2021.4.3.

亜熱帯からの花便り(8)
南の島の蝶と花たち

石垣島サイエンスガーデン代表 ボタニカルアーティスト

橋爪雅彦

八重山諸島は花の島として知られていますが、内地とは異なった昆虫の多い地域としても知られています。特に蝶の仲間は160種以上が確認されており、採集マニアの来島も多く、台風の後などには近くの台湾やフィリピンから風に乗って飛来する蝶などが見受けられ、西表島などでは台風通過後に補虫網を持って空を見上げ、南方から舞い降りてくる蝶を待つマニアの姿なども見ることができます。今回はその蝶たちの食草と吸蜜植物を紹介しましょう。

●オオゴマダラ

オオゴマダラはタテハチョウの仲間で日本最大級の蝶です。

オオゴマダラと黄金の蛹

白地に黒い放射状の筋と斑点があり、風に乗ってふわりふわりと舞う様から「新聞蝶」ともいわれます。
食草はホウライカガミという蔓性の植物でアルカロイドを含んでおり、幼虫はその葉を食べることで体内に毒性をもち、黒地に赤の斑点をもつ幼虫は目立つことにより捕食者に警戒させます。
また黄金に輝くとても美しく目立つさなぎも同様に捕食者に対する警戒色ともいわれています。昨年沖縄県の蝶に指定されましたが、石垣市指定の蝶にもなっています。

●ツマベニチョウ

アゲハチョウ上科シロチョウ科の大形の蝶で、シロチョウ科の中では世界最大級の蝶です。

ツマベニチョウ

前羽の先端部が黒い縁取りのあるオレンジ色で、飛翔がとても素早く一か所に長時間止まることがなくて写真を撮るのが難しいといわれる蝶です。
食草はフクチョウボク科のギョボク。ハイビスカス(アカバナ)の花が蜜源とされ、ハイビスカスの防風林などに多く見られます。
最近この幼虫や羽から海洋生物で最も強い毒をもつイモガイ(アンボイナ)と同じ毒が発見されました。カエル、トカゲ、アリなど天敵から身を守るのに役立てているようです。

●コノハチョウ

タテハチョウ科の蝶で羽の裏側が枯葉に疑似しているためこの名前があります。羽を閉じて木にとまっていると枯葉と全く見分けはつかず、「擬態」の典型例としてよく引用されます。

コノハチョウとセイタカスズムシソウ

一度飛び始めると羽の表側のメタリックな藍色とオレンジ色の対照的な配色でよく目につきます。食草のセイタカスズムシソウはキツネノマゴ科のスズムシソウの仲間で主に山間部の河川に近いところで見られます。
他の蝶と異な花蜜を吸うことはあまりなく、樹液や腐敗した果実、獣糞などにやって来て汁を吸います。

●スジグロカバマダラ

タテハチョウ科マダラチョウ亜科の蝶です。

スジグロカバマダラ

オレンジ色の鮮やかな地色に翅脈が黒く太い筋で模様がある美しい蝶で、東南アジアから熱帯にかけて分布しており、その色・模様からテキスタイルや絵画、デザインなどに頻繁に使われています。
割合緩やかな飛翔と花に多く集まるため見かけることが多い蝶です。
食草は蔓性のリュウキュウガシワ。

●ツマムラサキマダラ

タテハチョウ科マダラチョウ亜科の蝶で、元々は国内に生息していませんでしたが、30年ほど前から迷蝶として八重山に住み着き数も増え、現在は年間を通してみることができます。

ツマムラサキマダラと銀色の蛹

茶色い地色の前羽の先端部分が青紫色のメタリックで、飛翔する時にはこの青紫色が輝いてとても美しい蝶です。
蛹はオオゴマダラと異なって銀色に輝いています。食草は観葉植物でも知られるベンジャミンやキョウチクトウ。

●リュウキュウアサギマダラ

タテハチョウ科で、 羽は茶色地をベースに薄青色のマダラ模様が 複雑に羽に入った美しい蝶です。

リュウキュウアサギマダラ

いかにも南国らしい色彩と模様で、浅葱色という薄い青緑色の羽が名前の由来になっています。
食草はキョウチクトウ科のツルモウリンカ、緑色のペンダントのような蛹が印象的です。

●イシガケチョウ

タテハチョウ科の蝶です。和名通りの石崖・石垣模様をもち、ひらひらと紙切れが舞うように飛びます。

イシガケチョウ


小さく集まった花を好んで吸蜜しますが、水を飲むために濡れた地面で集団給水もよく見かけます。
葉にとまる時はほとんど水平に翅を開くのが特徴です。幼虫時の食樹はクワ科のイヌビワ・イチジク・オオイタビなど。

●ベニモンアゲハ

アゲハチョウ科の蝶です。全体は黒地の羽ですが、後ろ羽に白地の紋と赤桃色の紋があり、体側が赤いのが特徴です。

ベニモンアゲハとアリマウマノスズクサ

本来熱帯地方の蝶でしたが50年ほど前から八重山で繁殖し始め、現在はいつでも見ることがで きます。
食草のアリマウマノスズクサは大変変わった形の花をつける蔓性植物の「ウマノスズクサ」の仲間。

このように八重山では内地と異なった多くの蝶が年間を通して見られます。蝶のほとんどは天敵から身を守るために毒性の強い植物を食べ、体内に毒素を蓄積し、幼虫の多くは保護色ではなくそれが目立つような派手な色合いをしています。また、多くの蛹は小さなアクセサリーのような趣をもっています。

ヒマワリヒヨドリ

羽化した後の蝶の多くは吸蜜によって生態を維持してゆきますが、冬場など季節によって花の少ない時期があり、そのような時には花が咲いている植物に集中的に蝶が集まります。代表的なものが12月から1月頃に咲くキク科のヒマワリヒヨドリ。私のガーデンの中にも、周囲を林に囲まれ風が当たらない場所にヒマワリヒヨドリの群生がありますが、この時期の晴天時には、この花の蜜を求めて数十種類の数えきれない蝶が乱舞します。

また、年間を通して多くの蝶が吸蜜に来る代表的な植物は、外来種の雑草で島全体に繁殖しているタチアワユキセンダングサ、七変化とも呼ばれ小さな多色の花を咲かせるランタナ、畑や庭の防風林にも使われているハイビスカス、道路肩の植栽に多く使われているサンタンカなどがあります。

石垣島サイエンスガーデン代表 ボタニカルアーティスト
橋爪雅彦 はしづめまさひこ
東京都立園芸高等学校卒業。学研の図鑑・東京大学出版会・誠文堂新光社(ガーデンライフ)・東京書籍生物教科書の図版及び科学論文などのイラスト担当。大阪花博東日本イベント総合プロデュース。国立博物館監修『原色日本のラン』執筆のため、東京より石垣島に移住。石垣市川平において「川平ファーム」としてパッションフルーツの加工を始める。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第48号 2019年6月