2021.7.29.

日本人が発見した“ハジカミ”の魅力
サンショウとショウガ

スパイスコーディネーター協会理事長

武政三男

日本人が親しむスパイスに山椒と生姜があります。両方とも「ハジカミ」と呼ばれたりします。

山椒の原産地は、中国、北朝鮮、韓国、日本などですが、それぞれ品種が異なります。日本原産の品種も、突然変異で「朝倉山椒」が誕生し、現在ではこの品種が日本各地で栽培されています。

日本種は古くから「はじかみ」として親しまれていました。ハジは「はぜる」の意味で、カラミはニラの古名で、はぜたときがニラのように辛かったからです。

ショウガは、中国から日本へと伝わりました。中国の三国時代に呉から日本へ伝わったのです。日本では呉をクレと呼んでいたため、日本のハジカミのように辛いとして“クレのハジカミ”と呼ばれるようになったのです。昭和期の日本人の化学者野村博氏が、生姜を加熱して乾燥したものは、生のときの約2倍の辛さになることを発見しました。その辛味の成分名は、第一発見者がつけられますので、日本名のショウガ名をつけて「ショウガオール」としたのです。

今回は、日本、中国で親しみのあるサンショウとショウガを、各論として説明します。

サンショウ

概要

サンショウは、日本では古くから利用されていた。アサクラサンショウは、兵庫県の元但馬国朝倉の今滝寺に生じたもので、接木により全国に拡まった。

雍州府志ようしゅうふし』(1684年、黒川道祐)に朝倉山椒の名が記載されている。

香味特徴

独特の芳香と辛味に特徴があり、この芳香の主成分は、葉や果皮に含まれている。また辛味成分も黒色の種子には含まれておらず、果皮部にしか含まれていない。サンショウ中の辛味成分は比較的変化しやすく、果皮を粉末にして放置すると容易に芳香と辛味を失ってしまう。長期間貯蔵する場合は原形のままで行い、使用に際して粉末にするのがよい方法である。サンショウの果実を調理科学の立場でみると、「サンショウの果実は小粒で辛い」というのは、嘘となる。なぜならば、サンショウの生命というべき芳香成分と辛味成分は、果皮の部分に含まれていて、果実の実(黒い種子)の部分には、まったく含まれていないからである。サンショウの若葉の芳香を、料理に付与するときに、一度、叩いてから料理に添えると、芳香感を強く味わえる。中国料理に使用する山椒は、日本のものとは種類が異なり、芳香感よりも、強い辛味感を重視する。そのため山椒の葉を料理に使用することはない。中国では、果実が赤くはぜたとき(赤く花が咲いているように見える)に収穫するため、「花椒」と呼んでいる。

[名称]Japanese pepper、Chinese pepper(英)、花椒・蔓椒・泰椒・蜀椒(中)、山椒(日)
[科名]ミカン科の落葉灌木
[学名]Xanthoxylum piperitum DC.(Zanthoxylum piperitum DC.)
[原産地]日本、中国、北朝鮮、韓国
[主産地]インド、アフリカ、中国、韓国、台湾、日本、ジャマイカ、ベトナム、西インド諸島
[学名の語源] Zanthoxylum→正しくはXanthoxylum、Xanthoxylum→ギリシア語のXanthos(黄)+xylon(材)で材が黄色を示す。piperitum→「ペパーのような辛味がある」ことを意味している。

料理適性

サンショウは全体に爽やかな芳香があるので、昔から日本料理の薬味として広く用いられている。特に若葉(若芽)は香りがよいため「木の芽」と称し、吸物、田楽、木の芽あえなどに香りづけとして用いる。果実の香味は魚類の臭み消しに適するため、鮎鮨やウナギのカバ焼などには最適である。未熟な青い実は佃煮や味噌あえ(サンショウ味噌)にしてもよく、味噌、醤油の風味にも適合する。中国料理に使用する「花椒塩」は、サンショウの粉末に岩塩の炒ったものを混ぜて作る。山椒の香りを油に移した「花椒油」や、ネギ、ジンジャーなどと混ぜ合わせた「椒麻」なども中国の混合調味料としてよく使われる。

