2026.7.14

ハーブ療法の母・聖ヒルデガルトの自然学:聖ヒルデガルトの緑の力と愛に生きる知恵

国際ヒルデガルド会DanielaDumann 認定 ヒルデガルトヘルスケアアドバイザーヒルデガルトフォーラム・ジャパン副代表

長谷川 弘江

計56,000字という約本一冊分の寄稿を長らくご愛読いただき、ありがとうございました。7年前、最初はどんな内容にしようか、読者の皆様に楽しんでいただけるだろうかと、不安でしたがそれでも、会員の方々からの温かい感想や励ましの言葉が、私の力となり、ここまで続けられました。感謝の気持ちでいっぱいです。この「緑の力」の連載が、皆様の日常の中で役立ち、癒しの一部となったのであれば、これ以上の喜びはありません。「ヒルデガルトヘルスケア」を共有し、皆様と一緒に歩んできたことは、何にも代えがたい貴重な経験でした。まさに彼女の説いた「35の美徳と悪徳 精神療法」です。古代から中世においての植物(自然)療法・ホリスティック療法の先駆者である彼女の魅力を皆様の言葉で発信していただけるのを祈りつつ、まとめたいと思います。

ヒルデガルト・フォン・ビンゲン(Hildegard von Bingen、1098〜1179)は、12世紀ドイツの女性ベネディクト会修道院長であり、神秘家、作曲家、哲学者、薬草学者として多面的な活動と女性で珍しく文書を書き残すことが許されました。人には見えない幻視を受け取り恐れ、悩み、苦しみながら、修道院を治め、自身が患者でもありながらも「神の意志」に沿った生活の一部として、病を治療し、その方法を書き残します。彼女の療法は「共鳴の知覚と愛、他者を慈しむ心」だと今は研究されています。

1)植物療法/Viriditas(緑の力) これは自然界に内在する生命力であり、自然の若々しさ・活力であると同時に、人間の魂の生命力とも結びつく。「神の創造物」としての自然を尊重し、ハーブがその神聖な働きを担うと、断食や食事療法、ハーブ療法を実践します。おすすめはスペルト小麦、フェンネル、セージ、ミント、ローズ、ラベンダー、栗、梨などです。

2)音楽療法/ 音楽は「天上の調和(harmonia caelestis)」の地上での反映であり、魂を整え、身体の病を癒す力をもつと考えた彼女は『Ordo virtutum』1158年、『Symphonia harmoniae celestium revelationum』1140年、77曲の楽譜を残します。人と神をつなげ、音の振動が、唄う者の心と身体に影響を与えると。歌劇は『美徳と悪徳』をテーマに次の瞑想療法につながります。

3)瞑想と悪徳・美徳を意識した精神療法/ Ora et labora(祈り、働く)というベネディクト修道会の戒律にもある瞑想。美徳は神に祝福される生き方であり、悪徳はその反対であるため、精神的な病の根本的な治療には謙遜・慈愛・節制・忍耐などの美徳の実践が不可欠とされました。中庸というバランスの整え方は、自己と周りの自然を観察し、調和の回復のために美徳を実践するというものです。瞑想はそのビジョン(幻視)を受け取るための準備として、また心の平安を得る手段として、彼女は瞑想を精神的な浄化の過程と捉え、内面的な静けさと神との共鳴を求めるものであると。その助けとして『緑の力』植物や宝石の輝き、音楽を提案します。

この考えは現代の認知行動療法やセルフケアにつながり、自己改善を通じて魂を慰め、精神的な病を克服し、健康的な心理状態を維持できることによって身体も健やかになると。祈りと自分と周りの愛を感じ、修練を通じて、美徳を身につけることができると信じていました。「目をとおしては色彩やシンボル、耳をとおしては音や響き、鼻は香りや匂い、舌は味と言葉、皮膚をとおして触覚などの喜びを」、「耳は2つの翼、目は人の小径、鼻は人の知恵である」、「神は、人間が全世界を見ることで知り、聴くことで理解し、嗅ぐことで区別し、味わうことで消費し、触れることで支配するように、人間に創造の鍵を着せたのであった」(大槻真一郎著『ヒルデガルトの宝石論』)。私たちは知恵と創造の鍵で、日々のトラブルを解決できる。聖ヒルデガルトのメッセージをぜひ受け取っていただけると幸いです。

聖ヒルデガルトについての本ですが、まず読んでいただきたいのは『ビンゲンのヒルデガルト―現代に響く声』(ベルヌー著、聖母文庫2012年)でしょうか。ジャンヌ・ダルクの研究者による本です。『聖ヒルデガルトの『病因と治療』を読む』(白田夜半著、ポット出版2018年)。ヒルデガルト研究の第一人者のシュトレーロフ博士の本です。特に食事療法のレシピ本はおすすめです。

この冬はデュマン先生のアドバイスで『金箔療法』を実践しました。手のひら半分ぐらいの小麦粉をとって、水でこね、金粉を1オブルス(当時のギリシャのコイン一枚ぐらい)の重さ分を混ぜ込み、毎朝空腹時に1枚食べるというものです。料理用の金箔で作ってみました。胃腸の悪い体液をとり、食欲不振・過食の場合の空腹感を正常化する働きもあるそうです。金の輝き(オーラ)を彼女は見ていたもしくは聞いたのでしょうか。彼女の観た幻視「生の泉」。神の霊の生きる泉に「愛」「謙遜」「平和」が3人の女性の姿として現れており、それらは「知恵」と共に働くと記述されています。これからも「愛に生きる知恵」を磨くことで少しでも安寧の日々が続くこと、聖ヒルデガルトのご加護を祈ります。

  • おすすめの本
  • 金箔療法
  • シュトレーロフ博士部屋の絵画
国際ヒルデガルド会DanielaDumann 認定 ヒルデガルトヘルスケアアドバイザーヒルデガルトフォーラム・ジャパン副代表
長谷川 弘江 はせがわ・ひろえ
国際ヒルデガルド会 DanielaDumann認定 ヒルデガルトヘルスケアアドバイザー ヒルデガルトフォーラム・ジャパン副代表。
英国ハーブ医学校通信課程修了。ハーブ医学とヒポクラテス、ディオスコリデス、プリニウス、パラケルスス研究の大槻真一郎氏、ドイツハイルプラクティカー連盟(BDH)副会長・民族医療協会"Gyu zhi"主宰ペーター・ゲルマン氏に師事。伝承と身近な植物のルネサンスをテーマに活動中。『ヒルデガルトの宝石論―神秘の宝石療法 (ヒーリング錬金術)』大槻真一郎著(コスモスライブラリー)で解説を執筆する他、著書多数。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第75号 2026年3月