2023.1.3

植物たちが秘める健康力 “日本原産の香り”を漂わせる

甲南大学特別客員教授

田中修

植物の香りは、ダイエットを通して健康に貢献します(前回の記事を参照)が、直接に私たちの健康を守ってくれます。今回は、“日本原産の香り”として、古くから、私たちが日々を健康に暮らすために役立っている植物を紹介します。

抗菌効果がある「ジャパニーズ・ホースラディッシュ」とは?

これは、冷涼な気候と日陰を好み、清らかな渓谷の清流に育ってきた、日本原産の植物です。同じアブラナ科の東ヨーロッパ原産の「ホースラディッシュ(セイヨウワサビ)」と区別するために、この植物は「ジャパニーズ(日本の)ホースラディッシュ」ともよばれます。これは「ワサビ」で、英語名も「ワサビ(Wasabi)」です。

ワサビの香りと辛みを味わうためには、食用部になる根茎をすりおろさなければなりません。根茎には、香りも辛みもない「シニグリン」という成分が含まれており、これが香りと辛みのもとになります。根茎をすり潰すと出てくる汁の中に、「ミロシナーゼ」という物質が含まれます。ミロシナーゼが、シニグリンと反応すると、「アリルイソチオシアネート」という物質ができます。これが、ワサビの刺激的な香りと強い辛みの正体です。

刺身などを食べるときに、ワサビと醤油を使います。これは、ワサビの辛味が、醤油と一緒になると増すからです。たとえば、すりおろした直後のワサビに、醤油を添加すると、辛味が約2倍になります。シニグリンを辛みに変えるミロシナーゼは、塩分で活性化されるからです。

トウガラシの辛みは、食べても鼻が痛くなりませんが、ワサビの辛みは、鼻がツーンと痛くなります。トウガラシの辛みの成分であるカプサイシンは揮発しにくいですが、ワサビの辛みには、揮発する性質があるため、口から鼻に伝わり鼻にある「痛みを感じる感覚器」を刺激するからです。

ワサビの香りには、カビの繁殖や、細菌の増殖を抑制する効果があります。その性質を利用して、ワサビの成分を練り込んだシートがつくられています。これが、お弁当や駅弁、お惣菜やお節料理などの日もちを長くするのに使われる薄い透明な「ワサビシート」です。

神経の興奮を鎮め、ストレスを緩和する効果をもつ植物とは?

この植物は「ミョウガ」で、原産地は、日本を含む東アジアや、インドなどの熱帯アジアです。学名は「ジンギベル ミョウガ」で、「ジンギベル」はショウガ属であることを示し、種小名には、日本名の「ミョウガ」が使われています。英語でも、「ミョウガ」とよばれたり、「ジャパニーズ・ジンジャー」といわれたりします。ジンジャーは、ショウガのことですから、「日本の生姜」という意味です。

太陽の光があまり当たらない場所で、夏に芽を出します。芽は赤い皮に包まれ、その中に、白い花びらをもつツボミが集まっています。この芽が食用部であり、「ミョウガの子」といわれます。

地上にツボミが顔を出すと、多くの場合、食材として、花が咲く前に摘み取られてしまいます。そのため、「出ては採られるミョウガの子」といわれます。この言葉は、「芽が出ると、取られる」に洒落て、「博打に負ける」ときなどに使われます。

「ミョウガを食べたら、物忘れがひどくなる」と言い伝えられます。しかし、根拠はなく、この言い伝えは、刺激が強すぎるので、子どもがあまり食べないようにと、「親がいい出しはじめた」という説があります。刺激が強すぎるといわれる原因は、香りです。香りの主な成分は、「ピネン」です。

この香りのおかげで、素麺や冷奴の薬味に使われます。「ショウガの香りには、神経の興奮を鎮め、ストレスを緩和する効果があり、頭をすっきりさせ、眠気を飛ばす」といわれます。

葉っぱも実も、高く香って消化を助ける植物とは?

この植物の原産地は日本といわれ、英語では、「ジャパニーズ・ペパー」とよばれます。「ペパー」は、コショウのことですから、「日本の胡椒」という意味になります。

これは、サンショウ(ミカン科)で、小さな若い葉には、強い香りがあります。この香りは、植物にとって、病原菌の感染を予防し、虫などにかじられないために役立ちます。この葉は、日本料理の食材となり、煮物に添えられたり、吸い物に浮かべられたり、「木の芽あえ」として食されます。

果実は、古くから、「小粒でピリリと辛い」といわれます。辛味は、主に「サンショオール」、「サンショウアミド」という成分によるものです。この成分は、胃液の分泌を促すことで、消化を助け、また血行をよくして、体をぽかぽかと温めます。そのため、サンショウはちりめん山椒、七味唐辛子などにも使われています。

サンショウの葉や果実の香りには、レモンなどに含まれている「リモネン」、ゼラニウムやバラに含まれる「酢酸ゲラニル」と「ゲラニオール」、また、柑橘類の香りといわれる「シトロネラール」、タチバナで知られる「フェランドレン」などが多く含まれています。

甲南大学特別客員教授
田中修 たなかおさむ
京都大学農学部卒、同大学院博士課程修了(農学博士)。米国スミソニアン研究所博士研究員などを経て、現職。近著に、令和の四季の花々を楽しむ『日本の花を愛おしむ』(中央公論新社)、食材植物の話題を解説した『植物はおいしい』(ちくま新書)、からだを守り、子孫につなぐ驚きのしくみを紹介した『植物のいのち』(中公新書)など。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第62号 2022年12月