第4弾 若年女性のやせについて考える 食環境の改善のすすめ
厚生労働省では2022年3月産学官の協力を得ながら、国民に向けて食生活の改善を行うために「健康的で持続可能な食環境イニシアチブ」事業を設置しました。この事業では、日本が注力し取り組むべき主な栄養課題として、「食塩の過剰摂取」・「若年女性のやせ」・「経済格差に伴う栄養格差」の3つを挙げ、JAMHAでも参画して取り組んでいます。今号は第4弾として、「若年女性のやせ」の問題点についてお伝えします。
日本人は栄養不足?
日本の20歳台、30歳台女性のやせの割合は増加傾向を示していて、若い女性の5人に1人は、BMI18.5kg/㎡未満の「やせ」に分類されています。主な先進国の中でも、成人女性のやせの者の割合は最も高いことが報告されていて、日本人の低栄養が問題視されています。

東京大学社会予防疫学分野の研究グループによる「習慣的な栄養素摂取量」の大規模調査によると、日本人は、脂質やナトリウム(塩分)の摂りすぎ、タンパク質、ビタミン類、カルシウム、鉄の不足が、深刻であると報告されています。この結果から、日本人は栄養のバランスが悪いことが示されました。
やせの危険性
若年女性のやせは骨量減少、低出生体重児出産のリスクなどと関連があることが示されています。骨量が最も増え、最大骨量になるのは女性で18歳〜20歳頃。骨量は40歳くらいまで維持され、その後徐々に下降し、閉経後には急速に骨量が減少します。もともとの骨量が低ければ低いほど骨折のリスクが高まり、「骨粗鬆症」に罹患しやすくなります。これを防ぐためには、18歳〜20歳頃の骨量を十分なものにしておく必要があるのです。
やせた女性が妊娠した場合、普通体重の妊婦に比べて早産や低出生体重児を出産するリスクが高いことが知られています。2019年日本の低出生体重児の割合は9.4%で、医学の進歩に関係なく、新生児の10人に1人が低出生体重で生まれています。早産や低出生体重児の問題は、乳児死亡や成長過程の健康問題だけでなく、そのことが成人になってから循環器疾患や糖尿病へと発症する危険因子であることが強く示されていることです。早産や低出生体重児の対策として、妊婦は胎児期からの環境に目を向け、標準体重の維持、喫煙、飲酒など、生活習慣を見直すなどの対策が必要です。
プレコンセプションケア(Preconception care)のススメ
コンセプション(Conception)とは受胎、おなかの中に新しい命をさずかることをいい、プレコンセプションケアとは、将来の妊娠を考えながら女性やカップルが自分たちの生活や健康に向き合うことを指します。女性にとって、体脂肪は体内のホルモン生成に関与するだけでなく、正常な性機能に重要な働きをしています。妊娠前にバランスのいい栄養を摂取し、正常な月経周期につながるよう、標準体重と体脂肪率22%を維持するようにすること。これがコンセプションにとって大切なことです。さらに子宮や卵巣など女性特有の臓器が成長過程である思春期に、ダイエットなどで体重や体脂肪を極端に減らすことは、女性ホルモンの生成や分泌に悪影響を及ぼし月経周期異常、無月経などを引き起こすことがあり、無月経が続くと骨量の低下にもつながります。妊娠の前だけではなく成長期から食事の内容を考え、心身ともに健康な状態を維持することが次世代への好影響へとつながっていきます。
食事の調査票BDHQについて
「BDHQ」は、自分の食事の偏り(取り過ぎ、または不足の栄養素など)がはっきり分かり、一般的な料理に含まれている栄養素の量や取り方のコツ、食習慣で気をつけたい内容の具体的なメッセージが示されます。普段の食習慣や健康を考えるきっかけに役立ててみましょう。
※簡易型自記式食事歴法質問票 http://www.nutrepi.m.u-tokyo.ac.jp/dhq/summary.html ※BMIの計算方法:BMI=体重kg÷(身長m)2
初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第70号 2024年12月