2021.9.9.

メディカルハーブのペットへの応用

フジカケ ペットクリニック 院長 獣医師

藤掛誠

はじめに 

「先生、うちの子にはハーブを与えていますよ。毎日散歩の時、土手でいつも同じ草を食べるんですよ。これって犬の体にはよいハーブなんですよね?」と、飼い主さんからこんな質問を受けることがあります。
 
確かに犬や猫はよく草を食べることがあります。理由としては、胃の調子が悪い、誤嚥ごえんした物を吐くため、ビタミン、ミネラルの補給のためなど、諸説あります。草を食べた犬や猫は軽く吐くことはあっても、その後はスッキリしていることが多いです。
 
大昔から野生動物達は厳しい自然界での生存競争を生き抜くために、病気やケガの時、身近な植物を体によいか悪いかを本能的に嗅ぎ分け摂取し、体を癒やしてきたのです。
 
これらがハーブのルーツといえるでしょう。二食昼寝付き、おまけにオヤツも付いている現代のペット達にも、人と同じ疾患、生活習慣病が多く見られるようになり、ハーブを使うことの意義は大いにあります。ハーブの中でも体によく、健康維持の目的で使われるものを「メディカルハーブ」といいます。病気の軽・中・重症のどのステージに合うかを考えて使うことにより、治療の幅が出てきます。

事例紹介 

いくつかの具体例をご紹介します。

1)脂肪肝

健康診断の血検で肝機能の検査項目、特にAST(GPT)、ALPという酵素が軽度から中度の上昇が見られ、主治医から「肝障害」と診断される犬達が最近多くなっています。飼い主さん達からの稟告りんこくでは、異口同音に「オヤツにビーフジャーキー等をご褒美に毎日与えています」と答えられます。

エコー検査で肝臓実質のエコー輝度の上昇、簡単にいえば肝臓全体がギラギラと反射しているように見えます。肝臓に脂肪が蓄積した状態の「脂肪肝」です。臨床症状は伴わないが、進行すると最終的に「肝硬変」や「肝細胞がん」になるのです。
 
人は軽度なら、「緑茶カテキン」とコーヒーの「クロロゲン酸」の摂取で予防できます。しかし緑茶やコーヒーはカフェインを多く含み、中毒の危険もあるので犬には与えられません。

犬の場合、オヤツを止め、食餌の見直し、運動量を増やす指示とハーブサプリメントの「ダンディライオン」や「ミルクシスル」チンキを処方。ダンディライオン(西洋タンポポ)は胃の働きを高めて消化促進し、胆汁分泌促進、抗炎症、利尿作用等があります。ミルクシスル(マリアアザミ)の種子から抽出した「シリマリン」という成分は脂肪肝、慢性肝炎、肝硬変に効果があります。強い抗酸化作用による保護と肝細胞の再生能による修復力を高めます。1~2カ月目位から肝機能のデータが改善されてきます。

2)リンパ球性胆管炎

日本猫10歳メス:

食欲不振・元気消失・削痩、可視粘膜・歯肉の黄疸おうだんで来院。臨床症状、血検、腹部エコー検査所見により、「リンパ球性胆管炎」と診断。

入院・点滴・抗生剤・ステロイド・利胆剤のデヒドロコール酸で治療、3日目から黄疸も薄くなり始め、食欲も少し出てきた。5日目には食欲も元に戻り、一旦退院。内服に「ダンディライオン」のFFDカプセルと抗生物質を処方。2週目には血液の数値もほぼ正常値に復帰。
 
「胆管炎」は胆嚢たんのうから消化液の胆汁を十二指腸に流すための管の炎症をいい、発生率は犬より猫の方が高く、種類もいくつかあります。

3)肝臓腫瘍

M・ダックス10歳メス:

元気消失・削痩で来院。肝機能検査の高値、腹部エコーで肝臓表面に半円状の腫瘤しゅりゅうがびまん性に散在。手術・病理検査・抗がん剤治療の流れを飼い主に説明したが、話し合いの結果、QOL(生活の質)の改善に努める保存療法を選択。

漢方薬(がん細胞アポトーシスの誘導作用、マクロファージ機能増強作用)とミルクシスルDという「標準化エキス」の投与を行い、発症から約3年の延命が得られ、死の1週間前まで、食欲・元気もあった。
 