特殊(薬理)効果

サンショウは、医薬品として漢方、西洋医学、民間薬などの分野で広く用いられている。芳香性健胃、消炎、利尿、局所興奮、駆虫薬として胃腸を刺激して新陳代謝機能を亢進させ、胃下垂症、胃拡張症などに応用する。屠蘇散は中国の魏の名医、華陀の処方と伝えられ、サンショウのほかに肉桂、防風などが配合されている。

エピソード

サンショウの古名は、ハジカミであるが、これには2つの説がある。1つはサンショウの果実がはじけるところからハジケミといわれ、それがハジカミと転訛てんかしたというものである。ほかの説は、ハジカミはハジカラミの略であるとするものである。

ショウガ

概要

日本名の生姜は古名でクレノハジカミといわれるが、山椒(ハジカミ)と同じように辛味があり、中国の呉産の山椒を意味して名づけられた。

香味特徴

甘い清々しい芳香と、爽やかな辛味感に特徴があるが、ジンジャー特有の辛味成分は不揮発性である。生のジンジャーには、辛味成分が含まれているが、加熱、乾燥(脱水)することによって、この辛味成分が、はじめの2倍もの辛い成分に変化する。よって生のショウガよりも加熱、乾燥することによって、ショウガの辛味感が強くなる。水蒸気蒸留で得られた精油には、特有の辛味感がさほどない。新鮮な生姜をおろすと柑橘系の爽やかな芳香があり、生魚の生臭みを消す。

[名称] Ginger(英)、薑・姜・姜仔・乾姜(中)、生薑・クレノハジカミ(日本名)
[科名]ショウガ科の 多年生草本
[学名]Zingiber offcinale Rosc.
[原産地]熱帯アジア、インド
[主産地]インド、アフリカ、中国、韓国、台湾、日本、ジャマイカ、ベトナム、西インド諸島、メキシコ
[学名の語源] Zingiber→サンスクリット語のSringavera (角形の)に由来する語で、根茎の形を意味している。offcinale<officinalis>→薬用の、薬効のある。

料理適性

日本ではジンジャーの収穫時期を調整してそれぞれの段階の香味を料理に生かしている。夏に茎葉をつけたままのショウガを早取りしたものを、一般に「葉ショウガ」または「新根ショウガ」と称し、新鮮な香味を味わっている(関西では青矢・青芽と称している)。また、初秋の頃に収穫したものを「秋ショウガ」と称し、味噌漬、酒粕漬などや梅酢に漬けて彩りに利用している。日本料理に多く用いられるのはこの「秋ショウガ」で、おろして刺身、煮物、焼物、冷や奴の薬味や臭気消しに最適である。ヨーロッパでは、ジンジャーを甘味の料理に多く用いる傾向が強い。パン、ビスケット、ケーキ、チョコレートなどによく使われている。生のジンジャーには消化酵素であるジアスターゼや肉の組織を柔らかくする酵素が含有されているため、消化吸収を高める効果も期待できる。しかし、酵素の働きは生のほうがよく、乾燥したものでは期待できない。ジンジャーの芳香は、肉類、特に豚肉や魚介類の生臭みをとるマスキング効果が高い。

特殊(薬理)効果

ジンジャーは、芳香性健胃薬または矯味薬として、和漢薬に広く使用されている。

エピソード

ジンジャーは、古代の中国人やヒンズー教徒によって栽培されていたもので、中国人の哲学者、孔子(B.C.479年)は「論語」の中でジンジャーについて述べている。

スパイスコーディネーター協会理事長
武政三男 たけまさ・ みつお
当協会顧問。(株)スパイススタジオ代表取締役社長。スパイスコーディネーター協会認定スパイスコーディネーターマスター。東京理科大学理学部卒業後、ライオン(株)にてスパイス調理科学の体系化、理論化に力を注ぐ。著書は『SPICESCIENCEandTECHNOLOGY』(アメリカで刊行)『、スパイス百科事典』(文園社)、『スパイス調味事典(』幸書房)『、スパイスの科学(』河出文庫)ほか多数。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第42号 2017年12月