2021.3.16

ホソバヤマジソ(セキコウジュ)

昭和薬科大学 薬用植物園 薬用植物資源研究室 研究員

佐竹元吉

ホソバヤマジソ(写真提供:中野 美央氏 昭和薬科大学)

はじめに

1997年、岡山文理大学の古谷力らは、天然抗菌素材の開発研究で、抗菌作用が最も強かったのが、ホソバヤマジソであり活性本体は精油のチモールと報告された。ホソバヤマジソMosla chinensis Maxim. は、日本に分布するシソ科の植物で、環境庁のレッドデータブックでは、分布の東限である岡山県が準絶滅危惧種に記載されている。

チモールを含有する植物にヤマジソが報告されていた(1909年)。消毒剤のチモールの輸入が困難になった世界恐慌の頃(1929年)、ヤマジソの栽培が粕壁薬草園で開始され、ヤマジソ油の生産が行われた。

その後、チモールの生産は安価に合成されることになり、ヤマジソの栽培は消滅してしまった。7年程前、元人参組合の臼田氏が薬草園に来られ、ホソバヤマジソを特定農薬指定に申請した。コロナ騒ぎの本年3月に再来園され、手洗いの消毒に最適な液として同じ液のボトルを持って来られた。その液体は、ホソバヤマジソを乾燥し、カットをして、水蒸気蒸留の後、精油を分流する。チモールの濃度を調整し乳化剤を加え、チモールの濃度が5.6〜6.5%になるように調整したものであった。

形態と分布

一年草。茎は高さ10〜30cmで、鈍い4稜で、分岐し、下向きする細毛あり、帯紫色。葉は広線形から披針形で、やや鈍頭、少数の不明低鋸歯あり、基部鋭尖形にして長さ5〜10mmの柄となり、両面に微細毛あり、長さ1.5〜3cm、幅2〜6mm。花序は長さ1〜3cmで密に花をつける。苞は広卵形又は卵形、長さ5〜7mm、凸頭、ガクに圧着し、これより少し短いか同長にして、小梗よりも著しく長い。花は長さ約4mm。ガクは長さ花時3mm、果時7〜8mmで短毛あり。分果は円形でわずかに扁平、不明の凹点あり、径約1.5mm。分布は本州、九州、中国である。

富士山麓のヤマジソ(写真提供:磯田 進氏 元昭和大学 薬学部)

成分

ホソバヤマジソの抗菌性研究では、天然抗菌素材の約200種の民間薬用植物を採集し、抗菌スクリーニングし、ホソバヤマジソに最も強い抗菌力が認められた。GLC分析で、精油の成分は33種で、主成分はチモール58.5%、カルバコロール22.2%、p-シメン55.6%、γ – テルピネン3.5%であった。シソ科ハーブの中で抗菌効果の顕著なタチジャコウソウ(タイム)、ハナハッカ(オレガノ)の成分はチモールカルバクロールが含まれる。ホソバヤマジソは全菌株に対して、タチジャコウソウ(タイム)よりも強い活性が認められた。

用途

中国では石香薷、青香薷と呼び、全草を薬に用いた。熱中症、風邪、悪寒、胃痛、嘔吐、急性胃腸炎、赤痢、打撲傷、下肢リチウム等に利用された。また、蛇に咬まれた時などにも用いられた。

食薬区分の名称

医薬品的効能効果を標ぼうしない限り医薬品と判断しない成分本質(原材料)リストにセキコウジュ(石香薷)は記載されている。セキコウジュはホソバヤマジソの漢名で、中国でも古くから生薬として使われていた。利用部位は全草と記載されている。

おわりに(チモールを含むタイム)

タチジャコウソウ(写真提供:高野 昭人氏 昭和薬科大学)

タイムはタチジャコウソウで、国内に野生するタイム類はイブキジャコウソウがある。

日本の野生タイムはイブキジャコウソウ Thymus. quinquecostatusである。特異な芳香があり簡単に見つけられる。植物は低灌木で、枝は地上を這い、上端は斜上する。葉は狭卵形〜卵形〜広卵形、長さ5〜10mm、幅3〜8mm。両面に腺点ある。花は枝頂に短い穂をつけ、花冠は唇形で、紅紫色、長さ7〜8mm、径約5mmである。分布は、北海道、本州、九州、朝鮮半島、中国北部、モンゴルである。

初めてイブキジャコウソウを見つけたのは、北アルプスの八方尾根で、その後、下北半島の尻屋の海岸、礼文島の桃岩の下の海岸、北海道の問寒別(蛇紋岩地)、南アルプスの北岳の稜線で、最後は伊吹山(石灰岩地)の草原であった。

伊吹山のイブキジャコウソウ(写真提供:酒井 英二氏 岐阜薬科大学)
昭和薬科大学 薬用植物園 薬用植物資源研究室 研究員
佐竹元吉 さたけもとよし
当協会顧問。沖縄美ら島財団研究顧問。1964年東京薬科大学卒業。国立医薬品食品衛生研究所生薬部部長、お茶の水女子大学生活環境研究センター教授、富山大学和漢医薬学総合研究所・お茶の水女子大学客員教授を歴任。著書『第17改正 日本薬局方生薬等の解説書』(共著・廣川書店)他。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第54号 2020年12月