2021.4.2

植物たちが秘める“健康力”
抗酸化物質である、ビタミンCとビタミンE

甲南大学特別客員教授

田中修

前々号では、抗酸化物質の代表であるポリフェノール、前号では、老化を防止し、疲労を回復し、視力を保つことなどに有効に働くことが期待されるカロテノイドを紹介しました。今回は、抗酸化物質である、ビタミンCとビタミンEを取り上げます。

ビタミンC 発見のきっかけは、“壊血病”

ビタミンCは、「老化を抑制する」とか、「白内障のリスクを減少させる」などの効果が知られていますが、壊血病を防ぐ効果が発見のきっかけでした。この病気は、コロンブスやマゼランらが活躍した大航海時代に、多くの船員を悩ませました。歯茎や粘膜からの出血がひどくなって、ものを食べられなくなり、死に至ります。たとえば、15世紀に、南アフリカの喜望峰をまわる航路を切り開いたバスコ・ダ・ガマの航海では、「160人(一説に180人)ほどの乗組員のうち、約100人が壊血病で亡くなった」といわれます。

18世紀、イギリス海軍の軍医、ジェームス・リンドは、長い航海中の食事を調べ、新鮮な野菜や果物の不足に気づき、レモンやオレンジなどを乗組員に与えました。すると、症状の改善がみられたのです。そこで、長期間の航海には、レモンを持っていくことが提唱されました。「18世紀、イギリスの探検家クックは、乗組員に強制的にレモンを食べさせて、壊血病による死者を出さずに、太平洋での探検を成功させた」といわれています。

その後、壊血病の予防には、レモンなどに含まれるビタミンCが有効であることが明らかになりました。そのため、ビタミンCの化学名は、「防ぐ(アンチ)」と「壊血病の(スコルブティック)」を意味する語から成る「アスコルビン酸」です。

ビタミンCは、黄色か、赤色か ?

ビタミンCは、イチゴやレモン、カキなどに多く含まれます。これらと比較して、西インド諸島を原産地とする「アセロラ」という植物の赤色の果実は桁違いに多くのビタミンCを含みます。また、南米のアマゾン川上流を原産地とする「カムカム」という植物の赤色の果実は、アセロラの約1.5倍を含みます。ペルーで栽培され、日本では、果汁として販売されています。

「ビタミンCの女王様」といわれるレモンにちなんで、黄色がビタミンCの象徴です。しかし、ビタミンCは、水に溶けると無色で、粉末では白色ですから、黄色である必要はありません。レモンより、赤色のイチゴ、アセロラ、カムカムがビタミンCを多く含んでいるので、今後、ビタミンCを表すカラーは、赤色になるかもしれません。

ビタミンCの含量を表すのに、「レモン◯個分」といわれます。そのときのレモン一個のビタミン量は、約20ミリグラムとされます。ビタミンC入りの清涼飲料水などには、「一缶に、レモン50個分のビタミンCが入っている」などと書かれています。これを一本、一気に飲めば、レモン50個分ものビタミンCを摂取することになります。

このようなビタミンCの大量摂取の風潮を生み出したのは、アメリカのライナス・ポーリング博士でした。1900年代の後半に、「ビタミンCを大量に摂取すれば風邪が予防でき、もっと、摂取すれば風邪がなおる」と提唱しました。また、「ビタミンCの大量摂取は、ガンの予防にも有効」ともいわれました。にわかには信じがたい話でしたが、この人は、2回もノーベル賞を受賞した世界的な学者だったのです。そのような人がすすめたのですから、この説はマスコミにもてはやされ、大量摂取が世間に広まりました。

ビタミンCは代表的な抗酸化物質ですが、風邪やガンが予防できるのかどうかは、定かではありません。一日のビタミンCの所要量は100ミリグラムとされていますが、近年は、「その倍ぐらいは、摂取した方がよいだろう」といわれることがあります。

ビタミンE発見のきっかけは、ラットの不妊症

ビタミンEは、「神が生物界に与えた最高の抗酸化剤」といわれ、その抗酸化作用で老化を抑制するので、“若返りのビタミン”とよばれ、健康を維持し、血行を促し、疾病予防に働きます。身近では、歯周病の予防のために歯磨き粉などにも添加されています。

このビタミンは、不足するとラットが不妊症になることや妊娠しても流産することが、レタスを食べると回復することから見出され、その成分として発見されました。そのため、ビタミン Eの化学名は、ギリシャ語で「子どもを産む」を意味する「トコス」と「力を与える」の意味をもつ「フェロ」と「水酸基」を表す「オル」から、「トコフェロール」となっています。「E」は5番目に発見されたビタミンなので、アルファベットの5文字目です。

これは、アーモンドやピーナッツ、カボチャなどに多く含まれています。近年は、オリーブオイルに含まれる成分として、注目されています。それは、イタリア南部のアッチャローリという地域が、人口2000人のうち約300人が100歳以上という話題が報じられたことがきっかけです。この長寿の地域の伝統的な料理は、地中海食です。これには、オリーブオイルがふんだんに使われ、豊富に含まれるポリフェノール、オレイン酸とともに、ビタミンEが、老化や動脈硬化の予防に役立っていると考えられているのです。

甲南大学特別客員教授
田中修 たなかおさむ
京都大学農学部卒、同大学院博士課程修了(農学博士)。米国スミソニアン研究所博士研究員などを経て、現職。近著に、令和の四季の花々を楽しむ『日本の花を愛おしむ』(中央公論新社)、食材植物の話題を解説した『植物はおいしい』(ちくま新書)、草・木・花のしたたかな生存戦略を紹介した『植物はなぜ毒があるのか』(幻冬舎新書)など。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第55号 2021年3月