2021.7.17

吉本多香美さんの沖縄ハーブ便り
Okinawa Herb Letter
美しく香る、月桃(サンニン)

吉本多香美

皆さん、こんにちは。ハーブのある暮らしを楽しんでいますか? 今回は、島のハーブの中でも毎日のように使い、役立っているとてもありがたいハーブをご紹介します!

Photo:Takami Yoshimoto , Hatsumi Iriguchi

それは、月桃です。ショウガ科ハナミョウガ属、東南アジアに咲く多年草芳香植物で、沖縄では「サンニン」と呼ばれ、人々の間で親しまれています。

石垣島の家の庭に自生している植物の中でも一際存在感を放っている月桃。葉は長さ30~70㎝、幅15~20㎝ほどの大きな楕円形で、天に向かってひしめき合いながら伸びています。その艶やかで生命力溢れる美しさは、見ているだけで元気になれます!

私の背丈ほどに成長する葉の力強さとは裏腹に、柔らかな乳白色をした花はとても女性的。そのアンバランスさにドキッとしてしまうほどです。

花冠は3つに分かれ、花弁はおおらかな舟形、黄色と紅のうっすらとした条紋があり、一見すると蘭の花のよう。ぶどうのように房になって連なっています。

花の後にできる果実は、2㎝くらいの小さなホオズキのような球卵形をしています。9〜10月頃になると熟して朱色になり、その一側が縦裂して、中からアサガオの種のような形の灰色の種子が顔をのぞかせます。

姿形だけでなく、香りもとても魅力的です。葉、花、果実、種子、どれもが月桃特有の甘い香りを放っていますが、葉はさわやかで、花は女性的で、誘うような魅惑的な香りを感じます。野山を歩いていても漂うその香りで、すぐに月桃が近くにあることが分かります。実際、花の中に甘い蜜があり、花はサラダなどに入れて生で食べられます。

華やかな月桃の花

沖縄の暮らしの知恵

月桃には抗菌、防虫、防カビ、消臭などの作用があり、沖縄では万能な植物として、昔から日常生活の中で利用されてきました。

私もその効果を知ってから、お弁当でおにぎりを包む時、笹の葉を使うように月桃の葉で包むようになりました。お饅頭を作って蒸す時も、お魚を蒸す時も月桃の葉を鍋底に敷き、その移り香がおいしさを増してくれるのを楽しんでいます。お皿の代わりに使うこともよくあります。

また、生葉を台所に置けばゴキブリなどの虫除けに、煮出した汁を家の周りにまけば、シロアリの防除剤になるそうです。葉を乾燥させて袋に詰め、たんすに入れると防虫剤に、刻んだ葉をアルコールに浸けてスプレーすれば部屋の消臭剤にと、私達が日頃、やっかいだなと思う虫やカビを遠ざけてくれます。

その他、月桃の葉にはとても強い繊維があるため、壁紙や障子などの和紙作りにも使われています。

季節行事に欠かせない植物

石垣島では、旧暦の3月3日に「浜下り」(サニズ)という風習があります。その日に女性が浜に下り、体を海に浸すと次の1年健康でいられるというもの。今でもその風習が残っていて、その日は老いも若きも女性は皆、海に行きます。

その浜下りの日のために作られるのが、ムーチーというお餅。餅粉と黒糖、時に蒸かした紅いもを混ぜ、月桃の葉に包んで蒸したもので、香り豊かな優しい味がします。浜下りの日だけでなく、子どものおやつとして家庭でよく作られています。気温の高い石垣島ですが、このムーチーは月桃の葉に包まれているため、常温で3〜4日置いても腐敗しません。

月桃の葉に包まれたムーチー

万能な健康茶にも!

漢方では、月桃の種子は薬として使われてきました。生薬名は白手伊豆縮砂しろていずしゅくしゃ。 主な効能は、消化不良、痰切り。 作用は、体内の余分な水分を取り除き、主に消化器管を温め、食積しょくしゃく(消化不良)を改善することにより効果を発揮します。消化不良、食欲低下、胸・腹の冷痛や下痢、健胃・整腸に種子を煎じて服用します。みかんの皮や生姜を一緒に入れて煎じてもよいようです。いずれも冷えを原因とした症状に効果的です。

痰切りは、種子大さじ5杯に生の松の葉を一束入れて煎じて服用します。 松の葉には抗菌作用がある他、気管支炎や鼻炎などのかぜの症状にも効果があります。

月桃の果実

そして近年では、月桃に含まれるポリフェノールが新たに注目されています。その量は赤ワインの何と34倍! ポリフェノールはご存じ、抗酸化作用の高い成分。その他カルシウム、マグネシウム、鉄分などのミネラルも豊富なため、煮出した健康茶は“若返りの薬草”として家庭で飲まれています。

私も月桃のすっきりと甘い香りが大好きで、朝のお茶として葉っぱを煎じて飲んでいます。その香りには優れた鎮静作用があるため、ストレスや不安を和らげ、穏やかな気持ちにさせてくれます。ほっと一息したい時に、おすすめです。

また、ちょっと疲れたなと思う時には、乾燥した種子だけでなく、朱色の果実全体を煎じて飲むことがあるのですが、これが何とも美しい桃色のお茶なんです! 月桃の果実は草木染めにすることもあるそうです。

月桃は肌にもうれしい効果があります。肌を引き締め、潤いを保ち、肌を柔らかくする作用などです。最近では、月桃の蒸留水がお土産物として商品化されるようにもなってきました。私は月桃の葉をホホバオイルに浸けてマッサージオイルにしたり、月桃の葉を水と一緒にミキサーに入れて月桃水を作り、日焼けした肌にピタピタと塗ったりしています。

このように月桃は、植物全体が私達の体や心に役立つ、素晴らしい植物です。そんな植物が野山に自生して、庭先にも生えているなんて、自然の神様が「皆が健康に生きられるように役立ててね!」と助けてくれているみたいです。自然の神様、今日もありがとう! そんな気持ちを伝えながら、庭先の自然の恵みをいただいています。

吉本多香美 よしもとたかみ
女優 石垣島在住  東日本大震災後、今までのライフスタイルをかえりみ、自然と繋がる暮らしを求めて石垣島に移住して3年目。親子カルチャーサークルを立ち上げ、アフリカンダンスクラスを開催中。「酵素玄米とマクロビおかず にぎにぎカフェむすび」の屋号で、体と心に優しい、自然と体が繋がるご飯を祭りやケータリングで広めている。JAMHAハーバルセラピスト、マクロビオティック師範、シータヒーラー。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『HERB & LIFE』 VOL.2:2013年9月