ハーブ療法の母・聖ヒルデガルトの自然学:西洋中世文化事典掲載とハーブハーモニーの考え
2024年秋、恩師 熊井明子先生が永眠されました。私が子どもの頃に愛読した漫画雑誌に載っていた「ポプリ」。ハーブを混ぜて作るお守り(?)のようなものと思っていました。ポプリ講師認定コースでアニメ『エヴァンゲリオン』や『時をかける少女』に登場するラベンダーの香りのレポートに丁寧な添削とご感想をいただき感激したのが一生の思い出です。2015年には日本アロマ環境協会のイベントで先生の後に「ヒルデガルトの自然学」について講演でき、とても喜んでくださいました。猫とラベンダーを愛した熊井先生のご冥福をお祈り申し上げます。
11月、『西洋中世文化事典』(西洋中世学会編):21世紀における最新研究での西洋中世についての読む事典が出版され、9章 信仰と想像コラムに16回でご紹介した「ヒルデガルト・フォン・ビンゲン 幻視の世界、写本の挿絵」中央公論美術出版著者鈴木桂子先生による「ビンゲンのヒルデガルト」が。「最も壮大なのは宇宙をテーマとする幻視である。自然の美しさも神の愛の表れである。自然界の諸要素が、徳を顧みない人間の乱用により、神が定めた自分たちの秩序が乱されると嘆く。現代にも通じる警告が12世紀に発せられている」と。
サブカルチャーとしての「中世主義」や中世暗黒説への諸相など、西洋中世に興味のある方におすすめしたい一冊です。「中世においては、薬や手術による治療よりも普段の生活の中で『健康』を追及することが重要であったのである」。「『健康全書』の冒頭には、健康のために留意するポイントとして①よい環境にいること、②正しい飲食をすること、③正しく運動と休息をとること、④適度な睡眠を取ること、⑤体液を正しく維持すること、⑥感情を穏やかに保つことの6点があげられている」(p.247)。聖ヒルデガルトの説く「中庸と緑の力」と重なると思います。「ちょっとした病気やけがの治療にあたったのは女性たちであったと思われる。女性は家庭内の家族の健康管理にあたったほか、おそらくは伝承のかたちで得た知識や治療法の知識をもって、地域社会で健康の維持に力を尽くした」(同ページ)と聖ヒルデガルトが紹介されています。
先日、アイビンゲンにある聖ヒルデガルト修道院長が代替わりされたとHPに(https://abtei-st-hildegard.de/)。何度も訪れたせいか一緒に写真をとってくださった故院長が思い出されます。聖ヒルデガルト修道院は、19世紀のドイツカトリックの主要な人物の1人であるローゼンベルク王子(1834-1921)の命令により、1900年から1908年に建てられました。マリア・ラーハ修道士であり、建築家であるリンクレーク(1850-1927)によって1908年9月7日に奉献されたそうです。担当したビューロン美術学校で最も成功した作品と見なされています。
その売店でハーブティーを購入したのですが、お話を伺えました。製品化にはハイルプラクティカー(国家資格の自然療法士)に監修をお願いしたと。「聖ヒルデガルトはガーデンと薬草の知恵を古文書に残しました。当時はお茶というよりワインにつけ込むというレシピですが、現代ドイツの自然療法の知恵の礎であるという考えのもとにブレンドハーブティーとスペルト小麦の代替珈琲を販売しています。ブレンドハーモニーです。
①色、②香り、③目的、④ハーモニー、五感の調和・中庸、⑤ブレンドハーブへの直観を考えています。喜びのハーブブレンドは体質・好み・環境を整える・性格にアプローチします。花・フラワーは心に[ローズ・カモミール・カレンデュラ・ヤグルマギク・マロウ・スミレ、例えばラベンダーとヤグルマギクとマロウ、ローズとローズヒップとマロウなど]。葉、緑の力[オレガノ・セージ・タイム・ネトル・バジル・ヒソップ・マジョラム・ペパーミント・レモンバーム]。実と種[キャラウェイ・ジュニパーベリー・ローズヒップ・オレンジ・レモン・フェンネル 例えばフェンネルとローズとカレンデュラ、フェンネルとメリッサとローズ、マジョラムとバジルとタイム(血液循環)など]。根・スパイス[シナモン・クローブ・ナツメグ・ジンジャー・ガランガル・コショウ・ガーリック・ゴボウ、例えばシナモンとクローブとジンジャー、カモミールとジュニパーベリーとゴボウなど]、春のデトックスハーブティーとしておすすめしているのはカモミール・ネトル・ミント」だそうです。「怒りやメランコリーに襲われたら、クエンチワイン(温めたワインに同量の冷水を加えたもの)を作り、温かいうちに飲むように」と。古代ギリシャでもこのワインのレシピはあるので、四体液説の黒胆汁に効果があるとされたのでしょう。
臼田先生の「聖ヒルデガルトの『病因と治療』を読む」第17話ヒルデガルトの診察室処方でも、この響き合うものに注目しています。「病む体の元素的な組成とハーブのもつ元素的な組成の響き合いを聴き取り、選び出してゆくという方法の回路が、ヒルデガルトの魂の中にあったのではないか。」と。
感謝と共に、皆様のご健勝を祈ります。



初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第71号 2025年3月





