今なお探究されていない神秘的伝統に目を向けてください。他の著作の中で、中世の女子修道院の多様な関心と生き生きとした文化を示します。それは人々が中世について抱いている偏見とは異なるものです。ヒルデガルトは医学と自然科学、また音楽にも携わりました。芸術的才能に恵まれていたためです。彼女は賛歌、アンティフォナ、聖歌も作曲しました。これらは『天の啓示の調和の交響楽』(Symphonia Harmoniae Caelestium Revelationum)という標題でまとめられています。この音楽はヒルデガルトの修道院で喜びをもって演奏され、落ち着いた雰囲気を広めました。この音楽は現代にまで伝わっています。彼女にとって、全被造物は聖霊の交響楽です。聖霊ご自身が、喜びと歓喜の歌声だからです」。
今年のカトリックの広報サイトでも「ヒルデガルトの音楽は、『空気のような』、『別の世のもの』、または強烈に精神的なものと表現できます。彼女は、これらの聖歌は一連のビジョンで彼女に与えられたと主張し、それらは聖アウグスティヌスと聖トマス・アクィナスの『天の音楽』、惑星の自転と宇宙のエネルギーと調和した音楽、創造と一体となった音楽についての見解と一致しています。一定の音程、モチーフ、音符を利用することで、音楽は聴くすべての人に共鳴する落ち着きを生み出します」と紹介され、現地の帰天祭でも演奏されました。
参考/
❶https://www.youtube.com/live/I2GrnRos4qE
❷https://www.youtube.com/watch?v=7VKGmAV0Qf0
私も9月は2か所で担当させていただきました。前回、ご紹介したグリーンソースを参加者の皆様と実習したり、プサルテリという聖ヒルデガルトが弾いていたのでは?という楽器での演奏と私の解説つきの夜会。とてもすばらしい時間をご一緒させていただきました。
秋のメニューはガランガルを使った野菜の蒸し煮とハーブソーセージ・スパイスワイン・栗のスープ・アーモンドミルクヒルデガルトスパイス風味・ビーツとスペルト小麦のマリネサラダ・サーモンのガランガルムニエル(レモンハーブソース)・天然酵母のスペルト小麦ブレッド・りんごのクランブルでした。
10月4日〜6日にはコンスタンツで国際ヒルデガルトカンファレンスが開催。テーマは身体と魂にとって多くの気持ちのよい経験になる癒しの力としての愛の力です。愛はしばしば彼女のビジョン(幻視)に現れます。 愛は美しいが、簡潔かつ表現できない謎の言葉です。 彼女にとって、愛は人が神の優しさを切望した形だと。発表では、“バラの魔法の愛のパワーは、体、心、魂をサポートします。バラがどのように心を活性化させるか、どのように心と魂を癒す力を発揮するか”というものや、“ヒポクラテスと聖ヒルデガルトの自然学の共通レシピと違い”がありました。
確かに『ヒポクラテス全集』第一巻「婦人の自然性についてからのレシピ」では、
・ウイキョウ(フェンネル)をワイン、オリーブ油、ハチミツで煮たてたものを飲む。
・スミレとスベリヒユの実を混ぜて細かくし、古い白ワインに入れる。
・月経促進には、キャベツを食べさせその汁を飲む。
・下痢止めには、ザクロの汁、ソラマメ、セイヨウカリンの汁、ナツメヤシ、ナナカマドの実の絞り汁、リンゴの実の絞り汁、春撒き小麦とレンズマメを水で浸して柔らかくなったものにまた水を加え底にたまったものに蜂蜜を加えて煮たものを炒って食べる。
・鎮痛剤 大麦粉をザクロの汁に混ぜたものを飲む。
・スペルト小麦のひきわりを痛み、熱がある時に食べる。
とあり、映画でも古文書を読むことが許されて喜ぶ彼女が描かれるのでここからかも、という説は嬉しく拝読しました。
日本アロマ環境協会の資格リニューアルに合わせテキストが改訂されました。「聖ヒルデガルトが唱えた独自の薬草学」自然学の薔薇と乳香の香りの利用が掲載されました。「食と香りによる自然治療学。今の私たちにもたくさんのヒントを与えてくれます」と。
安寧とご健勝を祈ります。感謝と共に。



初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第70号 2024年12月