2021.4.3

ハーブ療法の母・聖ヒルデガルトの自然学(8)喜びのレシピ

国際ヒルデガルド会 DanielaDumann 認定 ヒルデガルトヘルスケアアドバイザー

長谷川弘江

中世の修道院では、Ora et labora(祈り、働く)というベネディクトの戒律にそって自給自足の生活でした。連載第6回で食養生として断食をご紹介しましたが、修道士は毎日食事を摂り、一日1回でも、昼・夕食2回でも体調にあわせ、料理も2品、果実や野菜を1品さらにパンがつくと定められました。聖ヒルデガルトがよく書き残した「中庸」バランスという言葉もこの戒律にあります。「修道士は何よりも食べ過ぎることを避け、けっして消化不良に陥ることがあってはならない」と。

ですが10分の1税など豊かになった修道院の過食が批判されました。エーコ原作の映画『薔薇の名前』にそれを見ることができます。修道院にはぶどう園、穀物畑、菜園、魚の養殖池があり、蜜蜂を飼い、ハチミツをとり蜜蝋でろうそくを造ります。薬草園でハーブを摘み、香水(オーデコロン)も。「4711」というドイツ発祥の香水メーカーの本店がケルンにありますが、そのレシピは修道士が贈った一枚の羊皮紙から、と(www.4711.jp)。今回は聖ヒルデガルトの喜びのレシピをご紹介します。

『Liber Divinorum Operum 4.105』に生けるもの全て、動物、鳥、魚、薬草、果樹には、神秘的な治癒力が隠されていると書き残し、彼女は人は食べたものから成っていると考えました。彼女の食餌法は神からの啓示であり、「愛」が調理する料理に最高の味わいを与えると。旬の、そしてその地にたくさん実る果実や野菜を採るのが大切です。

食べないほうがよいとされる食物は、

  1. 台所で毒に変わったもの
  2. いちご、もも、プルーン、ポワロねぎ(湿で有害な熱をもつ)、
  3. 生もの、4ナス科(当時は毒のものが多かった)
  4. 豚(多産で悪魔の使い魔と考えられた)。

よいとされるものは、

  • 穀物はスペルト小麦、豆類、フェンネル、
  • 調理したセロリ、かぼちゃ、クレソン、ビーツ、
  • レタス(必ずドレッシング[ ヒルデガルトドレッシング/ 大さじ1のワインビネガーと大さじ3のひまわり油に甘味少々好みでスパイス(ガランガル・フェンネル・ヒソ ップなど)]をかける)、
  • 栗、調理した玉ねぎ、とうもろこし、ブロッコリー、
  • りんご(生は健康な人だけで、あとは焼いたり煮たりする)、さくらんぼ、マルメロ、すぐり、ブドウ、柑橘類、
  • メロン、少量のデーツ(なつめやし)、アーモンド。
  • 魚については生育する場所がきれいな水であるかが大事で、カワカマス、スズキ、ローチ(コイ科の淡水魚)、カワヒメマス。
  • 健康な人だけに鮭、ニシン、コイ、トラウト、関節リウマチや痛風にはクジラ。
  • 一年中よいのは鶏肉、春と夏には羊肉とヤギ、
  • 秋と冬は鹿などジビエ、ダチョウ肉(なぜ書かれたか諸説あり)。
  • 飲み物は、フェンネル茶、スペルトコーヒー、クエンチワイン(沸騰させたワインに半量の冷水を入れたもの)、オレンジやレモンジュース、アーモンドミルク。

聖ヒルデガルトのレシピ

ドイツではたくさんの聖ヒルデガルトのレシピ本が発行されていて、メニューのあるレストランやホテルが増えてきました。

【スペルト小麦(ディンケル Dinkel)】

Dinkel のおかゆ

学名 : Triticum spelta / イネ科。
有効成分 タンパク質、ビタミン、ミネラル、食物繊維など

穀物のなかでもっともよいスペルトは、温性で滋養に富み、活力を与え思考をもよい状態にし、人間の気質に喜びを与えてくれ、パンにしても他の食物に加えて食べても消化によい。病気で食事が思うようにとれないときにはスペルト小麦の全粒を水から加熱調理し、ラードか卵黄を加えたおかゆをすすめなさい。するとその調味によって病人の食がすすむでしょう。これを食べさせれば優れた軟膏のように働き、病人は内臓から健やかになります、とあります。

【アーモンドミルク】

  • ① 1カップのアーモンドを1晩浸水させて、ナッツに含まれる酵素抑制物質を除く
  • ② ざるにあげ1カップの水と塩少々を足してミキサーかブレンダーで混ぜ、濾し布で濾し、かすは炒ればアーモンドプードルになるのでクッキーなどに。古代から中世にかけては牛乳より飲まれていました。

【タイのクミン煮】

  • 自然学に「胃に病気がある人はタイを水煮にしてビネガーに漬けたものにクミンを加えたものを食べると胃の熱もひくだろう」とあります。

鶏肉のシチュー

【鶏肉のシチュー】Hühnerragout mit Mandeln.

鶏肉1羽を内臓を取り出して、4等分に塩・コショウ、ガランガル(ない場合は生姜)小さじ1/2バジル、タイム、ヒソップ少々、ひまわり油大さじ2、玉ねぎ1個、アーモンド(刻み)大さじ2、ガーリック1片、白ワイン1カップ、鶏肉のスープ1カップ。
① 鶏肉は塩とハーブをまぶす。
② サイコロ状に切った玉ねぎを油で炒め、鶏肉、にんにく、アーモンドを加えよく炒める。
③ 白ワインと鶏肉スープを加えて中火で20分間煮る。

【栗のハチミツ】

栗は、人間の内部にある病気のすべてに効果がある。肝臓に問題がある人は、実を粉にして、ハチミツに入れ、それを頻繁に摂るとよい。

いつものごはんに聖ヒルデガルトの知恵を取り入れてみてください。安寧を祈ります。

ビーツとりんごのサラダ
サラダと鶏
ガランガル 高良姜コウリョウキョウ(Galgant/ショウガ科)

参考文献

  • 『修道院の食卓』(修道院ライブラリー)ガブリエラ・ヘルペル著(創元社2010年)
  • 『聖女ヒルデガルトと喜びのレシピ』ロッセ著(フレグランスジャーナル社2011年)
  • 『Das Hildegard-von-Bingen-Kochbuch』Wighard Strehlow著(Heyne Taschenbuch 2008年)
国際ヒルデガルド会 DanielaDumann 認定 ヒルデガルトヘルスケアアドバイザー
長谷川弘江 はせがわひろえ
ヒルデガルトフォーラム・ジャパン副代表。英国ハーブ医学校通信課程修了。ハーブ医学とヒポクラテス、ディオスコリデス、プリニウス、パラケルスス研究の大槻真一郎氏、ドイツハイルプラクティカー連盟(BDH)副会長・民族医療協会"Gyu zhi"主宰ペーター・ゲルマン氏に師事。伝承と身近な植物のルネサンスをテーマに活動中。『ヒルデガルトの宝石論―神秘の宝石療法(ヒーリング錬金術)』大槻真一郎著(コスモスライブラリー)で解説を執筆する他、著書多数。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第55号 2021年3月