2023.10.16

植物たちが秘める健康力 : 栄養があって、運をもたらす“冬至の七種”

甲南大学特別客員教授

田中修

 

今年の前期、NHKの朝ドラは「らんまん」という番組です。「春爛漫」や「天真爛漫」の「爛漫」で、「日本の植物分類学の父」とよばれる牧野富太郎博士の人生をモデルにしています。

「らんまん」というタイトルには、「ん(運)」が2個つくので、運がつき、高視聴率が期待されています。この表現は、植物に由来するものです。古くから、植物には、栄養があって、運をもたらす「冬至の七草(種)」といわれる七種類の食材があります。

これらの名前には「○ん○ん」のように、「ん(運)」が2個つくので、「運(ん)がつく」といわれ、冬至に食べると、運がよい新年を迎えることが期待されるとともに、栄養があるので健康が支えられるのです。

「ん(運)」が2個つく、“運”をもたらす植物

一つ目は、レンコンです。これはハス科の植物で、原産地は熱帯アジアです。日本には、縄文時代に中国から渡来し、穴が食用部にあいているので、「先が見える、縁起のよい野菜」として、お正月のおせち料理に欠かせないものです。

この野菜は、ビタミンCを多く含むので、「風邪の予防になる」といわれます。ネバッとしているのは、「ムチレージ」という物質で、胃腸の粘膜などを保護して疲労を回復させるといわれます。近年、ドライアイを防ぐ効果もあるとされます。

二つ目は、ニンジンです。これはセリ科の植物で、中央アジアのアフガニスタン生まれといわれます。日本には、「金時人参」のような東洋系の品種は江戸時代の初期、「西洋人参」とよばれる西洋系の品種は江戸時代の後期に伝来したとされます。

この野菜の食用部の根は、代表的な抗酸化物質であるカロテンの橙色です。カロテンは、抗酸化物質として働きますが、ビタミンAが不足したときには、ビタミンAに変換する性質があります。

三つ目は、ギンナンで、イチョウのタネです。イチョウは、イチョウ科の植物で、原産地は中国や日本とされます。ギンナンは、「肺を温め、し、たんを定める」といわれ、身体を温め、喘息や気管支炎、肺疾患によいとされます。でも、「ギンコトキシン(メトキシピリドキシン)」という有毒な物質を含むので、「子どもには、一日に、年齢の数以上食べさせるな」と言い伝えられます。

四つ目は、キンカンです。原産地は中国で、「キンカン(金柑)」という名前の由来は、果実があざやかな金色に見える柑橘類であることに由来します。これは、「風邪が流行ると売れる」といわれる果実で、ビタミンCやビタミンEを多く含み、喉にやさしく、のど飴の原料になり、「キンカンのど飴」が売られています。

食用部である果皮には、食物繊維が豊富に含まれます。また、皮に含まれるヘスペリジンは、ビタミンCの吸収を促すだけでなく、中性脂肪を分解したり、血圧を抑えたり、血管の老化を防ぎ血行をよくするといわれます。

「ん」がつかない植物も?

五つ目は、カボチャです。「カボチャには、『ん』がつかない」と思われるかもしれませんが、「ナンキン(南瓜)」という別名をもっているので、「ん」が2個つきます。ナンキンはウリ科の植物で、原産地はアメリカです。この野菜は、日本に、江戸時代にカンボジアから伝えられました。

カボチャは、カロテン、ビタミンCを多く含んでおり、これらには、抗酸化作用が期待されます。「若返りのビタミン」といわれるビタミンEも多く含まれます。さらに、カロテノイドの一種であるキサントフィルが含まれており、これも強い抗酸化能力があり、有害な活性酸素のはたらきを抑えます。

そのため、カボチャは、冬至に食べると、「病気にならない」とか「中風にならない」、「風邪をひかない」といわれます。カボチャは、夏の野菜ですが、日持ちがよく、野菜が不足しがちな冬至のころにも食べられる、健康を支える大切な食材なのです。

あとの二つは?

六つ目は、カンテンです。カンテンは、海草の紅藻類、テングサなどを使ってつくられる心太を乾燥させてできる食べ物です。成分はほとんど食物繊維ですから、腸の中をきれいにし、整腸効果もあり、健康によいといわれます。「食物繊維の王様」とよばれ、世界保健機関(WHO)では、「摂取制限のない安全な食品」とされています。

七つ目は、「ウンドン」です。江戸時代には「ウンドン」といわれましたが、現在では、「ウドン」です。漢字では、「饂飩」と書かれます。ウンドンは、コムギを原料としており、糖質が多くて消化もされやすいので、身体が早く温まります。

「冬至の七草(種)」にもう一つ加えるなら、新年にふさわしい「キントン(金団)」です。金色の布団にたとえられるような、縁起がよさそうな食べ物です。クリ、サツマイモ、インゲンマメなどの素材を裏ごしして、クチナシの実の色素などで黄色い色をつけたもので、栄養もあります。

甲南大学特別客員教授
田中修 たなかおさむ
京都大学農学部卒、同大学院博士課程修了(農学博士)。米国スミソニアン研究所博士研究員などを経て、現職。近著に、令和の四季の花々を楽しむ『日本の花を愛おしむ』(中央公論新社)、食材植物の話題を解説した『植物はおいしい』(ちくま新書)、からだを守り、子孫につなぐ驚きのしくみを紹介した『植物のいのち』(中公新書)など。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第65号 2023年9月