2026.2.16

植物たちが秘める健康力:〜日本人の健康を支える“ブロッコリーの力”〜

甲南大学名誉教授

田中 修

 来年(2026年)、ブロッコリーが、国(農林水産省)の「指定野菜」に加わります。指定野菜とは、消費量が特に多く、国民の食生活にとって重要と認められた野菜で、国が出荷の安定を図るもので、現在14品目が定められています(文末参照)。品目の追加は、1974年のバレイショ(ジャガイモ)以来で約50年ぶりです。ブロッコリーが、私たちの生活の中に浸透し、健康を支えていることを示すものです。今回は、ブロッコリーの力について紹介します。

栄養豊富で、欧米では「栄養宝石の冠」

 ブロッコリーはアブラナ科の植物で、原産地は、イタリアを中心とする地中海沿岸地方です。学名は「ブラシカ オレラセア(Brassica oleracea)」で、ケールやキャベツ、メキャベツ、ハボタン、カリフラワーなどと同じ名前です。これらはすべて、青汁の原料としてよく知られるケールが改良されて生まれたものだからです。

 日本には、明治時代の初期にもたらされ、食用として一般的に普及するのは、第二次世界大戦以後です。この野菜は、茎も食用になりますが、緑色のツボミが食べられる野菜です。「一株の食用部に、何個のツボミがあるのか」と気にされるようで、あるテレビ番組で数えられました。そのときの一株には、3万3336個のツボミがありました。
 この植物には、カロテン、ビタミン、ミネラル、食物繊維など、栄養に富む成分がたっぷりと含まれ、欧米では、「栄養宝石の冠(クラウン オブ ジュエル ニュウトリション;Crown of Jewel Nutrition)」とよばれます。
 カロテンは、活性酸素を消去し、ビタミンAにも変化して働きます。ビタミンCの含有量は、レモンやキャベツの数倍です。リンやカリウムなどのミネラルも豊富で、便通を良くし、腸内の不要なものを排出する食物繊維も多く含まれます。

スルフォラファンの発見でスプラウトの人気ナンバーワン

 近年、この野菜は「スプラウト(発芽野菜)」として大人気です。スプラウトは、タネが発芽したばかりの芽生えのことです。タネは、発芽するときに、貯蔵していた養分を使って、成長していくためのビタミンやタンパク質などの物質をつくります。そのため、発芽をはじめた芽生えは、種子のときより、いろいろな栄養素を豊富に含み、健康に良いのです。
 発芽野菜として食べられる野菜の種類には、カイワレ大根、豆苗、アルファルファなど、いろいろあります。その中でも、この野菜が人気ナンバーワンになった理由は、1992年に、「スルフォラファン」という成分が、この野菜の芽生えに多く含まれることが見出されたことです。
 スルフォラファンは、ブロッコリーに含まれるスルフォラファングルコシノレートという物質が、植物の細胞に含まれる「ミロシナーゼ」という酵素と反応することによってつくられます。そのため、ブロッコリーを切り刻んだり、よく噛んだりすればつくられます。
 この物質は、強い抗酸化物質なので、有害な活性酸素を消去すると考えられます。また、有毒な化学物質を解毒する力や、発ガン物質を無毒化して体外へ排出することが知られています。
 さらに、エネルギー消費を増大させ、肥満を抑制する作用があることが、マウスを使った実験で確認されています。ヒトを対象とした臨床試験では、スプラウトを食べると、不規則な便通を改善することが明らかになっています。

スルフォラファンの健康力は広がる

  スルフォラファンの効果については、その他にも、胃がんの原因となるピロリ菌への殺菌作用や、肌の保湿をサポートする効果などが発表されています。また、血液検査の項目で、ALT、AST、γ-GTPと省略されている肝臓機能の正常性を示す酵素の値が高くなった場合、正常値に戻す効果などが知られています。近年、さらに、健康効果について、次のような新しい知見が得られてきています。
 2022年、東北大学加齢医学研究所などの研究グループは、スルフォラファンを摂取すると、認知機能が向上し、怒りや混乱、抑うつなどを含むネガティブな感情が低下することを示唆する結果を発表しました。
 2023年、東北大学大学院薬学研究科の研究グループは、スルフォラファンが、糖尿病を悪化させるセレノプロテインという物質の血中の濃度を低下させることを明らかにしました。
 同じ年、大阪公立大学らの研究では、ブロッコリーのスプラウトに、スルフォラファンと同じような機能を果たす「硫黄を含む物質」が大量に含まれることを見出しました。2025年には、同じ研究グループが、「硫黄を含む物質」の量は品種により異なり、スルフォラファンを多く含む品種には、豊富に含まれる傾向があることを確認しました。ということは、スルフォラファン含有量の多いブロッコリーのスプラウトの品種を選ぶことが、より健康に良いということです。
2024年2月時点での指定野菜は以下の14品目です/キャベツ、キュウリ、サトイモ、ダイコン、タマネギ、トマト、ナス、ニンジン、ネギ、ハクサイ、バレイショ(ジャガイモ)、ピーマン、ホウレンソウ、レタス

甲南大学名誉教授
田中 修 たなか おさむ
たなか・おさむ 京都大学農学部卒業、同大学院博士課程修了(農学博士)。米国スミソニアン研究所博士研究員などを経て、現職。近著に、『誰かに話したくなる植物たちの秘密』(大和書房)、『かぐわしき植物たちの秘密』(山と渓谷社)、『植物たちに心はあるのか』(SB新書)、四季折々の植物の個性と生きぬく力を著した『雑草散策』(中公新書)など。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第74号 2025年12月