2022.5.29.

日本列島の地域と結びついたハーブ

地域と結びついたハーブ。南北に長い日本列島は、亜寒帯から亜熱帯にまで位置します。地域ごとにその土地ならではのハーブが存在し、それぞれの風土や文化と深く結びついた利用がなされてきました。沖縄のように現在も生活の中に独自のハーブが息づいているところや、伝統ある薬草園が残されているところもあります。そんな日本のハーブを巡る旅に出かけてみませんか?

アイヌ

アイヌは北海道と東北北部、千島、樺太の一部に住んできた日本の先住民族です。アイヌの人々は、人知の及ばない自然界の存在を「カムイ(神)」として敬い、北国の厳しい自然と調和して暮らしてきました。アイヌの植物に対する知識は広く、根、茎、葉、樹皮、果実、幹、枝など細分化された有用部位が特定され、その部位ごとに名前がつけられることもありました。アイヌには、最初に地上に降りてきた植物がハルニレ、イチイ、ヨモギだったという伝説があり、これらが昔の生活に欠かせない植物だったことがうかがえます。その他に重要なハーブとして、イケマ、ナギナタコウジュ、エゾニワトコ、キハダ、チョウセンゴミシ、ギョウジャニンニクなどが挙げられます。

▶︎おすすめスポット
平取町立二風谷アイヌ文化博物館
http://www.town.biratori.hokkaido.jp/biratori/nibutani/

出雲

古代、出雲は医薬の国でした。因幡の白うさぎを助けたことで知られる大国主命おおくにぬしのみことと、医療や薬事をつかさどる神である少名彦命すくなひこなは共に国造りをし、医薬の礎を築いたとされます。出雲における薬草文化は『出雲国風土記』(733年編)に多くの薬草が紹介されていることや、日本最古の医学書である『大同類聚方だいどうるいじゅほう』(808年編)の中で大国主命に由来する薬について多くの記述が見られることなどから、かなり高度なものであったことがうかがえます。

伊吹山

琵琶湖の東に位置する標高1,377mの伊吹山は古くから薬草の宝庫として知られ、平安時代には宮中に献上されていました。16世紀には織田信長がポルトガル人宣教師に土地を与え、西洋式の薬草園を開いたといわれます。イブキジャコウソウ、イブキトラノオ、イブキタンポポなど、この山だけの固有の植物が多く見られます。

▶︎おすすめスポット
伊吹薬草の里文化センター薬草園
https://kitabiwako.jp/spot/spot_437

奈良

古くは寺院を中心に医薬術が導入されたことから奈良と薬のかかわりは深く、薬用植物も栽培されていました。江戸時代に国産の生薬の生産が奨励されるようになると製薬業も盛んになり、奈良の薬として全国的に知られるようになりました。県南部の大宇陀には、小石川植物園と並ぶ日本最古の薬草園「森野旧薬園」があります。

▶︎おすすめスポット
森野旧薬園 
https://morino-kuzu.com/kyuyaku

沖縄

病気を治すのも食事を摂るのも本質は同じであると考える「医食同源(薬食同源)」の考え方が浸透している沖縄では、食べ物のことを「ヌチグスイ(命の薬)」と呼び、薬用植物や海藻を多用した伝統食は長寿食として知られています。沖縄を代表するハーブとしては、フーチバー(ニシヨモギ)、ンジャナバー(ホソバワダン)、チョーミグサ(ボタンボウフウ)、ウッチン(ウコン)、サンニン(ゲットウ)などがあり、これらは日常的に食されたり、季節の行事に用いられたりしています。近年は新たな産業の1つとして沖縄独自のハーブやハーブ加工品の生産に取り組む農家や企業が増え、観光ハーブ園も県内各地に見られます。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第59号 2022年3月