ハーブサプリメントにはチンキ・FFD・標準化エキスとあり、チンキは皆さん、一度は自分で作られたことがあると思います。

◎FFD…フレッシュフリーズドライの略で、生ハーブから瞬間的に水分だけを取り出し、粉末にしたもの。

◎標準化エキス…医療目的のために加工処理し、活性成分含有量を増加する。ミルクシスルDはマリアアザミの種子を60℃、20時間の減圧乾燥させた粉末、成分のシリマリンを80%になるよう調整したもの。カプセル1粒1粒の成分のばらつきがなく、しっかりと有効成分を摂取でき、医薬品に準ずる。ちなみに加工していない種子には3%前後のシリマリンしか含有していない。血糖降下薬を飲んでいる時は血糖値が下がり過ぎることもあるので注意。
 
犬の場合は血糖降下薬の処方はなく、インスリンの注射を使います。糖尿病の場合は使用しません。

4)細菌性膀胱炎

パグ10歳メス:

2~3日前より頻尿・1回量の減少・時々血液が混じる。尿検(白血球、赤血球、細菌 (+))、エコー検査で結石(−)、膀胱内膜の腫瘍性変化(−)、これら所見により細菌性膀胱炎と診断。

抗生物質、止血剤投与で4日目には症状は改善。内服として抗生物質とペット用クランベリーサプリメントを処方。
 
クランベリーサプリメントは、クランベリーの成分、キナ酸が腸管吸収され、肝で馬尿酸に代謝変換、その後尿中へ排泄、尿の酸性化と尿管への細菌の付着を防ぐ働きがあります。クランベリーはジュースで飲まれることが多くありますが、かなり酸味が強いことからペットには向きません。サプリメントとして錠剤で与える分には問題ありません。ちなみに犬の尿のphは6~6.5です。

5)僧帽弁閉鎖不全(MR)

トイプードル12歳オス:

最近、運動負荷をかけると軽度の呼吸促迫・散歩にも行きたがらない、聴診では心雑音強度分類の第II度(聴診ですぐ聴き取れる弱い雑音)と胸部X-Ray、心臓エコー、心電図の心検査所見より、初期の僧帽弁閉鎖不全症と診断。

発咳、呼吸困難等はなく、ACE阻害薬(血管拡張作用)を使用する前に「ホーソンベリー」のFFDカプセルを処方。投与2カ月位から軽度な運動負荷でも呼吸が安定し、心雑音も進んでいない。半年後の心検査、聴診では少し進行していたが、臨床症状では大きな変化は見られなかった。飼い主との話し合いにより、ACE阻害薬の低用量から始め、合わせて「ホーソンベリー」も処方。
 
ホーソンには陽性変力作用があり、動悸や息切れ等の改善をする働きがあります。

6)特発性テンカン

M・ダックス13歳オス:

他院よりの転院で、「特発性」テンカンで1年前よりフェノバール(抗テンカン薬)を処方され、発作は少し減少したが、かなり強い鎮静作用のため、1日の大半、ウトウト状態だが、食餌の時は異常なまでの食欲で紙袋でも食べそうになる。

これでは可哀想とセカンドオピニオンで来院。血検で肝機能の高値が見られ、「フェノバール長期投与による、中度の副作用」と診断。フェノバールはかなりの効果はあるが、肝臓障害、食欲の異常亢進の副作用が見られる。

これに代わる抗テンカン薬として比較的、副作用の少ない「ゾニサミド」の低用量で始め、新しい薬が体に馴染むまでと「スカルキャップ」チンキを処方(まれに発作が続く時は「ホップ」FFDカプセルを加える)。2週目あたりから発作も落ち着き3〜4カ月に1回になり、食欲も普通に戻り、活発に動けるように。QOLの改善も見られた。
 

特発性とは犬には多く発症、原因が特定できず、神経学的検査や脳波、MRIでもわかりません。これに対して猫に多い、原因が特定できる「症候性」テンカンがあります。
 
スカルキャップは昔、ヨーロッパでは「狂犬病」のハーブと呼ばれていました。鎮静・鎮痙作用・神経疲労に効果があります。根は漢方生薬の「オウゴン」で、漢方薬によく使われます。バレリアンもホップも鎮静・鎮痙作用があります。スカルキャップとバレリアン、バレリアンとホップの組み合わせは相性がよいです。

