2022.10.4

セージの様々な有用成分

京都大学大学院 生命科学研究科 教授 農学部食品生物科学科 兼担

永尾雅哉

はじめに 

セージ(学名:Salvia officinalisSalviaは、「救う、助ける」という意味のラテン語のsalvare由来、officinalisとはラテン語で「薬用の」という意味)は、シソ科アキギリ属の地中海沿岸を原産とする多年草で(図1)、その名からお分かりのように、古くからその葉が薬用のハーブとして利用されると同時に、香草として料理に使われてきた。

イギリスでは「長生きしたければ、5月にセージを食べよ」という格言が、他にも「庭にセージを植えている人は、死ぬことがあろうか」というような格言があるようで1)、薬用ハーブの代表格と言っても良いと思われる。
サイモンとガーファンクルの名曲スカボロー・フェアにも、市場で売っているものとしてセージは登場し、西洋の人にはお馴染みのハーブである。

香草・スパイスとして食品の形で利用され、特に肉類とは相性が良く、その強い香りで肉の臭みを消すだけでなく、防腐効果もあり、例えば、英語のsausage(ソーセージ)は、ラテン語の塩漬けを意味するsalsusから来たという説が有力だが、牝豚を表すsauとセージ(sage)が合わさったものと、まことしやかに書かれたりするぐらいである。

また、ハーブティーとして、お茶の形でセージを楽しんでおられる方もおられよう。セージの精油成分には抗菌2,3)・抗ウイルス4)作用があるとされ、西洋では古くから、セージ茶でうがいすることで、風邪や感染症を予防し、歯肉炎や口内炎などの症状を和らげることが行われている。

さて、筆者らは動物培養細胞を利用した、種々の生物活性評価系を用いて、様々な植物抽出液からの有用物質のスクリーニングを行っている。今回は、セージから見出した抗がん活性のある成分に関するお話を中心に、セージについて解説する。

図1. セージ(Salvia officinalis)    日本新薬(株)山科植物資料館提供

セージの成分 

セージに含まれる成分として、モノテルペンのツヨン(ツジョン)が有名である。ツヨンはメントールのような香気を持つ精油成分で、ニガヨモギ等にも含まれる。また、サルビアタンニンと呼ばれる縮合型のタンニンや、後述するフラボノイドの一種であるルテオリンなども含まれることが知られている5)

セージの抗がんに関わる成分 

少し専門的になってしまって恐縮だが、がんは、遺伝子に複数の傷が入ることで、細胞の正常な増殖や分化の制御に「異常」が生じて、増殖制御が不能になり、また本来の場所でない組織に「転移」して、本来の正常な組織の機能を乱すことで、ついには個体を死に導く厄介な疾患である。

筆者らは、免疫制御に関わるインターロイキン-6(IL-6)の下流などで増殖・分化制御に関わる転写制御因子Signal transducer and activator of transcription 3(STAT3)が、がん細胞で異常に働いている(機能亢進)ことに着目して(図2)、このSTAT3の機能を抑制する成分を探索すべく、様々な植物抽出液をスクリーニングした結果、セージから3種類の成分、カルノソール、ルテオリン、シリシリオールを単離同定した(図3)。
このうち、カルノソールとルテオリンについては、既にSTAT3を介した情報伝達(シグナル)抑制の報告があったが6,7)、フラボノイドの1種のシリシリオールについては、初めての報告となった8)

細かいことだが、STAT3シグナルの抑制は、この3種の化合物で見られたものの、3種の化合物間で阻害の作用点や様式が少し異なるように感じられたが、まだ、シリシリオール特異的な作用メカニズムは明らかにできていない。

また、シリシリオールは、自然免疫系のナチュラルキラー(NK)細胞の活性化能が知られている、柑橘類に含まれるノビレチンという成分と構造的に類似しているため(図3)、筆者らはNK細胞株であるKHYG-1を用いて、がん細胞であるK562細胞への傷害性を調べる系で評価した8)

その結果、シリシリオールは、ノビレチンと同様に、NK細胞を活性化して、がん細胞を攻撃する能力を増強することがわかった。

つまり、シリシリオールには、がん細胞の機能維持に重要なSTAT3シグナルを抑制し、また、自然免疫系のNK細胞を活性化するという両面から、抗がん的な機能があることが明らかになった。

