2017.12.1.

ローズマリー

文筆家(木の文化研究)

杉原梨江子

Rosmarinus officinalis
しそ科・常緑低木
シンボル:変わらぬ愛、記憶、幸福な結婚

幸福な結婚を導く花──古代ギリシャ

香りが強く、いつまでも残ることから、ローズマリーは「変わらぬ愛」の象徴。古代西欧から若さと美しさを保つ薬効が知られてきました。ギリシャ神話に登場する、愛と美の女神アフロディテ(ヴィーナス)の持ち物のひとつ。アフロディテとともに語られる花はバラ、アネモネ、ホタルブクロなどがありますが、ローズマリーは結婚式に欠かせない花です。花嫁の花冠の材料に使われ、花婿にはリボンで結んだローズマリーの花束が渡されて、誠実な愛を誓い合いました。

淡い青、紫、ピンクの花は清潔感にあふれ、すがすがしい香りとともに、花嫁の清らかさと純粋な愛を象徴するようです。古代ギリシャでは記憶力を高めるため、ローズマリーの枝を髪に挿す風習もあったそうです。出会った頃の恋する気持ちをいつまでも忘れない、永遠の愛を約束するハーブですね。

健康と美貌を取り戻す「王妃の水」──中世ハンガリー

ローズマリーが主成分のハンガリー・ウォーター(王妃の水)については、ハーブに関わる方なら皆様ご存知のとおり。伝説を簡単に書くと、─14世紀、高齢となったハンガリー王妃エリザベートは博識の隠者から若返りの化粧水の作り方を教わります(別の説に、化粧水を贈られる)。当時70代だった王妃は健康と美貌とを取り戻し、隣国の若き国王から求婚され、幸せな日々を送りました──。ローズマリー・ティーをメインとした作り方は自宅でもできるもの。若さと健康と幸せをもたらす化粧水の効果を実践してみてはいかがですか。

聖母マリアの母性愛の象徴──キリスト教

女神アフロディテの持ち物とされた植物の多くが、やがて聖母マリアの持ち物へと変化しています。ローズマリーもそのひとつ。花の色にまつわるこんなエピソードが残っています。マリアがエジプトへと避難する途中、ヘロデ王の追っ手から幼子イエスを守るため、ローズマリーの繁みに隠しました。濡れたイエスの衣をローズマリーが生い茂るやぶの上に広げて乾かすと、白色だった花が青色に変わりました。青色はマリアの衣装を象徴する色。ローズマリーに色がついたのはこの時からと伝えられています。以来、ローズマリーは「母性愛」を象徴しています。

疲労回復、悪夢予防の妙薬──古代の植物療法

時代をさかのぼれば、古代ギリシャ時代から使われてきたローズマリー。古代ローマの植物学者ディオスコリデス(40頃-90頃)は『薬物誌』3巻で体を温める作用を記しています。ローズマリーを煮出したものを飲んで、運動し、入浴し、ワインを飲めば疲労を回復すると助言しています。古代ローマの博物学者プリニウス(23頃-79)は『博物誌』24巻の中で、樹液は浄化作用を必要とする疾患を癒し、視力回復にもよいと書いています。中世の本草書には、ローズマリーを床に撒くとその香りで無気力な人も元気が出てくる、枕の下に敷いて寝ると悪夢を見ない、香りを嗅ぐとうなされないなど、さまざまな処方が紹介されています。殺菌効果を利用して、病室で焚き、感染を防ぐためにも使われました。このように古代から現代まで重宝されているハーブです。

ローズマリーが家にひと鉢あれば、衣食住さまざまな場面で楽しめますね。

クリスマスの魔除け、大晦日のお清め──民間伝承

西欧にはローズマリーを使った不思議な魔法が数多く残っています。強い香りによって災厄、病気から守護するとされ、魔除けに使われました。病気除けのお守りにはローズマリーとタイム、スミレ、サクラソウ、スイセンを花束にします。クリスマスに飾る魔除けにはヒイラギ、アイビー、月桂樹、ヤドリギと一緒にローズマリーを飾ると、健康と幸福のお守りに。大晦日には、クローブを詰めたオレンジとローズマリーの小枝を飾りつけしてお清めの魔法に。去りゆく1年を浄化し、新年を迎える組み合わせです。

昔、未来の夫を知る方法がありました。20歳にならない3人の少女で行うのが決まり。用意するものは、すりガラスの器にワイン、ラム酒、ジン、酢、水を混ぜた液にローズマリーの枝を浸けた薬酒。3人とも胸元に小枝をつけ、薬酒を3口すすり、口をきかずに同じベッドで休みます。その晩に見る夢がそれぞれの少女の未来を予言するといいます。ローズマリー材の小物も力があり、スプーンは病気除け、クシはハゲ防止など、日常でさまざまに役立ちます。

ローズマリーが家にひと鉢あれば、衣食住さまざまな場面で楽しめますね。

若返りのクッキー、チーズケーキ──家庭料理

寒い冬も花を咲かせるローズマリー。庭やベランダにひと鉢あるだけで、これからの季節も楽しませてくれますね。現代にローズマリーの魔法をよみがえらせてはいかがでしょうか。お菓子やデザートなら楽しく簡単にできますよ。葉の部分を細かく切って、クッキー生地に混ぜて焼くと、若返りのクッキーに。レアチーズケーキもおすすめです。ローズマリーの葉を濃いめに煮出し、材料に少し加えると、さわやかな香りに仕上がります。材料の目安は、クリームチーズ200g、生クリーム200g(泡立てる)、砂糖50g、レモン汁少々、ローズマリー・ティー大さじ1。これらを混ぜて、市販のタルト生地に流し、冷蔵庫で固めればできあがり。心も体も元気にするローズマリー、パーティーのデザートにも取り入れてみてください。

(参考文献)

  1. C.M.スキナー著,花の神話と伝説,八坂書房
  2. 春山行夫著,花ことば,平凡社
  3. 大槻真一郎,尾﨑由紀子共著,ハーブ学名語源事典,東京堂出版
  4. マーガレット・B.フリーマン著,西洋中世ハーブ事典,八坂書房
文筆家(木の文化研究)
杉原梨江子 すぎはら・りえこ
文筆家。JAMHA認定ハーバルセラピスト、AEAJ認定アロマテラピーインストラクター、日本文藝家協会会員。日本、世界の木にまつわる伝承や神話、思想を中心に、人間と植物との交流の歴史を研究。著書『神話と伝説にみる花のシンボル事典(』説話社)、
『被爆樹巡礼~原爆から蘇ったヒロシマの木と証言者の記憶』『古代ケルト聖なる樹の教え』(ともに実業之日本社)ほか。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第42号 2017年12月