第3弾 ハーブで減塩 塩の代替品と活用
JAMHAでは、SDGs への取り組みの一環として、厚生労働省の「健康的で持続可能な食環境イニシアチブ」に参画しており、「食塩の過剰摂取」・「若年女性のやせ」・「経済格差に伴う栄養格差」の解決に向けての取り組みを行っています。今号はその第3弾として、食塩の過剰摂取を是正するために、ハーブやスパイスを使用した塩の代替品をご紹介します。
食塩(塩化ナトリウム)は、体内の水分・pH・浸透圧の調整、食べ物の消化、栄養素の吸収、神経伝達、筋肉の収縮弛緩等の体内の機能において重要な役割を果たしますが、一方で過剰摂取により、高血圧、腎臓病、心臓病、胃癌などの生活習慣病を引き起こすリスクを高めることが知られています。厚生労働省は食塩の摂取目標量を男性で7.5g /日未満、女性で6.5g /日未満と設定しています。この目標達成のため1日約3g(小さじ約半分)の減塩を目指しましょう!
塩味を感じる物質は基本的に塩化ナトリウムだけのため、ナトリウムを減らすと塩味を感じにくくなり、食事が味気ないものになってしまいます。そこで、塩味増強技術を用いて、風味やおいしさを保つ様々な研究が行われています。
①パセリ Petroselinum crispum(Mill.) Fuss(セリ科):塩化カリウムと合わせて使用することで食塩を50%減らす効果があることが報告されています。これは、パセリに含まれる有効成分アピインが塩化カリウムの欠点(苦味やえぐみ)を抑制するためとされています。塩化ナトリウムの代替品で広く用いられている塩化カリウムを用いる際に有効なハーブです。
②キバナオランダセンニチ Acmella oleracea(L.)R.K.Jansen(キク科):頭花は山椒に似た刺激的な辛味と舌がしびれるような独特な風味をもちます。キバナオランダセンニチは辛味成分である脂肪酸アミドのスピラントール(アフィニン)を含有します。スピラントールは、アルギニン塩酸塩を含む鶏肉、豚肉、大豆、大豆製品、かつお節、ナッツ類などと一緒に使うことで、塩味増強作用により、約50%の減塩が期待できるとされています。
③スパイスチンキ スパイスチンキとは、スパイスをアルコールによって数時間~複数日間、抽出したものです。スパイスの中でも黒コショウ、トウガラシ、ジンジャー、ニンニク、コリアンダー、サンショウが好適で、特にトウガラシチンキとブラックペッパーチンキが塩味を増強するとされています。
辛味成分と塩味の関係
トウガラシの辛味成分であるカプサイシンが塩味の代用になるメカニズムをご紹介します。辛味は本来、味覚ではなく、痛覚の一種です。基本五味(甘味、酸味、塩味、苦味、うま味)は舌の上にある味蕾で感知されますが、カプサイシンはTRPV1と呼ばれる筒状膜の受容体で感知されます。カプサイシンが受容体と結合するとTRPV1の筒構造が広がって活性化した状態になり、カルシウムイオンやナトリウムイオンが細胞内へ流れ込みます。これが電気信号発生の引き金になり、知覚として伝わることから、少量の塩でも塩味を強く感じてしまうことになります。このように、カプサイシンによって塩味を感じやすくなるため、トウガラシを使うことで減塩ができます。ポイントは、辛味
を感じない程度の微量の辛味成分を料理に加えること。辛味を感じない程度の濃度でカプサイシンを利用することで、塩味が増強され、塩化ナトリウムの量を減らしても食事の満足感を維持できることから、減塩の普及が期待されます。また、TRPV1は、カプサイシンが存在しなくても、43℃を超すと活性化します。このことは、痛みセンサーは温度のセンサーでもあり,辛さ(hot)と熱さ(hot)を感じる仕組みは同じであることを示しています。トウガラシを食べると辛さと同時に熱さも感じるのはこれが理由です。体温を越えた熱さが痛みとなって感じられることは、人間が危険を回避するための危険信号なのです。これまで、温度センサーの受容体は11個発見されていて、その中に
は28℃未満で反応するTRPM8受容体があり、ミントなどのメントールやローズマリーなどのシネオールに反応して清涼感などを感じることが知られています。
[参考]
・農研機構 食品研究部門 塩味増強効果のある食品素材の探索・ニッスイHP「食品に関する研究」
・化学技術振興機構 京都府立医科大学「舌で「おいしい」塩味を感じる仕組みが明らかに」
・川端二功「スパイスの化学受容と機能性」日本調理科学会誌 Vol.46,No.1,2013年
初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第69号 2024年9月