図2. STAT3 を介した情報伝達系の例


STAT3は、サイトカインや成長因子の刺激で、細胞内で情報伝達に関わる転写因子として機能するが、がん細胞ではこの情報伝達が異常に働いて、がん化に関わる。この図は、STAT3の関与する情報伝達系の例として免疫制御に関わるサイトカインIL-6(インターロイキン-6)による遺伝子発現制御を示した。STAT3は、IL-6刺激により、IL-6受容体複合体に会合したJAKキナーゼによってリン酸化(Pで示す)され、二量体となって、核に移行し、IL-6応答遺伝子の転写を促進する転写因子として、機能する。

図3. 化合物の構造     (a)カルノソールの化学構造   
図3. 化合物の構造      (b)ルテオリンの化学構造
図3. 化合物の構造     (c)シリシリオールの化学構造
図3. 化合物の構造    (d)ノビレチンの化学構造    

図3. 化合物の構造
セージから、STAT3シグナル阻害物質として、筆者らがスクリーニングしてきた3種の化合物、(a)カルノソール、(b)ルテオリン、(c)シリシリオールと、NK細胞活性化機能を持つ、柑橘類に含まれる、(d)ノビレチンの化学構造。

セージの抗動脈硬化成分 

セージから、動脈硬化の改善を目指す成分の探索も、筆者らは行った。動脈硬化の解決策の一つとして、末梢に溜まるコレステロールの排出を促進して、高比重リポ蛋白質(HDL)により肝臓へのコレステロールの「逆転送」を行う系を利用して、体外への排出を図ることが考えられる。
そこで、セージから、この逆転送系を促進する化合物の精製を行い、1つのジテルペンを同定した(論文準備中)。
筆者の論文ではないが、ヒトの介入試験で、セージ茶を飲むことで、脂質プロファイル(血中の中性脂肪や、コレステロール量など)に改善が見られることが報告されており9)、セージ茶は、この面からも有用かもしれない。

セージの成分による免疫制御の可能性

筆者らはまた、薬物代謝や免疫制御に関わる、芳香族炭化水素受容体(Aryl hydrocarbon receptor, AhR)に作用するジテルペン類を、セージから6種同定した10)
AhRは別名、ダイオキシン受容体と呼ばれるが、ダイオキシンは人工物であり、本来的にAhRに作用する化合物(リガンド)が存在する。
AhRに作用する内因性リガンドとして、アミノ酸の一種であるトリプトファンの代謝物があげられる。AhRリガンドは、免疫系を促進する場合も抑制する場合もあり、例えば、あるトリプトファンの代謝物はAhRに作用して、免疫抑制的に働く制御性T細胞を誘導する。
この系は、母親にとって「異物」である胎児に対して、免疫系が攻撃しないように、いわゆる「免疫寛容」を誘導して、胎児を守ることに使われる。
この系を悪用する「がん」が存在し、「自分は味方なので攻撃しないで」という情報を発信する。この「がんの悪用」を遮断するのが、2018年度のノーベル医学・生理学賞を受賞された本庶佑先生が発見された免疫チェックポイント抗体で11)、この抗体により、免疫系は、がん細胞を「やっぱり敵だったじゃないか」と気づいて攻撃することが可能になる。

話は逸れたが、AhRに作用するリガンド類はその構造の違いで、免疫系を正にも負にも制御する。筆者らは、セージから同定した6種のジテルペンが、それぞれ、免疫に関わる未分化なナイーブT細胞の分化を通じて、免疫系を促進する場合も、抑制する場合もある可能性について、現在検討している。なお、AhRに作用する外因性の天然物として、野菜由来のトリプトファン代謝物やフラボノイド類も知られている12,13)

全く違う話だが、母乳中に含まれるオリゴ糖を利用する乳児型ビフィズス菌は、トリプトファンなどの芳香族アミノ酸から、インドール乳酸などの「芳香族乳酸」を産生するが、これらはAhRに作用し、乳児期の腸管免疫・バリア形成に重要な働きをしている可能性がある14)

おわりに 

最後に、セージに特異的なことではないが、「ホルミシス」という概念に触れておく。よく知られているように、薬と毒は表裏一体である。つまり、適量使えば薬だが、過剰に使えば毒になる。野菜やハーブに含まれる成分も同じである。
毒とは言えない適量で、軽いストレスをかけておくと、強いストレスに対して予め耐性をつけることができる。これが「ホルミシス」という概念である15)
これは季節毎の「旬」のものを食べる意義の一つとも考えられる。旬の野菜やハーブには、独特の香りや、苦味があったりする。「良薬は口に苦し」というように、苦味とは本来、人が「忌避(嫌がる)」すべき「毒」を感じていると考えられるが、適量は「薬」となる。
冒頭に書いたイギリスの格言、「長生きしたければ、5月にセージを食べよ」というのは、5月にセージを食べて、軽いストレスを与えることが、暑い夏対策になるということを昔の人は感じ取っていたのかもしれない。
私が子供の頃は、人参などの野菜も独特の香りや味があり、特に子供は嫌ったりしたが、最近では、育種、品種改良のおかげで、野菜はずいぶん「くせ」がなくなってしまった。しかし、それは本来の野菜の持つ、ヒトに良い「ホルミシス」の効能を奪ってしまったのかもしれない。
従って、今はハーブ類によって、そのような「ホルミシス」の機能を補うことが求められる時代かもしれない。

