閉経後の⼥性におけるホットフラッシュ、夜間の発汗、睡眠障害および認知機能スコア(物忘れ)に対するセージ(Salvia officinalis)抽出物の影響

閉経期の女性ではエストロゲンの低下により、ホットフラッシュ、夜間の発汗、睡眠障害、気分の変化、性機能低下、体重増加や認知機能の衰えなど、多様な症状が現れる。その中でも最も一般的な症状がホットフラッシュである。標準的な治療法であるホルモン補充療法(HRT)は有効性が示されているものの、長期使用に伴うリスクが指摘されており、そのため補完代替医療(Complementary and Alternative Medicine:CAM)を選択する女性も増加している。フィトエストロゲンを含む植物は、CAMにおける更年期ケアの重要な選択肢とされている。その代表例であるセージ(Salvia officinalis)は、薬用・食用として古くから利用されてきた歴史を持ち、今日では更年期症状の緩和にも活用されている。
本研究は、閉経後の女性におけるホットフラッシュ、夜間の発汗、睡眠障害、認知機能に対するセージ抽出物の影響を評価する目的で実施された。対象は 66 名(介入群33名、対照群33名)の閉経後の女性で、プラセボ対照ランダム化二重盲検比較試験として行われた。介入群にはセージ抽出物 100 mg 錠を1日3回、12週間投与し、対照群には外見が同じ錠剤を同様に投与した。評価には Menopause Rating Scale(MRS)、Pittsburgh Sleep Quality Index(PSQI)、ホットフラッシュと夜間発汗の頻度記録を用いた。測定は投与前、2·4·6·8·10·12週および投与終了後に行われた。
結果として、介入群では MRS の各項目が有意に減少した(すべて p < 0.001)。
·ホットフラッシュ ︓−1.6
·動悸 ︓−0.4
·睡眠障害 ︓−1.6
·筋 ⾁・関節痛︓−2.1
·抑うつ ︓−1.4
·神経過敏 ︓−1.2
·不安 ︓−1.6
·性欲 / 性的満⾜度︓−0.8
睡眠の質は介入群で PSQI が 9.4 ± 3.7 から 5.6 ± 1.9 へと有意に改善した(−3.8、p < 0.05)が、対照群では有意な変化は認められなかった。また、ホットフラッシュおよび夜間の発汗の頻度も 10 週および 12 週時点で対照群より有意に減少した。認知機能(物忘れ)に関しては、介入群のスコアが平均 1 単位低下し(paired t-test、p < 0.001)、対照群では変化が認められなかった(p = 0.326)。安全性については、介入群において重篤な有害事象は報告されず、全体として良好な忍容性が示された。
セージにも含まれるフィトエストロゲンは、閉経後のエストロゲン低下を相対的に補うとされる。ホットフラッシュには体温調節域の狭少化や視床下部におけるノルアドレナリンの中枢での増加(末梢代謝物ではない)が関与するとされ、セージはアセチルコリンエステラーゼ阻害、ロスマリン酸の抗酸化·抗アポトーシス作用などにより神経細胞を保護する可能性が報告されている。ただし、セロトニン再取り込みやアセチルコリンエステラーゼ阻害への作用が認められなかった研究もあり、作用機序の解明には今後の検討が必要である。
著者らは、セージは閉経後の女性におけるホットフラッシュ、夜間の発汗、睡眠障害を含む更年期症状の多くを有意に改善したと結論づけている。また、プラセボと比較して症状の軽減が明確に認められたことから、セージは更年期ケアにおける補完的介入として臨床的妥当性が示された。
[ ⽂献]
Zeidabadi A, et al. Salvia officinalis extract on symptoms of flushing, night sweat, sleep disorders, and score of forgetfulness in postmenopausal women. J Family Med Prim Care.
2020;9(2):1086-1092. doi:10.4103 /jfmpc.jfmpc_913_19.
参考)
Menopause Rating Scale(MRS):
MRS は、更年期女性の症状の重症度や経時的変化、ホルモン補充療法(HRT)の前後比較を目的として開発された自己記入式の国際的評価尺度である。各項目を0~4点で評価し、抑うつ気分、いらだち·神経過敏、不安、身体的·精神的疲労、ホットフラッシュ·発汗、心拍異常、睡眠障害、筋肉·関節痛、そして性的機能低下や膣乾燥·排尿症状を含む泌尿生殖器の問題から成る9項目で構成されている。
引用:
Heinemann K, Ruebig A, Potthoff P, Schneider HP, Strelow F, Heinemann LA, Do MT. The Menopause Rating Scale (MRS) scale: a methodological review. Health Qual Life Outcomes. 2004 Sep 2;2:45. doi: 10.1186/1477-7525-2-45
Pittsburgh Sleep Quality Index(PSQI):
PSQI は過去1か月間の睡眠の質と睡眠障害を評価するために開発された自己記入式質問票であり、19項目から構成される7つのコンポーネント(主観的睡眠の質、入眠潜時、睡眠時間、習慣的睡眠効率、睡眠障害、睡眠薬の使用、日中機能障害)から1つのグローバルスコアを算出する。臨床研究で広く用いられる信頼性の高い指標である。
引用:
Buysse DJ, Reynolds CF 3rd, Monk TH, Berman SR, Kupfer DJ. The Pittsburgh Sleep Quality Index: a new instrument for psychiatric practice and research. Psychiatry Res. 1989 May;28(2):193-213. doi: 10.1016/0165-1781(89)90047-4. PMID: 2748771





