【自然療法シリーズ】強心薬─センソ、六神丸、救心─" /> 【自然療法シリーズ】強心薬─センソ、六神丸、救心─ – 日本メディカルハーブ協会
2021.6.30

【自然療法シリーズ】強心薬─センソ、六神丸、救心─

京都薬科大学名誉教授

吉川雅之

はじめに

強心薬とは、心臓の衰弱や機能不全などの種々の原因で心臓の機能が低下している場合に、心筋に直接作用して収縮力を高める薬物を指します。広義には末梢血管や中枢神経系への作用を介して間接的に心機能を高める薬物も含まれます。心筋に直接作用する西洋生薬や医薬品としてはジギタリス(主成分のジギトキシン)、ケジギタリス(主成分のラナトシドC、デスラノシド、ジゴキシン)やストロファンツス(主成分のG-ストロファンチン)などが知られています。一方、中国伝統医学や漢方では、センソ(蟾酥)という強心生薬が用いられてきました。センソに関連した生薬は、中国最古の薬物書である『神農本草経』の下品に“蝦蟇”がまという名前で収載され、腫れもの(ちょうよう)に効くと伝承されています。当時はヒキガエルをそのまま陰干しにして用いたと伝えられます。今日、薬用にされているセンソは、シナヒキガエルやヘリグロヒキガエルの耳腺(耳下腺、皮脂腺)の分泌物を集めたもので、活性成分としてシノブファギンやブファリンなどの強心ステロイドが含有されています。それらの薬効として、強心作用、局所麻酔作用、抗炎症作用、血液凝固抑制作用などが明らかになっています。また、副腎髄質ホルモンのエピネフリンや塩基性物質のブフォテニンなども含まれており、末梢血管収縮作用や幻覚作用などを示すことが知られています。本稿では、ガマやセンソに関係した家庭薬について紹介します。

ガマの油(陣中膏)

寺社の初詣や祭礼、縁日などで江戸時代から香具師やしが露店で陣中膏じんちゅうこう(通称をガマの油)を販売しておりました(今日では薬事法で禁止されています)。ガマの油売りの口上、販売の光景は古典落語の「蝦蟇の油」や「高田の馬場」などの噺や、十返舎一九の戯作げさく(喜多川式麿画、1809年)で紹介されており伝統芸能になっております。ガマの油の由来は、大坂の陣で戦傷者を治療した筑波山の中禅寺の住職(光誉上人)が作った軟膏が非常によく効き、評判になりましたが、その住職のご面相がガマに似ていたからとの説などがあり、原料にガマを使ったからではありませんでした。しかし、香具師の口上で伝えられている製法では、ガマが分泌する油(脂汗)に松脂まつやにや豚脂などを加えて作っています。一般に伝わる真面目な製法(?)としては、ゴマ油(1升)にムカデ(10匹)、さらしたガマ(10匹)を入れて順次ゆっくりと煮詰めた後に、ろ過したものを和蝋で固める方法が知られています。その効能は、ひび、あかぎれ、しもやけ、腫れもの、各種の痔、脱肛などの治療によいと称していました。

六神丸と救心

六神丸という処方名の由来には2説あります。ひとつは、四方(四方角ほうがく)の守護神(四神)、青龍(東)、白虎(西)、朱雀すざく(南)、玄武げんぶ(北)に陰陽道の十二天将の勾陳こうちん(京の中心の守護を担う土神)と騰蛇とうだ(炎に包まれた羽のある蛇の姿の火神)を加えて六神と呼びますが、これらの神にあやかった丸剤ということで名づけられたという説です。また、内臓を指す言葉に五臓六腑がありますが、五臓(肝、心、脾、肺、腎)に心包しんほうを加えて六臓六腑とも呼ばれます。これらの六臓に効果がある薬(または薬効を司る神)に由来する説もあります。昔から、中国にはいろいろな六神丸が知られていますが、雷氏方六神丸が日本の六神丸のルーツといわれています。その原典は不明ですが、処方は犀黄さいおう牛黄ごおう、21.4%)、腰黄ようおう鶏冠石けいかんせき、14.3)、珠粉(真珠粉、21.4)、元寸香(麝香、14.3)、氷片(竜脳、14.3)、蟾酥(14.3)から構成されています(腰黄を辰砂しんしゃや硫黄と記載する文献もあります)。その効能は肺病、腫れもの、赤痢の治療になっており、主薬効が強心作用である日本の六神丸とはかなり異なっております。

