2025.8.7

日本のハーブ:薬草園のエンゴサク

昭和薬科大学 薬用植物園 薬用植物資源研究室 研究員

佐竹 元吉

 学内薬草園内に入る路面に可憐なセツブンソウが咲き、圃場にはの空色の花が咲き始める。林縁には、キクザキイチゲが群落をつくり薄い水色の花が見られる。イカリソウやフキの間に弱々しいジロボウエンゴサクが見られる。

①セツブンソウ
②キクザキイチゲ
③カタクリ
④ジロボウエンゴサク
⑤エンゴサク

 エンゴサクCorydalis turtschaninovii forma yanhusuoは中国各地(主に浙江省、河北省、山東省)で栽培される小形の多年草。小石川の御薬園に導入されたのは、江戸時代の享保年間に中国と朝鮮からと記載がある。

 エンゴサクは地中に直径1〜2cmくらいの塊茎を備える。塊茎から数本の茎を伸ばし、葉は互生し2回3出複葉となる。地中にある下位の葉は鱗片となり、鱗片の脇に生じた球芽が次世代の塊茎になる。エンゴサクの花序は頂生して穂状花序になる。花弁は4枚で紅紫色。上部の花弁が後ろへ長く伸びて距となる。

 総状花序、長さ21〜5cm、まばらな花3〜8個:苞葉は卵形から狭く卵形で、下部のものは、長さ約10mm、先端は3〜5個に分かれる。上部で全縁、卵形。がく片2、小さく、すぐ落下する。花冠は淡紫紅色、花びらは4個で、2個が輪生、外側の渦巻きの上部の花びらは最も大きい、長さは15〜25mm、上部は幅広の楕円形に伸びて距のある花びら、下部は広い卵形、側弁は2個が癒合して細い角状である。雄しべ6、内輪の花びらよりわずかに短い、雌の柱頭はほぼ丸みを帯びる。果実は長さ1.7〜2.2cmの棒状で、種子は1列に並ぶ。

⑥エンゴサクの花
⑦エンゴサクの花と葉
⑧エンゴサクの根茎
⑨エンゴサクの根茎断面
⑩エンゴサクの果実

 日本薬局方に収載されている生薬で、第7改正日本薬局方には、基原植物にCorydalis ternate、または近縁植物の塊茎とされているが、第18改正ではCorydalis turtschaninovii  forma yanhusuo の塊茎とされている。中国で安中散などの漢方処方に配合されている。延胡索が初めて収載されたのは宋代の『開宝本草』で、婦人病の薬として用いられていた。

 生薬の形態は、ほぼ扁球形を呈し、径1〜2 cmで、一端に茎の跡がある。外面は灰黄色〜灰褐色で質は堅く、破砕面は黄色で平滑又は灰黄緑色で粒状であるとされ、ほとんどにおいがなく、味は苦い。

⑪エンゴサクの生薬
⑫エンゴサクの粉砕片

 国内のキケマン属の植物には、花が黄色のものと紅紫色系の種類がある。黄色の花は海岸に見られるキケマンである。紫青色系のものに、根茎が球形で、エンゴサクとして薬に使われたものがある。

 根茎は球形で通常1個の茎を生じ、花茎あるものは根葉を生ぜず。最下の1葉は鱗片状に退化する。蒴果は線形又は長楕円状線形。塊茎の内容は多少黄色を帯びる。花は紫碧色、まれに白色、長さ17〜25mmのエゾエンゴサクと、蒴果は披針形から狭い卵形で、塊茎の内容は白色、花は長さ15〜25mmのヤマエンゴサクがある。また塊茎から数個の根葉と花茎とを生じ、長さ15〜22mmのジロボウエンゴサクがある。

 根茎を有せず、茎の葉は多数又はやや多数、茎はよく伸長、散開し、花弁は長さ12〜18mm、距は長さ花弁と同長、先端少しずつ多少細まり、蒴は先端が少し太いムラサキケマンがある。

⑬エゾエンゴサク
⑭ヤマエンゴサク
⑮ジロボウエンゴサク
⑯ムラサキケマン

[写真提供]
①②③⑤⑥⑧⑨⑮:昭和薬科大学 薬用植物園 中野 美央氏
④⑦⑩⑪⑫⑬⑭:株式会社栃本天海堂 松島 成介氏 
⑯:元昭和大学 薬学部 磯田 進氏

昭和薬科大学 薬用植物園 薬用植物資源研究室 研究員
佐竹 元吉 さたけもとよし
当協会顧問。沖縄美ら島財団研究顧問。1964年東京薬科大学卒業。国立医薬品食品衛生研究所生薬部部長、お茶の水女子大学生活環境研究センター教授、富山大学和漢医薬学総合研究所・お茶の水女子大学客員教授を歴任。著書『第17改正 日本薬局方生薬等の解説書』(共著・廣川書店)他。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第71号 2025年3月