2025.4.15

エコロジカルガーデニングデザイン

当協会理事

木村正典

HERB & LIFE
ハーブのある暮らしを楽しむ<冬>

Ecological gardening design
エコロジカルガーデニングデザイン

植物を育てる上で、土づくりと並んで重要なのが病害虫対策です。
ここでは、ハーブを育てる上でよく見られる病害虫を解説し、生態系を大切にする
エコロジカルハーバリズムにおけるそれらの病害虫との共存方法を紹介します。

第15回
病害虫との共存
その5.ハーブでよく見る病害虫との共存方法3

question

カンキツの果実がツヤがなく白っぽくなってしまいましたが病気でしょうか? →ダニ 
絵描き虫にやられて困っていますが、対策はありますか? →ハモグリバエ・ハモグリガ 
朝、苗を見に行ったら、茎からハサミで切られたように倒れていましたが何の虫でしょうか? →ヨトウムシ 
ウリハムシに苗を食べられないようにするにはどうしたらよいでしょうか? →ウリハムシ

 エコロジカルハーバリズムでは生態系を大切にして病害虫との共存を図ります。今回はハーブを育てる上でよく見かける病害虫との共存方法第3弾です。

ダニ(クモ綱)

 ダニは昆虫ではなくクモの仲間です。一般にダニと呼んでいますが、植物に被害をもたらすのはハダニやフシダニ、サビダニなど、草食性の限られたダニのみです。体長0.5mm以下と小さいためにルーペを使わないと確認できません。ハダニは多くの植物の葉裏(背軸面)に棲みついて葉を吸汁し、表面から見ると白くかすり状の食害痕が広がります。葉裏を見ると、脱皮した殻などが肉眼でも見られます。葉以外にも、カンキツやナス科などの果実には、サビダニやチャノホコリダニなどの吸汁によって、果皮にツヤがなく白っぽくなって品質を大きく低下させます。

 ところで、クスノキやブナ、ケヤキ、エゴノキ、クチナシ、サンゴジュなど、多くの植物がダニ室をもっています。ダニ室は葉の背軸面(裏面)の葉脈の主脈と側脈の分岐点にあるダニの棲みかです。クスノキの場合、害虫であるフシダニの他、天敵であるカブリダニやナガヒシダニを観察することができます。秋から入り口を狭くしてフシダニを閉じ込めて、春に新葉が出た後に一斉に落葉します。

 ダニは、乾燥を好みますので、植物を育てる場所としては、室外機の近くなど、風が当たるなどして乾燥するところを避けましょう。過湿を嫌うため、葉裏に水をかけるだけでも効果があります。酢とアルコールを等量にトウガラシ、ニンニクなどを漬け込んだストチュウや、デンプン(片栗粉)を1%の割合で溶かしたものを葉裏にスプレーすると極めて効果的です。ただし、食害痕は元には戻りません。食害されない対策も必要で、土着天敵には肉食性のカブリダニやハダニクロヒメテントウなどがいますので、混植による生物多様性を維持することで天敵を誘引することが大切です。

ハダニに食害されたクワクサの向軸面(表面)
背軸面(裏面)
クスノキのダニ室の中にいるナガヒシダニ
サビダニの食害痕のひどいレモンの果実

アザミウマ(スリップス)(昆虫)

 スリップスは、体長2mm以下の小さく細長い昆虫です。翅があって5mくらいは飛ぶものの、基本的には風で運ばれてきます。初夏から秋の間に成虫と幼虫が葉の表面を食害して、白くしてしまいます。食草の異なる数種がいて、ネギなどのアリウムクロップスや、ナス、トウガラシなどのナス科の葉と果実、イチゴやバラなどのバラ科の花、キュウリやゴーヤーなどのウリ科の葉や果実、カンキツ、カキ、ブドウ、イチジクなどの果樹の葉や果実などが、ネギアザミウマやミカンキイロアザミウマ、ヒラズハナアザミウマなどに食害されます。バラなど花では、黄色や白、ピンクの花弁によくつきます。トウガラシやピーマンなどの生長点付近が食害されると、ウイルス感染したかのように葉が委縮します。ウイルスと違って、被害に遭った生長点付近のみが委縮しますので、殺虫した後に新たに出る葉は正常に戻ります。

 黄色もしくは青色に寄ってくる性質がありますので、黄色や青の粘着シートでトラップすることができます。ストチュウや、デンプンを1%の割合で溶かしたものをスプレーするのも効果的です。最近では、赤色LEDでアザミウマの活動を抑制する方法も行われています。土着天敵にはヒメハナカメムシやコモリグモ、ハサミムシ、カブリダニ、タバコカスミカメなどがいますので、混植による生物多様性を維持することで天敵を誘引することが大切です。

エンドウの花弁を食害するアザミウマ(黒く細長い)
ネギアザミウマの成虫(黄色く細長い)

ハモグリバエとハモグリガの幼虫(昆虫)

 ハモグリバエもハモグリガも通称は、絵描き虫。幼虫が葉の中を潜って歩き回って食害し、その跡が白く残って、一筆書きの絵のように見えます。

 ハモグリバエの成虫は体長1〜3mmでルーペで見ないと姿を認識できない小ささです。マメハモグリバエの幼虫はエンドウやインゲンなどのマメ科を、ナハモグリバエの幼虫はツケナやキャベツなどのアブラナ科をはじめ、シュンギクやキクなどのキク科、バジルやミントなどのシソ科、トマトやナス、ジャガイモなどのナス科、キュウリやメロンなどのウリ科、セルリやアシタバなどのセリ科、ナスタチウムなど多くの草本類の葉を食害します。

