2023.9.15

バランスを取り戻して心と体を整える ー アダプトゲン: ストレスへの適応力を高めよう

いりたに内科クリニック院長

入谷栄一

慢性的なストレスに起因する心身の不調に悩む人が多い中、“アダプトゲン”と呼ばれるハーブに関心が高まっています。 アダプトゲンは、ストレスに対する適応力を高め、ストレスによって乱れた体の生理機能を正常化することで、疲れ、倦怠感、不眠、不安、気分の落ち込みなどを緩和し、精神と身体のエネルギーを高める働きをもつものです。

今回は、そんなアダプトゲンについてご紹介します。

アダプトゲンとは何か

アダプトゲンという言葉が注目されるようになったのはここ最近のことですが、先人たちははるか昔からアダプトゲンをとり入れ、心と体を癒やしてきました。 その魅力や活用法を知り、日々の健康管理に役立てていきましょう。 「アダプトゲン(adaptogen)」とは、様々なストレスに対して適応力を高める作用そのものや、そうした作用をもつ植物などの自然物のことをいいます。

「適応する」という意味の「adapt」に、「生じるもの」という意味の「gen」をつけたもので、1940年代に旧ソ連の科学者ラザレフ博士によって発表された比較的新しい言葉です。

その後、研究が進められ、1960年代には旧ソ連のブレクマン博士らがアダプトゲンの満たす条件を

  1. 生体にとって無毒であるもの
  2. 体内で非特異的耐性(物理的・化学的・生物学的な様々なストレス要因に対する耐性)を増加させるもの
  3. ストレス要因によって生理機能が基準値から外れても、それを生理学的に正常化させるもの

と定義づけました。 この定義に当てはまるものは、ストレスによって引き起こされる不安や落ち込み、倦怠感などを緩和する作用をもち、免疫やホルモンの働きを活性化・正常化することで、活力増進、滋養強壮、抗酸化、抗うつなどの働きを示します。

つまり、精神と身体のエネルギーレベルを全体的に引き上げてくれるのが、アダプトゲン作用です。 しかも特徴的なのは、興奮して高ぶった機能を鎮める、あるいは逆に、沈滞した機能を興奮させるといった一方向だけの作用ではなく、方向性に関係なく正常化に導いてくれることです。

ホルモンや免疫システムのバランスを保ちながら、ストレスによって乱れた体の機能を正常に戻し、心身を活性化させてくれるのが、アダプトゲンのもつ大きな魅力といってよいでしょう。 数あるハーブのうち、アダプトゲンと認められているのは、実はごくわずかです。その中には植物だけでなく菌類なども含まれています。

よく知られているアダプトゲンには、オタネニンジン、エゾウコギ、マカ、ロディオラ、ホーリーバジルなどがあります。また、漢方で使われる霊芝レイシ冬虫夏草トウチュウカソウ枸杞クコなどもアダプトゲン作用をもつとされます。

これらはインドの伝承医学であるアーユルヴェーダや中医学(中国の伝統医学)で何世紀にもわたり使用されてきたもの。こうした長年の経験に裏打ちされた実績があります。科学的な検証がなされるはるか以前から、先人たちはアダプトゲンのパワーに気づき、健康の維持・増進のために活用してきたのです。

アダプトゲンはフレッシュなものや種苗を入手しにくいものが多いため、ドライの煎剤(ハーブティー)やサプリメントなどで摂取するのが一般的です。その際は、過剰摂取にならないように上手に摂り入れることが大切です。

アダプトゲンは安全性が確認されていますが、副作用が全くないわけではありません。摂り過ぎると高血圧や不眠などの症状をかえって悪化させてしまうことがあるため注意が必要です。

また、他の薬との相互作用(一緒に摂ることで、薬の働きを必要以上に強めてしまったり弱めてしまったりする作用)をもつものもあります。薬やサプリメントを服用中の人や持病のある人、妊娠中の人、授乳中の人などは、医師または薬剤師に相談のうえで利用するようにしましょう。

アダプトゲンの定義

次の3つの条件を満たすものがアダプトゲンとして分類されます。

  1. 無毒であり、必要以上に正常な身体機能に影響を与えないもの
  2. 体内で様々なストレス要因に対する耐性を増加させるもの
  3. 生理機能が基準値から外れても、それを生理学的に正常化させるもの

アダプトゲン作用

  • ストレス緩和
  • 疲労回復
  • 体力増強
  • 免疫力向上
いりたに内科クリニック院長
入谷栄一 いりたにえいいち
総合内科専門医、呼吸器専門医、アレルギー専門医。東京女子医科大学呼吸器内科非常勤講師。在宅診療や地域医療に力を入れる他、補完代替医療やハーブ、アロマに造詣が深く、全国各地で積極的に講演活動も行う。著書に『病気が消える習慣』、『キレイをつくるハーブ習慣』(経済界)など。当協会顧問。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第65号 2023年9月