2023.9.19

オタネニンジン(朝鮮人参): アダプトゲンと呼ばれるハーブを学ぶ

博士(農学)

木村正典

「オタネニンジン(朝鮮人参)」Ginseng

【学名】 Panax ginseng C. A. Mey.
【科名】 ウコギ科
【使用部位】 根
【主要成分】 サポニン2~3%(ジンセノシド各種)、精油0.05%(リモネン、テルピネオールなど)、アセチレン化合物(パナキシノールなど)
【作用】 アダプトゲン、強壮、新陳代謝促進
【適応】 心身の疲労、気力・体力の消耗、病弱

東洋を代表する滋養強壮のハーブ

オタネニンジンは最も広く知られ、よく研究されているアダプトゲンです。原産は中国東北部や朝鮮半島北部で、伝来してきた場所にちなんで「高麗人参」や「朝鮮人参」とも呼ばれます。学名「Panax ginseng」のPanaxは、ギリシャ神話に登場する万能の女神であるPanakeiaに由来し、オタネニンジンのもつ幅広い効能を物語っています。

民間薬として用いられてきた歴史は古く、1~2世紀頃にまとめられた中国最古の薬物書『神農本草経』に上品じょうほん(長期服用する養命薬)として収載されるなど、東洋を代表する滋養強壮のハーブとして長きにわたって珍重されてきました。漢方で用いられる「人参」は、オタネニンジンの根を乾燥したもので、虚弱体質の人の消化機能を助け、新陳代謝を促して活力をつける働きがあるとされ、体力を補う目的で使用されます。

オタネニンジンの主要成分は、ジンセノシドと呼ばれるサポニンで、含まれるジンセノシドは10種類以上に及びます。これらはそれぞれ特徴的な働きをもち、複合的に作用することで、疲労回復、精神安定、ストレス緩和、免疫強化、血流改善など様々な効果を発揮すると考えられています。

TRIVIA オタネニンジンの豆知識

日本でも健康食品として人気のオタネニンジン。栽培に非常に手間がかかるため生のものは希少で高価ですが、ティーバッグや顆粒など手軽で飲みやすい高麗人参茶をはじめ、薬酒や濃縮エキス、カプセルなど多彩な加工品が販売されています。

白参と紅参

オタネニンジンは収穫後に乾燥して製品化しますが、加工法によって呼び名が変わります。「白参(はくじん)」と呼ばれるのは、生のオタネニンジンの皮をむき、天日で乾燥させたもの。

「紅参(こうじん)」は、皮をつけたまま湯通しするか蒸気で蒸した後、紅色になるまでゆっくりと天日乾燥させたものです。紅参は白参に比べサポニンなどの機能成分の含有量が多く、保存性にも優れ、オタネニンジンの中でも上級品とされています。

ニンジンとオタネニンジン

オタネニンジンはウコギ科トチバニンジン属の多年草。

一方、私たちが日ごろ野菜として食べているニンジンはセリ科の植物で、まったく別ものです。ところが、日本ではもともと「ニンジン」というと、漢方薬の朝鮮人参(オタネニンジン)を指していました。

オタネニンジンが日本に伝来したのは8世紀。それに対し、セリ科のニンジンが伝わったのは16世紀頃。明治時代に入るまでは、オタネニンジンのほうが一般的だったといわれます。

参鶏湯(サムゲタン)

オタネニンジンを使った料理の中で、日本で最も有名なものといえば、韓国料理の「参鶏湯(サムゲタン)」。ヒナ鶏の腹にオタネニンジンやもち米、ナツメ、松の実などを詰めてじっくりと煮込んだもので、体がポカポカと温まる滋養たっぷりの医食同源料理です。

一見、寒い季節に好まれそうですが、本場韓国では体力が衰えがちな夏場に暑気払いとしてよく食べられるそう。日本でいえば土用の丑の日などに食べる「鰻」のようなものです。

ATTENTION!

妊娠中の方、授乳中の方、ワルファリンを服用中の方は使用を避け、糖尿病や高血圧などの持病のある方は、医師に相談の上使用してください。

TOPICS 国産オタネニンジンの夢、再び

「オタネニンジン」の名は、江戸時代に幕府が九州の対馬藩に命じて朝鮮半島から種と苗を入手させ、試植と栽培をした後、各地の大名に種子を分け与えて栽培を奨励したことから、これを敬って「御種人参」と呼ぶようになったと伝えられています。

それ以前は、もっぱら朝鮮半島からの輸入に頼っていました。当時の日本は、朝鮮半島から大量のオタネニンジンを買いつけたことにより、銀不足(財政難)に。それならば自国でオタネニンジンを作ろうと、八代将軍・徳川吉宗が栽培に乗り出したのが国産オタネニンジンの始まりです。

そのかいあって、生薬の原料としてのオタネニンジンは、1960年ごろまでは100%国産品が使用されていました。紅参として加工したものは、50%を海外に輸出していたほどです。

しかしその後、韓国産の輸入が始まると、国内生産量は大きく減少していきます。現在は国内で使用されるオタネニンジンのうち、国産品の割合は0.1%以下に。大部分を中国からの輸入に頼っているのが現状です。

国内のオタネニンジンの主要な生産地は長野県、島根県、福島県ですが、国内での安定供給を求める声が高まり、生産拡大に向けた取り組みが進められています。

ボタニカルアート = 田中 沙織

博士(農学)
木村正典 きむらまさのり
当協会理事。(株)グリーン・ワイズ。博士(農学)。ハーブの栽培や精油分泌組織の観察に長く携わると共に、都市での園芸の役割について研究。著書に『有機栽培もOK!プランター菜園のすべて』(NHK出版)など多数。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第65号 2023年9月