シリマリンの非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)に対する有効性:システマティックレビューおよびメタ解析

非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は、アルコール摂取が少ないにもかかわらず肝細胞に脂肪が蓄積する疾患であり、世界人口の約25%、日本の健診受診者でも約30%に見られる。世界的に有病率が増加しているが、実態は十分に把握されておらず、日本では中年男性や閉経後女性、小児にも発症が増加している。1)
NAFLDはメタボリックシンドロームの肝臓における表現型とされ、肥満、糖尿病、脂質異常症、インスリン抵抗性などの代謝異常と密接に関連し、肝細胞内の脂肪蓄積を契機に、炎症、ミトコンドリア機能障害、酸化ストレスの亢進、線維化といった病態進行をたどり、進行すると非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)や肝硬変、肝がんに至ることがある。
現在、NAFLDやNASHに対して承認された薬物療法は存在せず、治療の中心は食事や運動などの生活習慣改善である。このような背景のもと、古代ギリシャ・ローマ時代から肝臓や胆嚢の不調に用いられてきたミルクシスル(Silybum marianum)に含まれるシリマリンが、近年NAFLDに対する植物療法として注目されている。
シリマリンは、シリビンA・Bやタキシフォリンなどを含むフラボノイド化合物の混合体であり、抗酸化、抗炎症、肝細胞再生促進、抗線維化など多彩な作用を有する。NF-κBシグナル経路の抑制を介して炎症性サイトカインの産生を抑えるほか、ビタミンAを貯蔵し肝線維化に関与する肝星細胞の活性化を抑制し、アディポネクチンの発現を増加、レジスチンの発現を抑制することで、NAFLDの病態進行を抑制する可能性が示唆されている。
これまでシリマリンの肝保護作用に関する個別研究は多く報告されてきたが、それらの知見を統合的に評価したシステマティックレビューおよびメタ解析を紹介する。2) 本システマティックレビューおよびメタ解析では、NAFLD患者合計2,375名を対象とした26件のランダム化比較試験(RCT)を対象に、脂質代謝、インスリン抵抗性、肝酵素、肝組織所見などを主要項目として系統的に分析した。
メタ解析の結果、シリマリン投与群では以下の有意な改善が認められた。
脂質代謝への影響
- 総コレステロール(TC):SMD = -0.85(95%CI -1.23~-0.47)
- 中性脂肪(TG):SMD = -0.62(95%CI -1.14~-0.10)
- LDLコレステロール:SMD = -0.81(95%CI -1.31~-0.31)
- HDLコレステロール:SMD = 0.46(95%CI 0.03~0.89)
インスリン抵抗性の指標
- 空腹時インスリン(FI):SMD = -0.59(95%CI -0.91~-0.28)
- HOMA-IR:SMD = -0.37(95%CI -0.77~0.04)
肝酵素(肝機能)への影響
- ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ):SMD = -12.39(95%CI -19.69~-5.08)
- AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ):SMD = -10.97(95%CI -15.51~-6.43)
肝組織への影響
- Fatty Liver Index:SMD = -6.64(95%CI -10.59~-2.69)
- Fatty Liver Score:SMD = -0.51(95%CI -0.69~-0.33)
- 肝生検による脂肪沈着改善:OR = 3.25(95%CI 1.80~5.87)
以上の結果から、シリマリンはNAFLDに対し、脂質代謝、インスリン抵抗性、肝酵素、肝細胞障害の軽減といった複数の側面で有益な効果を示すことが明らかとなった。
著者らは、シリマリンがエネルギー代謝の調整、肝障害の軽減、肝組織の改善に寄与する有望な植物療法であると結論付けている。ただし、今後はより大規模で高品質なRCTによる検証が求められる。
NAFLDの予防と治療には、今なお食事と運動を基本とした生活習慣の見直しが最も重要である。高カロリーな食事や糖質、飽和脂肪酸、肉類の過剰摂取を控え、魚や食物繊維を意識的に取り入れることが推奨される。こうした生活改善に加え、安全性の高いメディカルハーブを日常に取り入れることで、自然なかたちで肝機能の維持と健康増進を目指したい。
[文献]
1) 宮城 琢也, 竹原 徹郎. 非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の病態と治療の現状. 日本内科学会雑誌. 2025;105(1):9–14.
2) Li S, Duan F, Li S, Lu B. Administration of silymarin in NAFLD/NASH: A systematic review and meta-analysis. Ann Hepatol. 2024 Mar-Apr;29(2):101174. doi: 10.1016/j.aohep.2023.101174. Epub 2023 Oct 29.