 ハモグリガは成虫の体長3mmと小さく、幼虫が葉に潜って絵を描きます。カンキツやモモ、カキ、リンゴ、ポプラなど、主として木本類の葉がミカンハモグリガやモモハモグリガ、カキハモグリガなどの幼虫に食害されます。草本類ではネギなどのアリウムクロップス(ネギ属)がネギホソガの、サツマイモなどのヒルガオ科がヒルガオハモグリガの幼虫に食害されます。

マメハモグリバエの食害痕(インゲンマメ)
ミカンハモグリガの食害痕(ウンシュウミカン)
ハモグリバエ対策の黄色い粘着トラップ(ミント)
ネギホソガ(ハモグリガ)の成虫 

 被害に遭っている葉には、一筆書きの両端があり、そのどちらかに幼虫もしくはがいた場合、そこをプチってつぶせば被害の拡大は免れます。ハモグリバエの成虫は黄色に寄ってきますので、黄色い粘着シートでトラップすることができます。カンキツなどは徒長枝の若い葉がやられますので、剪定の際に除去されるケースが多いです。

ヨトウムシ(ヨトウガなどヤガ科の幼虫)(昆虫)

 ヨトウムシ(夜盗虫)は、その名の通り、主として夜に活動して葉を食べる夜行性の幼虫です。成虫はヨトウガを中心に、タバコガなどヤガ科に分類される複数のガで、同じような被害をもたらすこれらの幼虫を総称してヨトウムシと呼んでます。体長4cmになる太いイモムシで、イネ科以外のほとんどの植物を食べる厄介者です。葉脈だけ残して葉を食べ尽くしたり、苗をハサミで切ったかのように切り倒したりして、多くの植物に被害をもたらします。

 対策としては、基本的には捕殺です。ただし、夜行性ですので、昼間に見つかるのは若いうちです。大きなヨトウムシは地面の浅いところに潜って寝ていますので、被害に遭った株元の土を指でほじると出てきます。ガに卵を産ませないように防虫ネットを利用するのもよいでしょう。天敵は、鳥やカエル、クモ類、カマキリ、寄生バチなどで、混植による生物多様性の創出が大切になります。

老齢幼虫の色は緑も茶色もある
ヨトウガの成虫
老齢幼虫の色は緑も茶色もある
コマツナを散歩するヤガの若齢幼虫

ハバチの幼虫(昆虫)

 バラやツツジではチュウレンジハバチ、アブラナ科ではカブラハバチ、スイバやイタドリなどはハグロハバチの幼虫に葉を食べられます。いずれも成虫は体長8〜10mmの小さなハチで、人を刺したりはしません。チュウレンジハバチは1か所にたくさんの卵を産むため、孵化してしばらくは1枚の葉に幼虫が密集しています。この時期に見つけて捕殺すると葉1枚で被害が食い止められます。幼虫は、若いうちは頭が黒く、その後オレンジ色になり、体は緑です。ニホンカブラハバチの幼虫はナノクロムシ(菜の黒虫)とも呼ばれ、モンシロチョウの幼虫を小さくしたような真っ黒なイモムシです。真っ黒でよく目立って見つけやすいので、捕殺します。ハグロハバチはオレンジの頭に水色と黄色のツートンカラーに黒いドットがよく目立つユニークな模様です。

 見つけ次第捕殺する以外では、防虫ネットなどで卵を産ませないようにするか、混植による生物多様性の維持が大切です。

ハグロハバチの幼虫
ハバチの成虫
バラの葉を食べるチュウレンジハバチの成虫
バラの葉を食べるチュウレンジハバチの幼虫
ニホンカブラハバチの幼虫(ナノクロムシ)

ハムシ(昆虫)

 ハムシは幼虫が根を、成虫が葉を食害します。ハムシのうち、ウリハムシは主としてウリ科(まれにアブラナ科)の葉を、クロウリハムシはウリ科やカーネーション、ダイズなどを、キスジノミハムシ(キスジトビハムシ)とダイコンハムシ、ダイコンサルハムシはアブラナ科の葉を、ハッカハムシはミントなどのシソ科の葉を、イチゴハムシはイチゴやタデ科の葉を食害します。また、フタスジヒメハムシは成虫がマメ科の葉や莢を食害する他、幼虫が根粒を食害します。

 ハムシは直射日光を嫌って、晴れの日は葉の裏で過ごすため、葉の裏に光の当たる工夫をすると被害が軽減します。苗の時に、地面にアルミホイルを張って、光を反射させるのがおススメです。

ニホンハッカの葉を食べるハッカハムシ
キュウリの新葉を食害するウリハムシ

当協会理事
木村正典 きむらまさのり
(株)グリーン・ワイズ。NHK趣味の園芸やさいの時間講師。博士(農学)。ハーブの栽培や精油分泌組織の観察に長く携わると共に、都市での園芸の役割について研究。著書に『有機栽培もOK!プランター菜園のすべて』(NHK出版)など多数。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第70号 2024年12月