繰り返しになるが、気をつけていただきたいのは、有用な成分が入っていると言っても、その成分を過剰に摂取することは逆に害になる場合が多く、またハーブの中には様々な成分が含まれていることもあり、特定のハーブを過剰に摂取することは、必ずしも体に良いわけではない。伝承的に良いとされる摂取量、頻度を念頭に、賢くお使い頂ければと考える。

謝辞 

執筆の機会をお与え頂きました、日本メディカルハーブ協会に厚く御礼申し上げます。
筆者らの研究につきましては、筑波大学 地中海・北アフリカ研究センターの礒田博子教授が代表をされた「JST/JICA地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)(JPMJSA1506)」のご支援を受けました。
関係者の方々、研究協力者の方々に厚く御礼申し上げます。

[参考文献]

..1)Dweck AC. 2000. The Folklore and cosmetic use of various Salvia species. Sage: The Genus Salvia, Kintzios SE Ed. Harwood Academic Publishers, 1–29.
..2)Weckesser S, et al. 2007. Screening of plant extracts for antimicrobial activity against bacteria and yeasts with dermatological relevance. Phytomedicine 14: 508–516.
…3)Mendes FSF, et al. 2020. Antibacterial activity of Salvia officinalis L. against periodontopathogens: An in vitro study. Anaerobe 63: 102194.
…4)Schnitzler P, et al. 2008. Comparative in vitro study on the anti-herpetic effect of phytochemically characterized aqueous and ethanolic extracts of Salvia officinalis grown at two different locations. Phytomedicine 15: 62–70.
…5)Jakovljević M, et al. 2019. Bioactive profile of various Salvia officinalis L. preparations. Plants (Basel) 8: 55.
…6)Park KW, et al. 2014. Carnosol induces apoptosis through generation of ROS and inactivation of STAT3 signaling in human colon cancer HCT116 cells, Int J Oncol 44: 1309–1315.
…7)Song S, et al. 2017. Luteolin selectively kills STAT3 highly activated gastric cancer cells through enhancing the binding of STAT3 to SHP–1. Cell Death Dis 8: e2612
…8)Yanagimichi M, et al. 2021. Analyses of putative anti–cancer potential of three STAT3 signaling inhibitory compounds derived from Salvia officinalis. Biochem Biophys Rep 25: 100882.
…9)Carla MS, et al. 2009. Sage tea drinking improves lipid profile and antioxidant defences in humans. Int J Mol Sci 10, 3937–3950.
.10)Nishino K, et al. 2021. Abietane diterpenoids from Salvia officinalis leaves as aryl hydrocarbon receptor ligands. Phytochem Lett 41: 78–82.
.11)Okazaki T, et al. 2013. A rheostat for immune responses: the unique properties of PD–1 and their advantages for clinical application. Nat Immunol 14: 1212–1218.
.12)Li Y, et al. 2011. Exogenous stimuli maintain intraepithelial lymphocytes via aryl hydrocarbon receptor activation. Cell 147: 629–640.
.13)Denison MS, et al. 2003. Activation of the aryl hydrocarbon receptor by structurally diverse exogenous and endogenous chemicals. Annu Rev Pharmacol Toxicol 243: 309–334.
.14)Laursen MF, et al. 2021. Bifidobacterium species associated with breastfeeding produce aromatic lactic acids in the infant gut. Nat Microbiol 6: 1367–1382.
.15)マトソン MP, 2016. 野菜が体によい本当の理由 微量毒素の効用. 日経サイエンス 46: 66–73.

京都大学大学院 生命科学研究科 教授 農学部食品生物科学科 兼担
永尾雅哉 ながおまさや
1982年京都大学農学部食品工学科卒業、1987年京都大学大学院農学研究科食品工学専攻博士後期課程修了(京都大学農学博士)、2001年から現職、専門は、天然由来の有用成分の研究を含めた応用分子細胞生物学。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第61号 2022年9月