7)犬の良性前立腺肥大

雑種犬13歳オス:

未去勢、2週間前より排尿姿勢をするが尿がポタポタしか出ない。その後、少し勢いよく出始める。

X-Ray、エコー検査、尿検査から中度前立腺肥大と診断。加齢による肥大と思われる(犬は去勢手術で前立腺が縮小する)。飼い主の頼みで内科的保存療法を行う。酢酸オサテロンの1日1回7日間投与で肥大した前立腺を縮小させる。内服として「ソウパルメット」(ノコギリヤシ)のFFDを処方。「植物性のカテーテル」と呼ばれ、良性前立腺肥大ステージI〜IIに使用できる。

おわりに

日本ではメディカルハーブは「食品」として扱われています。しかし薬効はあるので、他剤との飲み合わせに注意する必要があります。ある種の製剤はハーブとの併用で、製剤の効果の減弱や逆に強調されることもあるので、よく調べましょう。妊娠・授乳中には原則的に与えません。1週に1〜2日の休みを入れます。ダンディライオン・ミルクシスルはキク科植物のアレルギーがある場合は使用しません。症状はクシャミ・鼻水・結膜炎が出ます。
 
ハーブが全ての病気に効くというのではなく、使い方・使えるステージ・副作用・他剤との併用で起こり得ることを調べてから使いましょう。自分のペットにハーブサプリメントを使いたいと考えているなら、主治医に相談してください。
 
ハーブはケア(予防)からキュア(治療)の両方に役立つ、自然からの贈り物といえるでしょう。

[資格]
  • 日本伝統獣医学会 「小動物臨床鍼灸師」 
  • 中国伝統獣医国際培訓センター 認定 「中医獣医鍼灸師」
  • 日本メディカルハーブ協会 「ハーバルセラピスト」「ハーバルプラクティショナー」「日本のハーブセラピスト」
  • 日本アニマルフィトセラピー学術協会 認定「フィトセラピープラクティショナー」
  • 日本アロマ環境協会 認定 「アロマテラピー・インストラクター」
  • 日本ペットマッサージ協会 認定
  • 「ペットマッサージセラピスト」「ペット東洋医学アドバイザー」
  • バッチ ホリスティック研究会 「バッチフラワー レベル2」
  • アニマルハーブボール国際協会 認定「プラクティショナー」
  • ペット薬膳国際協会 認定 「ペット薬膳管理士」
  • 日本漢方養生学協会 認定 「漢方養生指導師」初級
[参考資料]
  • エピデンスに基づくハーブサプリメント事典 橋詰直孝 著
  • ハーブの安全性ガイド クリス・D・メレテス 著
  • 薬用ハーブの機能研究 健康産業新聞社編
  • NATURAL STANDARD による有効性評価
  • ハーブ&サプリメント GAIA BOOKS
  • メディカルハーブの事典 改正新版 林 真一郎 著
  • メディカルハーブ ハーバルセラピスト コーステキスト JAMHA
  • ノラ・コーポレーション HP
  • 健康長寿ネット HP カテキンの種類と効果と摂取量 
  • 花王(栄養代謝の研究開発)論文リスト HP
  • クロロゲン酸の体脂肪低減効果、茶カテキンの有効性に関する論文
  • 犬にコーヒーを与えてはいけない:カフェイン中毒になる
  • TAILORED CAFF HP
  • カフェインの安全性、代謝、健康に及ぼす影響 飲料アカデミー HP
  • イスクラ産業ペット事業部 HP
  • ペットのためのハーブ大百科 Dr.グレゴリー・ティルフォード 著
  • メディカルハーブ安全性ハンドブック 第II版
フジカケ ペットクリニック 院長 獣医師
藤掛誠 ふじかけまこと
日本大学卒業後、開業医での研修を経て、1978年に東京都板橋区に『フジカケ動物病院』を開院。93年に分院『フジカケペットクリニック』を北区浮間に開設。2015年、フジカケ動物病院を閉院し、自然療法に従事。ハーバル・プラクティショナー。
メディカルハーブのペットへの応用

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第57号 2021年9月