2025.10.9

エコロジカルガーデニングデザイン

当協会理事

木村 正典

HERB & LIFE
ハーブのある暮らしを楽しむ<夏>

Ecological gardening design
エコロジカルガーデニングデザイン

梅雨時は挿し木に最適なシーズン。育てるよろこびには殖やすよろこびもあります。
今回は、エコロジカルハーバリズムに基づいて、はじめて挿し木をする方を対象に、挿し木の基本や失敗しないコツを紹介します。

第17回
はじめての挿し木

question

挿し木の適期はいつですか?

水を張ったコップに挿して根を出させてから植え付けたほうがよいですか?  

挿し木に向く植物と向かない植物はありますか?

挿し木に失敗しないコツはありますか? 

 地球環境に負荷をかけないエコロジカルハーバリズムでは生態系を大切にして化学物質を使わず、無理なく無駄なく育てます。今回は挿し木で殖やすコツをご紹介します。

挿し木とは

 植物を殖やす繁殖には、交雑によって親とは違う遺伝子となる種子繁殖と、クローンによって親と同じ遺伝子をもつ栄養繁殖とがあります。挿し木は、充実した茎を土に挿して発根させる栄養繁殖方法です。茎から根と葉が出ますので、挿し木をはじめとする栄養繁殖は、基本的に茎を用いて殖やします。

挿し木の前に学ぶ植物学

 挿し木に必要な植物学として、植物形態学と植物生理生態学があります。

〇植物形態学 〜植物3つの器官(根、茎、葉)

植物は根と茎、葉の3つの器官から成り立っています。花や果実、種子は葉が変化したものです。挿し木をはじめとする栄養繁殖には、例外を除いて茎を用います。例外としては、セダムなどの観葉植物では葉を、ホースラディッシュでは根を用いるなどがあります。挿し木の前にまずは、植物のどこが茎なのかを確認しましょう。

①根

1.定根(発芽して出る根)

・根、茎、葉の切り口から出る不定根(カルスが形成され、カルスから根が分化)
・茎の節から出る不定根(挿し木で利用)
・地上茎の下端(地際)から出る不定根[トマトなど]

②茎

 栄養繁殖器官。挿し木で挿すのは茎。茎のないロゼット状態の植物は挿し木できない。

1.地上茎

1.1.草本茎(茎、蔓、匍匐茎)

1.1.2.ロゼット植物の茎[アブラナ科、セリ科、キク科など]

1.1.2.1. ロゼット状態:短縮茎

1.1.2.2. 抽苔状態:花茎抽台茎、伸長茎

2. 地下茎(根茎・イモ類の繁殖に用いる部位)

2.1. 肥大しない地下茎[ミョウガ、ミントなど]

2.2. 根茎[ショウガ、ワサビなど]

2.3. 球茎[クワイ、サフランなど]

3.4. 塊茎[ジャガイモ、サトイモなど]

③葉

1.葉身

2.葉柄(葉鞘)[ルバーブ、セリ科、アブラナ科、ショウガ科では茎の様に見えるので注意]

ロゼット状態のルバーブ。利用部位の赤い葉柄は茎と間違えやすい。茎ではないので挿し木できない。葉柄には節がないことで茎と区別できる。

節からの発根と萌芽

 挿し木で最も大切なのが不定根の発根。最も不定根の出やすい場所は葉のつけ根に当たるです。節は葉以外にも、茎(側枝)や巻きひげ、トゲ、花、果実、不定根など、いろいろな器官を出す能力の高い部位です。

 節を湿らせることで発根しますので、最低1節は土に入れます。また、地上部の乾いた節からは萌芽して側枝が伸長してきますので、最低1節は地上に出るように挿し穂を調整します。

水挿しと根毛

 挿し穂をコップなどに水挿しすると水中で発根してきます。水中で出た根は根毛が出づらく、つるつるした根になりがちです。根毛がないと土の中では吸水できないため、水挿しで出たつるつるした根は、土に埋めても吸水できずに枯死し、その後に新たに出た根で吸水することになります。従って、水挿しせずに最初から土に挿したほうが結果的に早く根が張る計算になります。水挿しした場合は、発根直前に土に挿すとよいでしょう。なお、水挿しした場合、水中の溶存酸素がなくなると根が酸欠で褐変して枯死しますので、毎日頻繁に水を取り替えるか、金魚のぶくぶく(エアレーション)をセットして酸素を供給します。

植物生理生態学 〜蒸散と水ポテンシャル

 土面から大気への水の移動を蒸発といいますが、同じ物理現象で、根から入った水が植物体内(道管)を通って、気孔から大気へ水が出ていくことを蒸散といいます。

 水ポテンシャルとは、水の移動の指標となる値で、水は水ポテンシャルの高いほうから低いほうへ移動します。植物の蒸散は、土壌 > 根 > 茎 > 葉 > 大気の順に水ポテンシャルが低くなることで物理現象に従って自動的に水移動することで行われます。植物は気孔を閉じると光合成や呼吸ができなくなるため、気孔を閉じることができず、根から吸水できないと体内の水分が気孔から出ていって萎れてしまいます。発根していない挿し穂は、蒸散を制限するために、出口である葉面積を小さくする必要があります。葉を全部取ってしまうと水の出口がなくなり、発根が促進されませんので、ほどよく葉面積を残すことが大切です。

挿し木に向くもの、向かないもの

 挿し木の容易な植物は、基本的に生育の旺盛な植物です。1年間で1m以上も伸びるような植物は挿し木も容易です。逆に、生育の緩慢な植物は難しく、茎の発達していないロゼット状態植物は挿し木できません。

