植物たちが秘める健康力:〜日本人の長寿を支える“ダイコンの力”〜

ダイコンはアブラナ科の植物で、原産地はヨーロッパ南部から中央アジアです。日本へは中国大陸から、弥生時代に伝来し、古くから日本人の健康を支えてきました。奈良時代に編纂された、現存する最古の歴史書といわれる『古事記』には、この植物は「おおね」という名前で出ています。春の七草では、「スズシロ(蘿蔔)」とよばれていて、その食用部のすがすがしい白さから「清白」という字が当てられることがあります。
ダイコンの栄養成分とは?
ダイコンは根を食べる根菜類とされますが、植物学的には、食用部の上部約3分の1が茎であり、下部の約3分の2が根です。よく似たカブ(カブラ)の食用部がほとんど茎であるのとは、大きな違いです。
ダイコンの食用部は、水分含量が多いので、低カロリーですが、食べごたえはあり、満腹感が得られます。そのため、ダイエットに適しています。
栄養成分は、「美容のビタミン」ともよばれるビタミンCや、ビタミンB群に属する「造血のビタミン」といわれる葉酸を豊富に含みます。ミネラルでは、カリウムが多く、ナトリウムを排出するので、高血圧を予防することが期待されます。食物繊維も多く含まれており、整腸作用があります。
葉っぱの部分にも、これらの栄養成分が含まれます。そのため、葉っぱは、ホウレンソウやブロッコリーなどと同じ緑黄色野菜とされ、根部には含まれない「カロテン」が含まれます。この物質は、ビタミンAが不足するとそれを補い、抗酸化物質として、動脈硬化や老化を防止します。

ダイコンの酵素の力
ダイコンには、多くの酵素類が含まれます。デンプンを分解する「アミラーゼ(旧名は、ジアスターゼ)」という酵素が含まれるので、お餅などを食べすぎて胃がもたれるようなときには、これですっきりとすることがあります。
ダイコンは「食当たりをしない野菜だ」といわれますが、これは、この消化酵素を含むことが一因です。この「当たらない」が洒落られて、「当たらない役者」に「大根役者」の語が使われるという説もあります。
また、タンパク質を分解する 「プロテアーゼ」という酵素が含まれます。調理前の肉などを大根おろしにつけておくと、やわらかくなるといわれたり、大根おろしが肉料理に添えられたりするのは、この酵素の作用を期待してのものです。
脂質を分解する「リパーゼ」とよばれる酵素が含まれており、油の多い食材をあっさりと食べられたり、胸やけを防ぐといわれたりするのは、この酵素のおかげです。
「オキシダーゼ」とよばれる酵素も含まれます。焼き魚のこげに発ガン物質があるといわれますが、その毒性をこの酵素は消去することが期待されます。
「辛み」と「新成分」
ダイコンの大きな特徴は、辛みです。この辛みの成分は、「イソチオシアネート」という物質です。イソチオシアネートには多くの種類があり、ダイコンには、数種類が含まれます。これは、抗酸化物質であり、強い殺菌作用をもち、胃液の分泌を促して消化を促進します。
大根おろしにされる前には、イソチオシアネートは存在しないので、辛みはありません。食用部には、イソチオシアネートの元になる「グルコシノレート」という辛みのない物質と、「ミロシナーゼ」という酵素が、出会わないように存在します。この二つが出会って反応すると、イソチオシアネートが作られるのです。
この反応は、すりおろすと出てくる汁の中でおこります。そのため、辛みを出すには、きめ細かにすりおろし、なるべく多くの汁が出るようにすればよいのです。汁の中で二つが出会い、ミロシナーゼがグルコシノレートをイソチオシアネートに変え、辛みが作られます。
「ダイコンは、尻尾が辛い」といわれます。これは、ダイコンの尖った先端の方の「尻尾」にあたる部分が、葉の近くの上部より、辛いことを意味しています。グルコシノレートとミロシナーゼが、尻尾にあたる部分に集中していることに起因します。
ダイコンでは、尖った先端が成長して伸びていく部分ですから、「先端が虫に食べられずに伸びるために、辛味の成分を多くもっている」といわれます。
ダイコンの辛み成分は、日が経つと、臭いや黄色みを帯びてきます。2017年、東北大学と農研機構らの研究者による、辛み成分を作り出す遺伝子の研究から、保存中に臭いや黄変が生じず、辛みやフレッシュ感が残存する、ダイコンの新品種が開発されています。
新しい成分に関する報告もされています。2019年、鹿児島大学の研究者らは、桜島大根に「トリゴネリン」という物質が多量に含まれることを発見しました。これは、「血管をしなやかで柔らかい状態に保ち、血管の機能を改善する」といわれます。2023年、鹿児島大学は、桜島大根の旬が短いので、1年を通して、トリゴネリンを摂取できるスティックゼリーを開発したと発表しています。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第71号 2025年3月





