2023.7.14

美しい地域環境資源を未来へ「つなぐ棚田遺産」: オフィシャルサポーターとしての取り組み

SDGs委員会副委員長

佐藤香

棚田リポート

長野県の東部に位置し、古代から信濃の国の政治・文化の中心地としてにぎわった歴史ある街、上田市。上田市の市街から車で約20分、殿城とのしろという地区に稲倉いなぐらの棚田があります。稲倉の棚田は、ほぼ北東から南西方向へ、30haの広さで標高差260mにわたって展開しています。

棚田を見下ろす位置にある農村交流館へつづく道は、まるでフランスの郊外に迷い込んだような風景。道の両側には白と赤の花びらをもつ満開のリンゴの木が直線状に整然と並んでいて、垣根じたてのワイン用ぶどう畑を思わせます。

紫と白ののぼりが目印の、標高750mに位置する農村交流館に着くと、上田市の街並みが眼下に広がり、その向こうには北アルプス連峰、八ヶ岳連峰、美ヶ原を一望することができます。穂高山脈の奥には槍ヶ岳が見え、真南には蓼科山を望む最高のロケーション。

季節よっては、朝には雲海が、また珍しい気象現象である逆さ霧も見られるとのこと。自然に包まれ、誰もが深呼吸をしたくなる場所です。

山麓の自然傾斜を利用した階段状の水田である稲倉の棚田の中腹には現在3つの古墳が残っています。この古墳は6〜7世紀頃のものといわれ、太古からこの地に人々の営みがあったことを示しています。長い歴史の中で自然を尊重、共生し、この棚田が築かれたと考えられています。

土手は石垣と土壁の混合した巧みな調和により造られていて、山裾から谷あいを登りながら大小様々な形の田んぼが広がっています。この見事な景観から1999年に「日本の棚田百選」に認定されました。

訪問した時期は、田んぼは田植えの準備期間で、土手焼きが終わり春起こしの頃。地域おこし協力隊の玉崎氏に案内していただき棚田を散策すると、一面のたんぽぽ、スギナ、薄荷やアザミなどが見られ、ノイバラも多く自生しています。夏には蛍が舞う清らかな湧き水が流れる水田の周辺には、様々なハーブが見られます。

貴重な農業遺産である棚田を守るため、地域の方々が組織する保全委員会では、様々な取り組みを行っています。棚田米や酒米オーナー制度、農閑期の田んぼ内でのキャンプ、5月には遊びながら田んぼの代掻きをする泥んこASOBIなどなど、1年を通して棚田を体感、体験するイベントを開催しています。

現在、棚田の全体の上部約1/3は森林化しています。今後、近隣の市民の森公園と行きが来できる様、新たに棚田の活用の計画がされています。

雄大な原風景の中に身を委ね、自然に、植物に触れ合うことで、心身ともにリトリートできる魅力ある棚田です。
https://inaguranotanada.com/

JAMHAはつなぐ棚田遺産サポーターとして、ハーブを通して、棚田の魅力をお伝えしていきます。

JAMHAの取り組み

JAMHAでは、生態系を大切にした自然とつながるハーブ栽培やハーバルライフの普及・啓発と、環境に対する意識向上の推進を掲げ活動をしています。

そこで、この度、JAMHAは「つなぐ棚田遺産オフィシャルサポーター」となり、次のような取り組みを検討しています。

1.普及広報支援

HP・会報誌等で「つなぐ棚田遺産」の趣旨、棚田の有する多面的機能を周知

2.地域振興支援

(1)会員を中心としたイベントによる支援

①農作業支援(田植えや稲刈りなどのお手伝い体験)
②観光支援(SNSなどでの紹介、棚田におけるワークショップ開催)
③販促支援(会員などによる農産物購入や購入先開拓)

(2)協会の専門性による支援

①棚田周囲や畦の植栽による新たな特産物や観光資源化の提案と支援(雑草抑制や観賞だけでなく、土壌浸食防止や様々に利用できるハーブの植栽)
②休耕田における稲以外の植栽による新たな特産物の導入支援(放任・自殖を基本とし、混植による生態系を保全する植栽)

まずはぜひお近くの棚田に足を運んでみてください。地域の自然の豊かさと地域の魅力を感じることでしょう。会員さんによる棚田レポート(書式自由)をお待ちしています。

農林水産省「つなぐ棚田遺産~ふるさとの誇りを未来へ~」パンフレットより

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第64号 2023年6月