 挿し木に向かない植物のうち、草本類は一般に種子で容易に繁殖する他、多年草は株分けします。また、木本類は接ぎ木や取り木など、他の繁殖方法で殖やします。

 以下に、挿し木の難易度別に植物例を示しました。それぞれ、初級、中級、上級といったイメージです。

挿し木の極めて容易な植: 

草本[ミント、バジル、ゼラニウム、アイタデ、キク、ヨモギ、アジサイ、ドクダミ、トマト、キダチアロエなど]木本[エルダー、マルベリー、タラノキ、イチジク、ブラックベリーなど]

挿し木の難易度の中程度の植: 

草本[レモンバーム、タラゴン、ホップ、ネトルなど]
木本[ローズマリー、ラベンダー、タイム、オレガノ、セージ、ツバキ、クチナシ、ブドウ、ジャスミン、オリーブ、ブルーベリー、ローズ、サクラ、ウメなど]

挿し木の難易度の高い植

木本[針葉樹類、カンキツ類、フトモモ科、モモ、カキ、クリ、レモンバーベナなど]
向かない植物:ロゼット状態の植物
草本[アブラナ科、セリ科、ショウガ科、ネギ属、ルバーブ、ホウレンソウ、オオバコなど]

挿し木の適期

 挿し木で大切なのは発根です。前年以前に伸びた古い茎は発根率が低下しますので、その年の春から伸びた茎(新梢)を用います。最も成功率の高い時期は、その年の春から伸長した新梢の成熟する7月上旬頃です。一方、挿し木に向かない時期は、萎れの著しい真夏や、休眠して発根の期待できない真冬です。ただし、室内であれば、一年中挿し木は可能です。

挿し木に向く茎の部位

 挿し木に向いている部位は、(節と節の間)の詰まった部分で栄養分を蓄えている部位です。その年の春から伸び始めた茎の下のほうには、発根や側枝の伸長に必要な栄養分も十分に蓄えています。一方、伸びたばかりの若い茎や節間の長い茎は、栄養分の貯えも十分ではないため、挿し木には不利です。

挿し木に用意するもの

挿し穂、挿し床、水、剪定ばさみ(花切狭)

挿し穂(挿し木に使う茎):

 挿し穂の長さは10cm程度がベストで、下部5cmの葉を除去し、上部の葉も基部2cmほどを残して切り、土に挿します。

挿し床(挿す土と容器):

 よりよい発根環境をつくるため、酸素(空気)と適度な湿り気を保ち、無菌で無肥料の土が理想です。栄養分や有機物などがあると微生物もいますので、カビの原因になったり、吸水を妨げたりします。一般には、赤玉土や鹿沼土、バミキュライトなどを用います。赤玉土の小粒はセルトレー向き、中粒は3号ポット向き、大粒はシードパン(育苗箱)に向いています。

ミントの挿し穂の作り方

 ミントは挿し木が容易です。

挿し穂は以下の手順で作ります。

①ミントの節間の詰まった茎を選び、茎の先端から10cm程度の所をハサミで切って挿し穂とする。節間の長い場合でも最低1節以上を地上に、1節以上を土に入るようにする(高温期には挿し穂が萎れないようにすぐに吸水させる)。
②挿し穂の下半分の葉を除去する。
③さし穂の先端部を切り、側枝が出やすいようにする。
④大きな葉はつけ根を2cm程度残して切り、蒸散を抑える。

ローズマリーの挿し穂の作り方

ローズマリーの挿し穂

 ローズマリーの挿し木は難易度が中程度です。ローズマリーのような常緑樹の場合、茎は春から秋に伸長し、冬にはほとんど伸びません。一年前の古い茎からは発根しづらく、伸びたばかりの若い枝も十分に栄養を蓄えていません。昨年伸長した茎は茶色く木化し、今年の春から伸長している茎は緑白色です。この茶色から緑白色への変わり目付近は、節間が詰まって節から新しい側枝葉が出てこんもりしています。この部分の発根率が高いので、この部分が土に入るように挿し穂を調整します。

 挿し穂は以下の手順で作ります。

①今年伸びた茎の基部を10cm程度ハサミで切って挿し穂とする(高温期には挿し穂が萎れないようにすぐに吸水させる)。
②挿し穂の下半分の葉を除去する。
③挿し穂の先端部を切り、側枝が出やすいようにする。
④大きな葉はつけ根を2cm程度残して切り、蒸散を抑える。

ローズマリーの挿し穂の作り方

挿し木の方法

 無肥料の赤玉土に、挿し穂が痛まないように枯れ枝などで穴を開けて挿す。

挿し木後の管理

 挿し木が成功するかどうかは、挿し木の管理にかかっています。その中で最も重要なのが置き場所です。根のない状態ですので、蒸散を抑える必要があります。そのためには直射日光を避け、風に当てないことです。かと言って、お風呂場などのジメジメした所ではカビが生えてきます。ほどよく乾く明るい窓辺(室内)や玄関脇などに置いて、土が乾かないよう毎日灌水し、かつ水がたまらないようにします。水がたまると茎や根が酸欠を起こして腐敗しやすくなります。1カ月くらい経って、容器の底から根が出てきたら、栄養分のある土に植え替えましょう。

 以上、はじめての挿し木のための基本を記しましたが、植物によっても挿し木方法はそれなりに異なります。いろいろな植物のいろいろな部位をいろいろな土に挿し木して、実験しながら殖やすと、成功率は格段に向上します。挿し木に最適なこの季節にぜひ、いろいろと挿し木してみてください。

当協会理事
木村 正典 きむらまさのり
(株)グリーン・ワイズ。博士(農学)。ハーブの栽培や精油分泌組織の観察に長く携わると共に、都市での園芸の役割について研究。著書に『有機栽培もOK! プランター菜園のすべて』(NHK 出版)など多数。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第72号 2025年6月