2021.8.5.

カシワとサルトリイバラ

お茶の水女子大学 生活環境教育研究センター 研究協力員

佐竹元吉

1.柏餅

サルトリイバラは日本各地でみられる植物であるが、柏餅の柏の葉の代わりに使われている。関東以北ではカシワが使われるが、関西以西ではサルトリイバラの葉が使われ、奄美大島から沖縄ではゲットウ(月桃)の葉が使われている。これら3種類の共通点は葉の上面が平滑であることである。

庭先のカシワの葉は柏餅に使ったこたはないが、葉は落葉せず古葉が残っている。カシワの葉は、新芽が出ないと古い葉が落ちないという特徴があるので、これを「子どもが子どもが産まれるまで親は死なない」、「家系が途絶えない」などの縁起に結びつけ、「子孫繁栄」の意味をもつ葉といわれている。

九州生まれの母親がサルトリイバラの葉で柏餅を作ってくれた。この葉をダンゴッパと呼んでいたことを思い出す。また、奄美大島生まれの同僚がゲットウの葉で包んだ餅があると言っていた。端午の節句で供えるちまきと柏餅は似ているが、粽は中国の伝統的食べ物であり、柏餅は江戸時代に作られた菓子である。新潟の笹団子も柏餅と同じ仲間かもしれない。東京の桜餅は江戸の末期に長命寺で作られたものであり、道明寺餅は大阪の道明寺粉で作った京都の桜餅とツバキの葉で餅を挟んだ椿餅がある。最近では椿餅が道明寺餅として売られている。餅を包んでいる葉には、サルトリイバラ、カシワ、ゲットウ、チマキザサ、ツバキがある。

ゲットウ

2.カシワ

庭先に植えられていたので、どこにでもある植物と思っていたが、野生のカシワはなかなか見られない。北海道の薬草園を訪ね、北から南へと旅したことがあった。北海道の植物の宝庫であるアポイ岳に登り、翌日、襟裳岬に行ったときに、強風に耐えて純林をつくっている場所を見学した。襟裳岬は開拓初期にはカシワの美林であったそうだが、薪木として伐採され、荒廃地になってしまった。昭和33年にクロマツとカシワの植林が行われ、現在のカシワの美林が復元したそうだ。カシワの林に出合ったのは、岩手県下閉伊郡の岩泉の龍泉洞から安家洞に抜ける道の両側にあるカシワの栽培地であった。この林のカシワの葉が関東に送られていた。

カシワの枝は樸樕ボクゾクと称し、収斂作用があり、瘀血おけつ、解毒、抗炎症、皮膚病の収斂によいとされて、十味敗毒湯や治打撲一方など配合されている

3.サルトリイバラ

1.形態

サルトリイバラは猿を捕まえる罠を作ったとげのある蔓といわれて名づけられている。ユリ科に分類されていた植物であるが、最近では、サルトリイバラ科とされている。葉が網状脈でユリ科の平行脈と異なる。よく似ている網状脈のヤマノイモ科とともに単子葉植物の中では特異の葉脈である。サルトリイバラの特徴には蔓がほかのものに巻きつく髭があることである。この髭は葉の基部にある托葉の変形である。ヤマノイモ科は茎が巻きつくだけである。

植物は草丈70〜350㎝ほどで、這うように伸び、茎は硬く緑色で、棘が所々に生える。葉は互生し、円形または広楕円形で先端が尖り、基部は円く、硬く表面には光沢があり、3〜5本の葉脈がある。雌雄異株で、4〜5月になると葉腋より散形花序を伸ばし、多数の花をつける。花は淡黄色で、6枚の花被片は先端が反り返る。雄花には雄蘂おしべが6本、雌花には子房が3室・柱頭が3本ある。果実は直径7㎜程度の球形の液果で、秋に熟すと赤くなる。
東アジア(中国、朝鮮半島、日本)に分布する。日本では北海道から九州までの山野や丘陵の林縁などに自生し、日当たりや水はけのよい場所を好む。

2.薬用とされるサルトリイバラ類

サルトリイバラは学名Smilax chinaで、根茎は薬用で、生薬名は「菝葜バッケツ」である。
中国では近縁種のケナシサンキライSmilax glabraが自生している。この根茎がドブクリョウ(土茯苓:左段下の写真)である。この生薬を日本薬局方ではサンキライ(山帰来)と記載している。薬効は吹出物、肌荒れなどに効果がある。身近なところでは便秘薬で有名な毒掃丸に便秘に伴う吹出物、肌荒れなどの改善目的で配合されている。成分はステロイドサポニン、フェニルプロパノイド、クロモン類などである。配合処方は香川解毒散かがわげどくさん、活血解毒湯、疥癬浴かいせんよく薬方など。

ヨーロッパでは、16世紀に新大陸から持ち込まれた淋病や梅毒が広く浸透してきた。この治療薬として、新大陸の熱帯アメリカ原産のサルサパリラSarsaparillaが用いられてきた。これはSmilax regelii Killip&Mortonの根茎で、現地では古くからリューマチや痛風、かぜ、解熱剤として使用されていた。

アメリカでは、最初の炭酸飲料のドクターペッパーが1885年に発売され、その中には解毒や利尿作用のあるサルサパリラなどの23種類の植物が入っている。

日本では、サルサパリラに類似したサンキライ末が解毒薬として市販製剤に配合されている。1897年に毒掃丸ができ、梅毒の治療薬とされたが、合成薬のサルバルサンの誕生で梅毒薬の役割はなくなり、1945年代には、便秘・たい毒・腰痛・関節痛などといった効能・効果で、現在では利用されている。

お茶の水女子大学 生活環境教育研究センター 研究協力員
佐竹元吉 さたけもとよし
1964年東京薬科大学卒。国立医薬品食品衛生研究所生薬部部長、お茶の水女子大学生活環境研究センター教授、富山大学和漢医薬総合研究所・お茶の水女子大学客員教授を歴任。著書『第16改正日本薬局方生薬等の解説書』(共著・廣川書店)、『薬草の科学』(日刊工業新聞社)ほか。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第31号:2015年3月