日本の六神丸の中では、(株)亀田利三郎薬舗の亀田六神丸が最も古くから知られています。(株)亀田薬舗で六神丸を日本に導入したのは1893年頃で、当初は中国から輸入して販売しておりました。しかし、中国の六神丸には、鶏冠石(硫化ヒ素)や辰砂(硫化水銀)などが配剤されていました。1900年の薬制改革により鶏冠石が毒物に指定され輸入禁止になりましたので、鶏冠石を除いて熊胆ゆうたんを加えるなどした処方を考案して赤井筒薬亀田六神丸という名前で国産化しました。明治、大正時代の日本での六神丸の効能は、肺病、胃病、心臓病、痢病(下痢)、疔瘡ちょうそう(できもの)、脚気、驚風きょうふう(小児のひきつけ)などに用いるとのことで、まさに万能薬でした。1973年には水銀化合物の辰砂が使用禁止となり人参に変えて現在の処方になっています。
亀田六神丸((株)亀田利三郎薬舗)の効能は心臓の働きを強くして、血液の循環を改善する効果があり、めまい、息切れ、気つけ、腹痛、胃腸カタル、食あたりに用いられます。処方(6粒中の生薬と配合量mg)は、ジャコウ(4.0mg)、ゴオウ(3.5)、ユウタン(3.5)、センソ(1.3)、ニンジン(4.0)、シンジュ(4.0)、リュウノウ(0.8)で構成されています。

六神丸は知名度が高く配置薬を含めますと六神丸を製造している企業は、今日でも100社を超えるといわれます。明治中期にも数種の六神丸が製造されており、そのひとつにホリ六神丸(今日の虔脩けんしゅうホリ六神丸)がありました。当時、六神丸には上述のように万能薬的効能が喧伝けんでんされていましたが、心臓によく効くという消費者の声から処方や剤型に工夫を加え、救心という名前で六神丸とは別に売り出しました。その結果、救心は100年の長きにわたって販売されてきた長寿薬になっています。

救心(救心製薬(株))は、どうき、息切れ、気つけに用いられます。構成生薬(6粒中のmg)は、センソ(5mg)、ゴオウ(3)、ジャコウ(1)、ニンジン(25)、レイヨウカク末(6)、シンジュ(7.5)、リュウノウ(2.7)、ドウブツタン(8)です。

このほかにセンソを主剤した処方には江戸両国広小路の有名な四つ目屋の長命丸があり、局所麻酔効果による歯痛薬や男性用媚薬として利用されていました。

六神丸、救心の構成生薬 ─主剤はセンソ─

・シンジュ(真珠)

珍珠ともいい、アコヤガイ(海水産)、ヒレイケチョウガイ(淡水産)などの外套膜組織中に形成。鎮 静、抗不安、美肌、目疾患や骨粗しょう症の改善。

・レイヨウカク(羚羊角)

サイガカモシカやガゼラカモシカ の角。めまい、痙攣、てんかん、不安、頭痛の改善。

・リョウノウ(竜脳)

フタバガキ科リュウノウコウの樹脂。てんかん、頭痛、口内炎、咽頭痛、眼病の治療。その他の生薬は本誌の前号(家庭薬1、2、3、4)に収載。

おわりに

最近、ヤマカガシという毒蛇に子どもが咬まれた事件がありました。ヤマカガシの毒はハブの約10倍、マムシの約3倍の強さをもっていますが、小型で性格が穏やかなことと、毒牙が上顎の奥にあり、よほど深く咬まれない限り毒が入りにくいとのことです。ところで、アオダイショウなどのヘビはガマを食べないのですが、ヤマカガシはガマを食べてその毒を体内に取り込み、首の特殊な器官に蓄えて鳥などから身を守るのに利用していることが明らかにされています。ガマの毒を利用しているのは人間だけでないことに驚かされます。

京都薬科大学名誉教授
吉川雅之 よしかわ・まさゆき
当協会顧問。1976年大阪大学大学院薬学研究科修了(薬学博士)後、同大学助教授、ハーバード大学化学科博士研究員、京都薬科大学教授を経て、現在同大学名誉教授。日本薬学会奨励賞、同学術貢献賞、日本生薬学会学会賞など受賞。日本生薬学会会長、日本薬学会生薬天然物部会長などを歴任。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第42号 2017年12月